山本彩から感じた、ソロ活動への覚悟と無限の可能性 『I’m ready』ツアーを振り返る
「イチリンソウ」は、グループを飛び出し一人で歩んでいく決意、覚悟を道の脇に咲く一輪草に重ねた山本作詞・作曲の楽曲。桜以外で春を歌った彼女の鋭い着眼点が光る1曲である。シングル『イチリンソウ』には、スウェディッシュポップの「君とフィルムカメラ」、パンキッシュな「Are you ready?」と今の山本彩を多角的に映した楽曲が収録されており、すでにライブにおいても新たなアンセムとなっている。それら2曲に比べて、ミディアムナンバーの「イチリンソウ」は山本が自身の心境を歌った楽曲であり、誰かの背中を押す楽曲にもなっているということを、ステージをじっと見つめるファンの姿を見て、改めて気づかされた。
2016年より変わることのないバンド・チームSYメンバーの仲もより強固なものになっている。本編終盤のバンドセッションで、山本がバンドマスターとして指揮を取る一幕は共に活動してきた3年の月日を感じさせる。ギター・草刈浩司とベース・奥野翔太が演奏中にイチャイチャしているのを発見し、それを山本がMCで冗談交じりにイジるのも、バンドとしてそれぞれが打ち解けた関係性だということが伝わってくる。
「楽しそうな皆さんの姿を見て、私はライブが心の底から楽しいと思えています」ーーアンコールに山本はこう話していた。不安に押し潰され、ライブをすることを楽しめなくなった時期があったという山本だったが、今回のツアーを経て辿り着いたのが「楽しい」という、初めて音楽を聴いた時に覚える原点のような答え。そう思えるのも、観客と距離の近いライブハウスを巡り、一人ひとりに音楽を届けようと、“1年目の新人”として再スタートを決めた結果だ。
〈また次の春が来たら あなたに会いたい/その時は今よりも 強くなった僕だ〉
「イチリンソウ」ラストの一節。来年の春、彼女は我々にどのような姿を見せてくれるのだろう。新たなスタートを切った山本の未来には、無限の可能性が詰まっている。
■渡辺彰浩
1988年生まれ。ライター/編集。2017年1月より、リアルサウンド編集部を経て独立。パンが好き。Twitter