V系シーンにおける“ファンサービス”への考え方 『有吉ジャポン』から見えた最新事情

 ただ、この番組を観て、ヴィジュアル系の現状に驚いた人へ伝えたいことが2つある。まず一つ目は、ヴィジュアル系バンド全てが、このようなサービスを行なっているのではないということ。近年、ファンサービスに対する考え方は、シーンの中でも二極化している。「もっと身近にバンドを感じてほしい」「もっとファン1人あたりの使う金額を増やしたい」「音楽以外でも稼げる仕組みを作るべき」といった考え方でファンサービスにさらに力を入れるバンドもいれば、「ファンとは一定の距離を取るべき」「バンドの世界観が壊れるようなことはしたくない」「音楽以外に力を注ぐ時間がもったいない」といった考え方のバンドも一定数いる。そして、「アイドルではないのだから音楽で勝負してほしい」「音楽以外の活動には興味がない」と、後者の考え方を支持するバンギャも多い。音楽性、衣装やメイクなどと同じように、活動の仕方もバンドによってさまざまだからこそ、たくさんのバンドの中から、自分の考えや応援の仕方に合ったバンドを選ぶことができる。それがヴィジュアル系を追いかける楽しさでもある。

 そして二つ目は、ファンサービスに力を入れているバンドも、「ファンサービスだけ」を頑張って売れているわけではないということ。今回取り上げられた0.1gの誤算は、今年3周年を迎えた若手。結成当初、メディア露出はほぼゼロだったにもかかわらず、彼らの活動や宣伝手法はSNSやクチコミで話題を呼び、Zepp DiverCityまでのし上がってきた。たとえば、ショッピングモールや路上での無料ライブ映像をTwitterにアップし、真昼間に暴れるバンギャの姿で話題を呼んだり、学割チケットや、47都道府県ツアーでの遠征割(県を跨いで遠征してきたら2,000円キャッシュバック)を導入したり、さらには0.1gの誤算に対する“アンチツイート”を見せると、チケット代が無料になるアンチ限定無料ワンマンの開催など。他のバンドにはない発想力で戦略的な話題作りに成功し、時には炎上しながらも集客を伸ばしてきた、売れるべくして売れたバンドだ。さらに、シーンを皮肉るような尖った歌詞の楽曲や、一体感のあるライブ、個性的なメンバーのキャラクターなど、アーティストとしての魅力ももちろんある。番組でインタビューに答えていたバンギャたちも、決して「距離が近いから」「ファンサービスしてくれるから」というだけで、お金を落としているのではない。0.1gの誤算の音楽性や考え方、バンドそのものを支持した上で対価を支払っているのだ。

 衰退しつつあるという声もあるヴィジュアル系。だからこそ、バンドのカラーに合った活動方法を貫き、シーンの活性化に繋げていってほしいと思う。

■南 明歩
ヴィジュアル系を聴いて育った平成生まれのライター。埼玉県出身。

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