南條愛乃、歌詞の根底にある“つながり”の大切さ 作詞曲から音楽活動への思いを読み解く

 歌を歌うのは、声優デビュー当時からの憧れだった。「アーティストとしてソロデビューしたい」と打ち明けたのが2010年頃。待てど暮らせど何も動かず、最後には事務所で泣きながらその想いを訴えたという南條愛乃。ようやく動き出した制作活動は、順風満帆ではなかったものの、応援してくれる人たちのために、何があっても頑張りたかったと当時のブログには綴られている(参考:南條愛乃オフィシャルブログ)。そして2012年12月12日、南條愛乃はミニアルバム『カタルモア』で、念願のソロアーティストデビューを果たす。

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 当初より、“親戚や近所にいそうな声優”をコンセプトに音楽活動をスタートした南條。ファンとアーティストという枠組みにこだわらず、ひとりの人間同士として同じ時間を共有するという信条は、今なお揺るがぬところだ。また、ソロデビュー当時から続く作詞活動も順調にフィールドを広げており、八木沼悟志がプロデュースするユニット「fripSide」をはじめ、親しい間柄の声優・飯田里穂や楠田亜衣奈にも歌詞提供をするまでに。いまや作詞家とも称せるその力量は、彼女が7月24日に発売する新アルバム『LIVE A LIFE』でも存分に感じられる。

 話を戻して、『カタルモア』表題曲にはこんなフレーズが登場する。〈ねぇ、もっと話をしよう/君に伝えたいことが、ある。〉。彼女の作詞曲ではないまでも、同楽曲こそ“同じ時間を共有したい”というメッセージがこれ以上ないくらいに伝わってくるものだ。作品タイトルが、自身の造語「カタルモア」(=語る+more)だと解説すれば、そのメッセージもより理解しやすくなるだろうか。この想いは現在の活動にも大いに受け継がれており、実際に彼女の歌う楽曲は、実生活で芽生えた感情や経験を歌ったものがほとんどである。

 南條が『カタルモア』以降に発売したアルバムは全3作。1stアルバム『東京 1/3650』では、声優デビュー以来の10年間にわたる上京生活を振り返り、2ndアルバム『Nのハコ』では彼女の存在を“ハコ”に見立て、旧知の作家陣による客観的な視点から、“南條愛乃”をテーマにした歌詞を募るなど、2作品続けてパーソナルな側面を掘り下げた。そこから発表したのは、“30代の参考書”がテーマの3rdアルバム『サントロワ∴』。今度は自身と同じ30代の人生を題材に、未来に向けた明るい希望を歌うなど、作品で対象とする枠組みを広げる形となった。

 いずれにせよ、南條の音楽作品における起点は自身の存在にあり、ほとんどの楽曲で題材となっているのは、彼女が過ごす何気ない日常や、そこで生まれる喜怒哀楽の感情だ。なかでも南條による作詞曲は、自身の経験や実生活、赤裸々ともいえる感情を描く傾向が強く、そこからは彼女が優れた感受性を持ち、多くの出来事や心情に共感を抱いていることが存分に伝わってくる。

 例えば、『東京 1/3650』収録曲「Dear × Dear」では、大切な友人とのひとときをテーマにしている。友人とのおしゃべりといえば日常のありふれたワンシーンだが、南條は〈名前で呼ぶたび 嬉しくなるよね 心の距離が縮まる〉と、その光景を優しい目線から描写する。

 そこから〈10年先も 20年先も友達だったらいいな/ほんのちょっとだけ 寂しくなったのは秋風のせい〉と、少しセンチメンタルな気分を見せるからこそ、直後の〈またすぐに会うと わかっているけど 次の約束も決めとこう〉という“いたいけ”なやり取りにも、自ずと心を揺さぶられるのだろう。普通であれば、この感情の動きにたとえ気付いたとしても、そっと胸のうちに閉じ込めてしまうことが多いはずだ。その想いに気付かせてくれる南條の歌詞は、聴き手にとって非常に意義深いものだと思われる。

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