King Gnu「The hole」、みゆはん「恋人失格」……観終えた後に余韻残すドラマ風MVが増加

 そしてもう1つは、横浜流星が出演したことでも話題になっている、みゆはんの「恋人失格」。女子から絶対的な人気を集めるシンガーソングライター・コレサワが自身の楽曲「たばこ」のアンサーソングとして書き下ろした同曲は、同棲していた恋人との別れが男性目線から綴られている。

みゆはん 「恋人失格」  【Music Video】

 女性目線の「たばこ」のMVは、部屋にひとりぼっちになってしまった彼女の姿がアニメーションで描かれていたのに対し、「恋人失格」のMVでは彼氏役を演じる横浜が、2人で住んでいた部屋から出て行ったその後が映し出されている。〈だけれどやっぱ泣かないんだね/そういうところが嫌いだった〉という歌詞のとおり、「恋人失格」の冒頭のシーンで彼女はうつむいているだけだったが、「たばこ」のMVは彼女が感情を露にして大泣きしているシーンが印象的であるなど、この2作品を比べると恋人同士の「すれ違い」が浮き彫りになってくる。どちらか片方のMVだけでも充分に楽曲の世界観は伝わってくるが、彼女と彼氏それぞれにスポットを当てた楽曲とMVが作られたことで、この恋愛にさらに奥行きやリアリティが生まれている。復縁ソングを希望する声も上がっていたが、まさに続きが観たくなるほど感情移入してしまう作品だ。

 一口にドラマ風MVと言っても、観る人に様々な解釈を与える「The hole」と、続編になっている「恋人失格」の違いからも分かるように、その表現方法や魅力は様々。今やMVは、楽曲のプロモーション映像というよりも「独立した映像作品」としての色合いが濃くなっている。これは、YouTubeで音楽を楽しむことの日常化、優れたMVを表彰する音楽アワード「MTV VMAJ」の盛り上がりなども影響しているのかもしれない。ドラマを超えるドラマが誕生するMVの新潮流は、今後さらに音楽・映像業界を面白くしていきそうだ。

■渡邉満理奈
1991年生まれ。rockin’on.com、Real SoundなどのWEB媒体を中心にコラム/レビュー/ライブレポートを執筆。趣味は読書でビートたけし好き。

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