映画『天気の子』とRADWIMPSの音楽が“現代の大人たち”を解放する 劇中5曲の視点から紐解く

 そして最後に、「大丈夫」。新海はこの曲によってラストシーンを変えたほど、重要な一曲だ。〈「大丈夫?」〉と気にかけてくれる〈君〉に勇気をもらっていた子供の〈僕〉が、今度は〈君の大丈夫になりたい〉と歌う。これは帆高の大人への一歩であり、君の大丈夫になることは、まさに〈愛にできること〉の一つのように感じた。また、冒頭の〈世界が君の小さな肩に 乗っているのが 僕にだけは見えて〉という歌詞の〈君〉は、陽菜を指すようでいて、世間という荷物を負った大人たちのことでもあるように聴こえる。「大丈夫」もまた、そんな大人たちを解放してくれる歌なのだと思う。

 ここまで紹介した5曲全てに〈君〉や〈僕〉という言葉が登場する。これらの曲が登場人物たちの“台詞”となって物語を説明し、物語もまた曲を説明するような関係にある。『天気の子』は新海誠とRADWIMPS、そして何百人というスタッフチームの融合により生みだされた、素晴らしい総合芸術だった。そして『君の名は。』が大衆的な直木賞作品なら、『天気の子』は純文学的な芥川賞作品のように感じた。笑いあり泪あり、エンターテインメント性に溢れている点は同じだが、新海は本作ではっきりとした結末を用意した。これにより、観客である我々はただ楽しいだけではなく、「問い」を与えられる。「私はこう思う」と賛否両論し、語りあえる。だからこそ、『君の名は。』よりも、これは自分のための映画だと思う人も多かったのではないだろうか。

 「大人になるってなんだろう」——鑑賞中何度もこの「問い」が浮かんだ。混沌として始まった令和の時代。 私たちは誰かの大丈夫になれているか。主人公たちの純粋さは、大人たちにとって、〈醜いかい それとも綺麗かい〉。

■深海アオミ
現役医学生・ライター。文系学部卒。一般企業勤務後、医学部医学科に入学。勉強の傍ら、医学からエンタメまで、幅広く執筆中。音楽・ドラマ・お笑いが日々の癒し。医療で身体を、エンタメで心を癒すお手伝いがしたい。Twitter

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