作品と表現者はわけるべきかーードキュメンタリーで再浮上した“マイケル・ジャクソン騒動”を解説

 「ドキュメンタリーによって性的虐待容疑の注目度が高まったスター」といえばR・ケリーだが、彼のケースと『Leaving Neverland』騒動はさまざまな面で異なっている。#MuteRKelly運動に参加したインディア・アリーは、ケリーとマイケルの相違点を「証拠の有無」「時間」だとしている。ケリーの場合、犯行証拠とされる映像が存在した上、現在進行形の事件と言えた。実際、ドキュメンタリーや#Mute運動によって警察が動き、逮捕に至っている。そして、本人に反論する自由があった。マイケルの場合、すでに亡くなっているため、反論はできない。被害を告白する者や関係者は生存しているのだから「終わった問題」と断ずることは決してできないわけだが、一方で告発された側が故人である事実は大きな争点となっている。音楽界における大御所スティービー・ワンダーと新星ジュース・ワールドは、それぞれ同様の意見を発信した。  「マイケルはもう亡くなったんだ。安らかに眠らせてやってくれ。レガシーはどうかそのままに……」

 『Leaving Neverland』放映後、キング・オブ・ポップのレガシーはどうなったのか。New York Timesが伝えるところによると、主要ストリーミング・サービスにおける週間再生数および消費動向は(ここ数カ月の)平均と変わらなかったようだ。R・ケリーと同じく、楽曲の販売・配信が停止する動きも見られていない。対照的に、大騒ぎなのは外部企業だ。アメリカのラジオ局は、1日あたりの平均再生数を約25%も減少させた(同上)。Starbucksは公式プレイリストから曲を除外。Louis Vuittonはマイケル・トリビュート・コレクションのうちから直接的に彼を想起させるアイテムを取り下げた。また、人気アニメ『ザ・シンプソンズ』は、マイケル登場エピソードを今後放映・販売しないことを発表。番組プロデューサーは、表現規制への反対姿勢を明確にしつつ「封印しか選択肢が無いと感じ自らの意思で決断した」とコメントした。なぜ、外部企業群は早急な撤退を見せたのか。おそらく、外部のブランドだからだろう。Business of Fashionでは、Lous Vuittonのようなブランドにとって最悪なシナリオは「性的虐待告発に無関心だと思われること」だと語られている。

 作品と表現者はわけるべきなのか──行き先のわからない『Leaving Neverland』騒動は、世界規模でこの問いかけを活性化させた。ただし、その混乱と同時に、英米メディア間で有望視される“未来”がある。ドキュメンタリーを信じようと信じまいと「マイケル・ジャクソンのレガシーは“キャンセル”にするには巨大すぎる」という見立てだ。それこそスティービー・ワンダーからジュース・ワールドまで、キング・オブ・ポップの影響は全世代に渡っている。音楽史、ひいてはアメリカ文化史から彼の存在をミュートすることは不可能だろう。ちなみに、告発者であるロブソンも、マイケルの功績の抹消を肯定しない者の一人だ。彼は、自らの告白が性的虐待問題の啓発と防止になれば良いと語っている。

■辰巳JUNK
ポップカルチャー・ウォッチャー。主にアメリカ周辺のセレブリティ、音楽、映画、ドラマなど。 雑誌『GINZA』、webメディア等で執筆。

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