山猿、“独り”を歌うことで“愛”を届ける アルバム『あいことば6』を分析
アルバムのリード曲「ひとりぼっちの夜に」では、ピアノを基調としたセンチメンタルなサウンドに乗せ、〈ひとりぼっちでいる夜に君色に染まっていく〉と歌う。木﨑太郎(祇園)、天野はなが演じるミュージックビデオでは、すれ違っていく2人の思いがより鮮明に描かれている。そこにあるのは互いに思い合う独りの時間。そして、アルバム4曲目の「孤独」も、そのタイトルが表すように臆病で無力な自分が悲しみと対峙し彷徨うありのままの姿を映している。
2011年、山猿は地元・福島県会津で震災を経験し避難所生活を余儀なくされた。「3090~愛のうた~」はその時期に抱いた身近な人への愛の言葉を綴った楽曲であり、山猿の代表曲の一つに数えられる。今も会津に拠点を置き、東京と行き来する活動スタイルを続ける理由は、まっすぐな福島愛があるからだ。
上京した人間が地元に帰った時に安らぐ感覚は、多忙な生活からの解放、離れていた家族との再会……人によって様々な背景があるはず。そこに表裏一体として存在しているのは、誰もが心の奥底に秘めている“独りの自分”。恋愛に、夢に、生き方に悩む時、人はたとえ渋谷の喧騒のど真ん中にいても独りだ。現実に押しつぶされそうになりながらも、もがき壁を乗り越えた先にある答えは、至極単純なものだったりする。その答えに背中をポンッと押してくれる、寄り添ってくれるような曲。『あいことば6』は、独りを歌うことで繋がっている、そばで見守っているという、山猿の根底にあるテーマを強く打ち出している。「ひとりぼっちの夜に」で綴られている〈I'll always be with you そう it’s gonna be all right〉という歌詞も、そのメッセージの一つの表れだ。
山猿は熱い夏を越えた先の11月より『山猿だよ!あなたの街で赤い実ハジケちゃってもいいですか?TOUR~2019~』を開催する。彼のライブには、家族連れや恋人、友人同士でのファムを多く見かける。会場に足を運ぶ一人ひとりの笑顔の裏には孤独を抱え、山猿の歌を励みに日々を生きてきた現実があるのかもしれない。そんなさみしがりやたちに、山猿はあいも変わらず愛を歌い続ける。
■渡辺彰浩
1988年生まれ。ライター/編集。2017年1月より、リアルサウンド編集部を経て独立。パンが好き。Twitter
■リリース情報
『あいことば6』
発売中
<初回生産限定盤(2CD +三方背ボックス)>
価格:4,000円(税込)
<通常盤>
価格:3,300円(税込)
収録曲:
1.ひとりぼっちの夜に
2.ツギハギ
3.未来はアート
4.孤独
5.skit ~とある日の着信~
6.メンヘラ
7.SNSじゃ写らない所で
8.slang
9.じゃあね…
10.I'm fed up
11.相棒2
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