Ken Yokoyamaは今またバンドを始めようとしている 覚悟と喜びに溢れた『New Age Tour』
日本では洋楽リスナーの大半も案外「英語だから意味はよくわからない」と言ったりするもので、一緒に歌ってくれ、歌詞の内容を理解してくれと繰り返す横山は、確かにロマンチックな思想の持ち主だ。わかりあえると夢見るだけでなく、伝わると信じて何度も練習させるのだから、さながら“現実主義のBeliever”といったところか。自分の今を歌うだけなら、ここまでしなくてもいい。自分の気持ち、自分のメッセージは、人の手にしっかり渡さなきゃ意味がない。そういう彼の考え方が、後半のセットリストに色濃く表れていた。
日の丸を背負いながら演奏された「Support Your Local」「Ricky Punks III」。震災後のメッセージだった歌は、「普段から誰かのことを助けようともしないヤツは、困った時に誰かに助けてもらえるわけがないんだよ」という厳しい言葉と共に、日々の生き方や処し方の歌に変わっていた。震災を特別視しなくなったのではなく、日々の生活や仲間のことを本気で特別視しているのだろう。なぜなら、誰もがいつかは消えてしまうから。その実感を込めたNo Use for a Nameのカバーが特に染みたし、「Let The Beat Carry On」の前に放たれた「若いヤツら、Ken Bandがいなくなったらちゃんと引き継いで、繋いでくれよな!」というMCもたまらなかった。終わりを知っているのだ。ボンヤリとしたイメージを超えて、リアルな実感を伴う終わりを何度も見てきた。そのうえで、この4人は、今またKen Yokoyamaを始めようとしている。
今のところツアーは最高の状態だと報告し、横山は「オレはこれで最低10年は(Ken Bandを)できると思ったね」と笑っていた。言い換えれば、残り時間を何度も考えたのだろう。年齢や体力だけの話ではない。バンドの崩壊は全員が過去に経験しているし、Matchanの離脱だって痛みを伴う終わり方だった。もう中途半端は嫌だ。やるなら全部をやりきりたい。横山がコラムで触れていたように、このツアーからアンコールがナシになったのも根源は同じだと思う。
もちろん、これが最後だと打ち震えるような悲愴感は全然なくて、むしろ演奏シーン以外はほとんどくだらない冗談が続いた。ただ、力強い笑顔の溢れるステージには、やりきる覚悟と、そういうバンドがまた始まる喜びが溢れていた。ガラにもなく感謝の気持ちを込めてやる、との宣言から始まったラスト直前の「Punk Rock Dream」。帰宅後に改めて和訳を熟読してびっくりした。あぁ、これは今のKen Bandの歌じゃないか! 物語は続く。感謝と共に、この先が続いていくのだ。
(文=石井恵梨子/写真=Teppei Kishida)