『GOLDEN BAD』インタビュー

GRASAM ANIMAL、『GOLDEN BAD』で辿り着いた“解析不能”なロックンロールの魅力を語る

なんでも平均化されているからこそ突出した存在でありたい

ーーなるほど。では、ここから2ndアルバム『GOLDEN BAD』について聞かせてください。1stアルバム以降、曲が書けなかった時期があったそうですね。

木屋:はい。前回のアルバムを作ってから、半年くらいは新しい曲ができなくて。サボっていたわけではないんですけどね。やり方を変えたほうがいいなと思って、DAWソフトを購入したり、機材を一新して。いままではギターで作ることが多かったんですけど、ピアノから作ってみたり、いろいろなやり方を試して。それでも曲ができなかったから、ちょっと思い詰めちゃって。

ーーその状態を脱出したきっかけは?

木屋:事務所の人に「CMのコンペに参加してみない?」と言ってもらったことですね。軽い気持ちでやってみたらワンコーラスできて。「やっぱり俺は曲を作らないとダメな人間だな」と思ったし、その後、「LOVE OIL」の制作に入ったんです。「もうダメだ」と思いながらも、ドラムを貼り付けたり、歌詞を書いたり……ちょっと記憶がないんですけどね、その頃のことは。

ーーそれくらいキツいスランプだったと。

木屋:そうかも。まあ、これからアルバムを聴く人に向けて「キツかったです」って言うのもイヤなので、「楽勝でした」と言っておきます(笑)。

ーー(笑)。「LOVE OIL」自体、すごくポップなロックンロールですからね。「HERO」はブルースのテイストを取り入れたトラックとラップを交えたボーカルを軸にしたナンバー。まさに初期のBeck的な雰囲気ですね。

木屋:「HERO」はギターの熊谷が持ってきた曲なんですよ。さっきもBeckの話をしましたけど、バンドのなかでそういったイメージは共有していたので。一緒に作っているなかで、そういう方向に流れていったのかなと。


ーー「Y字路より」はエキゾチックなムードの楽曲。この曲にもバックグラウンドがあるんですか?

木屋:まず、Y字路が好きなんですよ。横尾忠則さんのY字路の絵も好きだし、近所のY字路を眺めていることもあって。曲を書いたのは、夜、自転車に乗っていたのがきっかけですね。雨が降っていたんですけど、途中で職質を受けて、「なんだよ」と思って。Beirutの曲を聴きながら自転車をこいでたら、歌詞が浮かんできて……。だからちょっとBeirutっぽいんですよ、この曲は。

ーーアルバムのタイトル曲「Golden Bad」については?

木屋:まずタイトルを先に決めたんですよね。メンバーとふざけながら考えてたんですけど、手元にゴールデンバット(タバコ)があったから、「“GOLDEN BAD”がいいんじゃないか?」と思って。“文字る”のが好きだから思い付いたんですけど、“BAD”というテーマがピッタリだったんですよ。良くない感情、沈む感じ、別れみたいなものがテーマになってる気がしたし、「GOLDEN BAD」というタイトルに決めてから、「だったら、この曲も入れたい」とアルバム全体がまとまってきて。「Golden Bad」という楽曲自体は、熊谷が活動休止しているときに書いたんですよ。「今のおまえ、こんな感じじゃない?」という曲を作れば、(バンドに)戻ってくるかなと持って。まあ、実際はそんなに関係なかったみたいですけど(笑)。

ーー「Golden Bad」も独特の匂いがする曲ですよね。

木屋:エスニックな匂いがするような曲にしたかったんです。「なんだこの匂い?」みたいな、割り切れなくて理解不能な曲というか……。好きなアルバムでいうと『泰安洋行』(細野晴臣)のような。

ーーなるほど。アルバム『GOLDEN BAD』も全体を通して、解析できない魅力があると思います。

木屋:塊みたいになってますからね。全部を整理しているわけでないし、制作中も「こうしてほしい」とストイックに指示を出すタイプではないんですよ。メンバーのなかに正解がないときは「こうしたらいいんじゃないか」と言うけど、大体は好きにやってもらっているので。エンジニアの上條(雄次)さんとの作業も同じような感じなので、みんなのやりたいことが入っているぶん、情報量はすごく多いと思うんです。まあ、BGMにはならない音楽ですよね。映画でいえば、セリフのないシーンで爆音でかかる曲みたいな感じかなと。

ーー前作よりもやりたいことに近づけた、一段上がったという手ごたえはありますか?

木屋:ありますね。単純にレコーディングに慣れたというのもあるし、メンバーの演奏技術、俺の作曲能力の向上もあるだろうし。もう一つプラスするなら、俺の精神年齢が上がって、人付き合いが少しできるようになったことも関係してるかも。聴きやすいし、みんな好きだと思うんですよ、今回のアルバムは。俺らとしては純度が高くて良いものを提供しているつもりだし、あとは受け取り側次第かなと。これがわからないとすれば、「成長してください」と言うしかないですね。こっちから(リスナーに)寄ることはしてないので。

ーー『GOLDEN BAD』というアルバムを作ったことで、バンドとして次に進める実感もある?

木屋:ちゃんと毒のあるものを作りたいとは思ってますね。最近、勝新太郎が捕まって、裁判を受けたときの記者会見の映像を見たんですけど、ああいうオトナがいなかったんですよね、自分たちが子供の頃は。あんな感じの音楽を作れたら最高だなって。

ーー常識やモラルでは測れない存在というか。

木屋:いまってなんでも平均化されていると思うんですよ。だからこそ突出した存在でありたいし、もっともっと突き抜けたいなと。自分たちのフェチを集めてキメラみたいな状態にして出しているんですよね、GRASAMは。それをさらに研ぎ澄ませていきたいです。破壊する自分、整理する自分という二つの観点があるんですけど、これからは破壊する自分を際立たせていきたいので。

ーー期待してます。木屋さん自身、BADな状態は完全に抜けた?

木屋:そうですね。今日のインタビューも、一般的にはどうかわからないけど、自分はちゃんと話しているつもりだし(笑)。あと、ちゃんと笑えているというか、楽しいことは楽しくやろうという感じになっていて。超余裕です(笑)。


(取材・文=森朋之/写真=稲垣謙一)

■リリース情報
『GOLDEN BAD』
5月8日(水)発売
1. Bali High
2. HERO
3. ヤモメ
4. 花の香りに
5. 厄介な人たち
6. LOVE OIL
7. あの子の心臓に
8. Golden Bad
9. End

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