『ようこそジャパリパークへ〜こんぷりーとべすと〜』インタビュー

大石昌良が振り返る「ようこそジャパリパークへ」のすべて 「すごいアニメドリームだった」

 説明以上の情報を与えるのが音楽だと思ってる

――大人の胸に響いたのは、メロディやアレンジはもちろん、歌詞の部分も大きいですよね。〈けものは居ても のけものは居ない〉っていうフレーズにグッときた大人は多かったと思います。

大石:いろんなところで言われてますね。ありがたいです。これもいつもどおりマイペースに作ったんですけど、僕、この頃から歌詞のスランプがないんですよ。あと、この頃から、紙やワードに歌詞を書かなくなってるんですよね。それはどういうことかというと、ほとんど頭の中で全部考えてるっていうか、組み合わせていってて。〈けものは居ても のけものは居ない〉も運転中に思い浮かんで、ずっと覚えてたみたいな感じだったんです。そういうふうにパソコンとかに向かって作詞作業するっていうことがこの頃からなくなって、そこからスランプがなくなった感じだったんですよ。

――文字に起こさないってことですよね、仮歌を入れるまでに。

大石:これは僕の持論で文字にしちゃうとビジュアルでとらえちゃうんですよ。それはリリックじゃないっていうか。言葉として発した時、メロディに乗った時、音になった時に初めて力を発揮するのが歌詞だと思ってて。アニメの製作の方々に「この歌詞をこういうふうに変えてください」って言われることがあるんですけど、たまにリリックじゃなくて本当にワードというか、文章になってる時があるんですね。でもそれはきっと、音になった時に力を発揮しないし、つぶれちゃうんですよね。説明としてはいいけど、その説明がやぼったく感じたりするし、僕は説明以上の情報を与えるのが音楽だと思ってる。そこの整合性を説明するのはごい難しかったりするんですけど、僕は「文章じゃないんだよ。歌詞なんだよ」っていうことをこの20年くらいずっと主張し続けてきて。それが花開いたのが、もしかしたら「ようこそジャパリパークへ」なのかなって思ったりしますね。この曲、きっと字面で見た人はあんまりいないと思うんです。〈けものは居ても〉の〈居て〉は居住の居の字だって知ってる人はそんなにいない気がして。歌詞カードを見ていなくても、音で聴いてそういう印象を与えてるっていうことは、やっぱりキャッチフレーズとしてすごくよかったんだろうなって思います。音と言葉のシンクロの仕方でどれくらいのパワーが出るかっていうのを、ずっと歌うたいとして研究してきた、その成果が出たのかなって。

――シンガーソングライターとしては珍しいですよね。ジェイZとか、ラッパーの方では聞いたことはありますけど。

大石:そっちの感覚にもしかしたら近いのかもしれないです。言っちゃえばダジャレですからね。韻を踏んでると言うよりただのダジャレというか。でも、そういうキャッチコピーみたいなものがたくさんあるから、メロが全部サビみたいっていうだけじゃなくて、たぶん歌詞も全部サビっぽいのかなって。まあ、これは自己評価ですけど、それはあるかもしれないですね。

――〈ドッタンバッタン〉や〈すっちゃかめっちゃか〉のような擬音や〈がおー〉のような動物の鳴き声は確かに声に出してからじゃないと出てこないかもしれないですね。

大石:ですね。あと、絶対に文字に起こしてたらやらなかっただろうなっていうのは〈Welcome to ようこそ〉。これ二重の意味じゃないですか。なんで「ようこそようこそ」って言ってんの、みたいな。だから文字で見たら僕たぶん直しちゃうと思うんですよ。でも、音に出して、サビ頭はこれで正解だと思って出してる。音だから楽しかったっていう。

――子どもが一番最初に真似する部分ですよね。早口ですし。

大石:やっぱり音になるからこそ面白いみたいなところはあるかなと思いますね。すごくメロディと密接で、なおかつ、ただの言葉じゃないっていうところを意識していつも作ってますし、この曲に関してはそういう意味ではよくできたかなと思います。

サーバルキャットの爆誕はひとつの魔法を生んだ

――では、言葉である台詞の部分はどう考えていましたか?

大石:僕がデモをキャストの皆さんに渡した時は、あそこは空欄だったんです。で、その頃は、まだ『けものフレンズ』のアフレコに入ってなくて、キャラクターがまだ決まってない状態だったんですよ。

――それはどうしたんですか? キャラソンとしてキャラクターになって歌える人と、地声に近い感じで歌っちゃう人がいるんじゃないかなって思うんですけど。

大石:それにはデメリットとメリットがあって。デメリットに関して言うと、おっしゃったとおり、地声で歌ったり、キャラを考えていかなきゃいけないっていうのはあったと思うんです。でも、メリットとしては、特にサーバル役の尾崎(由香)さんは、フレッシュな感じや天真爛漫な感じっていうのが、キャラクターのサーバルちゃんの性格と直結してるところがあって。とてもピュアな方なので、そのへんは逆にキャラを作りすぎる前にやってよかったかなというふうに思いましたね。ていうのも、後に、レコーディングをどんどん重ねるにあたって、他のキャラクターも演じ分けしてるので、たまに『けものフレンズ』に帰ってきてサーバルキャットの役でレコーディングしてもらう時に、ちょっとしたキャラブレが起きたりするわけですよ。それを、内田ディレクターと「ちょっとかわいすぎる。子どもっぽくなりすぎてるから、もう少しサーバルちゃんに寄せて」とかってディレクションしたりしたんですね。キャラがブレるとか関係なく、尾崎さん自身がサーバルキャットでいられた奇跡の瞬間が最初のレコーディングの瞬間だったのかな、と。サーバルキャットが爆誕した瞬間というか。あれがまたひとつの魔法を生んだのかなって思いますね。他のキャラクターもみんなそうでした。

――どうぶつビスケッツ×PPPの8人のディレクションは大変だったんじゃないですか。

大石:苦戦する方は苦戦していましたし、普通にすらすらとレコーディングされた方たちもいらっしゃいましたけど、このセッションがレコーディング初めてという方が圧倒的に多かったんですね。それもどこかのパークのオープニングキャストみたいな感じがあって、また良かったのかなって思いますね。

——アレンジのアイデアの話がありましたけど、レコーディングの現場でも、みんなでアイデアを出し合って作っていったんですね。

大石:そうですね。皆さん手探りのところを、この楽曲でたくさん試してくれたっていうのがひとつのパワーになったかなと思います。キャストの皆さんからも、こういうのどうですかっていうアイデアをたくさんいただいたりしたので、僕が全部決めるんではなくて、皆さんのアイデアありきの「ようこそジャパリパークへ」だったのかなと思います。しかも、それは作り手だけじゃなくて。たつき監督が提案した隠れた世界の終末論や吉崎先生の作品・動物愛、一見するとIQが低い曲のように見えて、意外と中身はインテリジェンスなことをやっているアレンジメントも含めて、ユーザーの方が深掘りして楽しんでくれた。手作りの中で生まれてきた流行り物、トレンドだったので、ユーザーさんと一緒にみんなで作り上げた感じがありますね。

関連記事