6thアルバム『アンドロイドガール』インタビュー
DECO*27が語る、新会社設立で拡張したボカロPとしての未来「文化は人がいないと生まれない」
盟友・wowakaとの別れ
ーーそこには今話してもらったボーカロイドシーンへの気持ちも関係しているんですか? ボーカロイドプロデューサーの方々の数は少なくなったとしても、このシーンから出てきた人たちの曲は、今や日本のポップミュージックに欠かせないものですし、最近だとバーチャルYouTuberの方たちもそうですが、好きな曲としてボカロ曲を挙げる人たちは、相変わらず本当に多いです。
DECO*27:それは本当に嬉しいことで。VTuberの方たちがカバーを上げてくれるのもそうですし、TikTokで曲が使われているのも、すごく嬉しいんですよ。普段ボカロを積極的に聴かない子でも、色々なコンテンツを通してボカロ曲に出会ってくれて、そこから原曲を聴いてもらえたら最高だと思うので。ボーカロイドシーンにはいい曲を作る人はいっぱいいますから、その魅力が広がってくれたら嬉しいです。そもそも、「ボーカロイドシーンに人がいなくなった」というのは、その人たち自身はますます活躍していても、自分自身で歌うようになったり、プロデュースワークに回ったりして「表現方法が変わった」ということで。それは素晴らしいことですけど、同時に僕個人としては、ボーカロイドを通して楽曲を表現する人が少なくなっているのは寂しいな、とも感じるんです。それこそ2010年頃だと本当にたくさんのライバルがいて、みんなで切磋琢磨しあうような雰囲気があって、僕もあの環境があったからこそ「モザイクロール」のような曲を作れたと思うので。
ーー今は米津玄師名義で活動しているハチさんを筆頭に、様々な人がボカロシーンに集まっていたからこそ、DECO*27さんも自分の音楽を突き詰めていけた、と。
DECO*27:もちろん、(2017年の初音ミク10周年に寄せて制作された楽曲)「砂の惑星」も最高だな、と思いました。僕とは表現の仕方が違うだけで、あの曲も言いたいことは同じだと思うんですよね。
ーー同じくその頃ボカロPとして活躍していた方というと、つい先日訃報が報じられたヒトリエのwowakaさんの存在も大きかったんじゃないかと思います。DECO*27さんとwowakaさんは、まさに戦友と言えるような間柄だったと思いますが、訃報を受けて音楽に向き合う気持ちに変化があったように感じますか?
DECO*27:変に背負おうという気持ちはないですけど、曲を作っていると、どうしたって彼の顔は浮かんできます。なので、まったく影響がないと言えば嘘になりますね。僕らはお互いに切磋琢磨してきたし、彼はボーカロイドシーンだけでなく、日本の音楽シーンに影響を与えた人だと思いますし。でも、彼がやれなかったことは、僕にできることではないんです。だから、「僕は僕で自分がやれることをしっかりとやろう」と、改めて思いました。それが僕にできることだと思っています。
ーーでは、アルバムに話を戻して、3曲目の「スクランブル交際」はどうですか?
DECO*27:「スクランブル交際」は、「チャンバラジョニー」と「罪と罰」のような曲の雰囲気を合わせたらどうなるかな、と思って制作した曲でした。この曲のサビの最後の〈「じっとしてって言っといたじゃん」〉という歌詞は、僕が大好きなORANGE RANGEのような雰囲気を出したいと思った部分です。ORANGE RANGEの音楽って、曲も歌詞も楽しんでいることが伝わってくると思うんですよ。あの感じは、僕も絶対忘れちゃいけないな、と思っていて。
ーー確かに、ORANGE RANGEの楽曲は、言葉遣いも遊び心に溢れていますよね。
DECO*27:そうなんですよ。固い頭で考えてしまうと、日本語の細かい意味まで合ってるか、合ってないかと考えてしまいがちですけど、「音楽なんだから、別にいいんじゃないか」と思うんです。僕も歌詞を書くときは、「遊び心は忘れないようにしたい」と思っていますね。
ーー今回だと「乙女解剖」はまさにそのフレーズの妙を感じる曲のように思いました。一度聴いたら忘れられない、耳に残るフレーズと言いますか。
DECO*27:「乙女解剖」は、最初に〈乙女解剖であそぼうよ〉というフレーズができて、それが僕も頭から離れなくなってしまったんです(笑)。
ーーこういうフレーズは、どんなときに浮かぶことが多いんですか?
