ペンギンラッシュが体現する新たなポップミュージック “多様性”と“結合”によるJ-POPの可能性

 古今東西のあらゆる音楽に瞬時にリーチできる現在においても、いちばん新しいポップミュージックを求め続ける理由とはつまり、“この時代の気分を、音楽を通して実感したいから”だと思う。そして、いま現在のポップミュージックにおける最も大きなポイントとは、“多様性”と“結合”だと筆者は考えている。

 ここから話はさらに大げさになるが、2010年代はあらゆる場所、あらゆるレベルで分断が進んだ時代だった。経済格差、人種や移民の問題、反グローバリズムに象徴される様々な問題は、人々を区別し、分け隔ててしまったのだ。「何もそんなめんどくさいことを引き合いに出されても」と思うかもしれないが、この10年間における分断のスピードは本当にすさまじく、それが想像以上の深刻さで我々にダメージを与えることは、SNSをちょっと見るだけでもはっきりとわかるはずだ。

 こんな時代において、ポップミュージックが果たすべき役割とは何か? それはやはり、進んでしまった分断を少しでも解消し、多様性を受け入れ、新しい結合を産み出すことではないだろうか。たとえば『Black Panther: The Album』(ケンドリック・ラマー)、『WHEN WE ALL FALL ASLEEP, WHERE DO WE GO?』(ビリー・アイリッシュ)、『Father Of The Bride』(Vampire Weekend)もそうだが、現在の優れた音楽作品には必ず、“多様性”と“結合”が含まれている。

 ーーと、そんなことを考えたのは、名古屋出身の4ピースバンド・ペンギンラッシュの新作となる2ndアルバム『七情舞』を聴いたことがきっかけだった。「私たちのそれぞれのルーツであるジャズ、ファンク、フュージョンや日本の歌謡曲(?)など、ペンギンラッシュを通して私たちなりのジャンルを作ってみようと思いました」「曲としての強度、音へのこだわり、言葉遊びを大切に、前作(1stアルバム『No size』)より密度の高い作品にしたいと制作した結果、現代的でありながら私たちのルーツを見せられるような作品になったと思います」(望世/Vo&Gt)という本作は、幅広いジャンルを自由に行き来する多様性を感じさせつつ、それをナチュラルに結合させることで、独創的なポップミュージックを体現しているのだ。

 これまでのペンギンラッシュのキャリアを簡単に説明しておこう。高校の軽音楽部で知り合った望世と真結(Key)を中心に結成され、2017年にサポートミュージシャンの浩太郎(Ba)、Nariken(Dr)が正式加入し、現在の体制となった。

 その基本的なコンセプトは“新たなJ-POPの開拓”。ギターロック、ジャズ、ファンク、歌謡曲……メンバー個々のルーツミュージック、プレイヤーとしての個性を融合させながら、独自のポップミュージックを生み出すべく、意欲的なトライ&エラーを続けてきた。その最初の成果と呼ぶべき作品が、1stアルバム『No size』。“カタチがない”という意味のタイトルが示唆する通り、本作は、すでに存在するフォーマットに当てはめるのではく、“自分たちが出したいサウンド、届けたい歌をどう表現するか?”という意思の貫かれた作品となった。そして、その方向性をさらに推し進めたのが、新作『七情舞』というわけだ。

 まずはリードトラックの「悪の花」を聴いてみてほしい。ドクター・ジョン、The Metersなどが多用したニューオリンズ発のリズム“セカンド・ライン”をベースにしたこの曲は、ファンク、ジャズのエッセンスをたっぷりと感じさせながら、幅広い層のリスナーに訴求できるポップスへと昇華したナンバー。音数を抑え、メンバーそれぞれの演奏がクリアに際立ったサウンドメイク、しなやかなグルーヴを感じさせるメロディを含め、きわめて現代的なプロダクションも印象的。“都市の遊牧民”をイメージさせるMVの映像も、音楽的な定住を良しとせず、新たな価値観を創出しようとするバンドの姿勢につながっていると思う。

ペンギンラッシュ - 悪の花 (Official Music Video)

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