DECO*27:僕の場合、人と会っているときに浮かぶことが多いですね。人と喋っていて印象的な言葉を聞いたら、それがずっと頭に残ったりします。そこから音に変わっていく感じですね。たとえば、誰かと飲みに行くときも、僕は隣のテーブルの会話がずっと気になってしまうことがあるんですよ。「乙女解剖」の場合は、その言葉自体を聞いたわけではなくて、乙女っぽい、女の子っぽい言葉と、解剖に近しい言葉が印象に残って、その2つがくっついて「乙女解剖」になりました。今回のアルバムにはemonさんとRockwellが参加してくれていますけど、両者で新しさと懐かしさの融合を表現してもらいました。2人と一緒にやった初めての曲ですね。これが一番、アレンジも時間がかかったような気がします。
ーーもともとクリエイターとしても、違ったタイプの方たちですしね。
DECO*27:その2人の魅力を混ぜてみたい、と思ったんです。
ーーこの後、中盤の楽曲……たとえば「シンセカイ案内所」はアーバンな雰囲気になったりしていて、アルバム全体に魅力的な起伏が生まれていますね。
DECO*27:ありがとうございます。「シンセカイ案内所」は、歌詞だけだと「何回も死んで送り出す」という内容の曲ですけど、もうひとつの意味として、「新しいDECO*27の世界に案内したい」という気持ちを込めた曲です。この曲を聴いてもらえれば、「もしかしたら、次の作品はロックじゃないかもよ?」という風にも取れると思うんです。そういう意味でもアルバムに入れたいと思った曲でした。曲自体はできるのが早くて、僕が仮アレンジしたものをRockwellに送って、3日ぐらいで音源が返ってきて……そこでほぼ最終アレンジが出来上がった形です。『GHOST』における「妄想感傷代償連盟」のような立ち位置というか、「過去のどの曲にも当てはまらないものにしたい」と思っていましたね。「妄想感傷代償連盟」の曲のテイスト自体は、今回のアルバムだと「人質交換」に活きていますけど、「シンセカイ案内所」はサウンド的にも前作にはなかった新しい要素が出た曲になったと思います。
ーーなるほど。
DECO*27:次の「サイコグラム」は、重くて病んでいる方向に振り切った曲です。それだけだとただ暗いだけの曲になってしまうので、サビの前半のコード感をあえて明るくしています。今回のアルバムはどの曲も「生と死」をイメージしていて、その「生」は「性」でもあるんです。なので、「乙女解剖」も「生と死」だけではなく「性」の要素が含まれているし、「モスキート」でもエネルギーを吸うイメージが出てきていて。僕はもともと、そういうテーマが好きなんですよ。たとえばマンガでも、人間が欲でドロドロとしていったり、性によって人間関係がこじれていったりしてしまう作品が好きで、そういう人間の汚いところも好きなんです。でもそれって、日常生活ではなかなか見えないものじゃないですか。だから、それを曲で綺麗にパッケージングして届けたいな、と思っていました。
ーー音楽のようなアートだからこそ、それが表現できるということですね。
DECO*27:そうですね。それに今回、「これってミクだからこそできることだな!」とも思いました。というのも、ミクの声じゃなかったら、もっと生々しいものになりすぎてしまっていたと思うんですよ。実際、制作段階で僕が仮歌を入れた曲がいくつかあるんですけど、自分で歌っていて「きついなぁ」と思ったりして(笑)。