黒崎真音に聞く、演技・シナリオ制作など多角的な表現が生んだ“新たなアニソンシンガー像”

黒崎真音、多角的表現で見つけたもの

アニソンシンガーの領域を拡張するための表現活動

ーーそして黒崎さんはこの曲のボーカルを手がけただけでなく、MV制作にもタッチしたんですよね?

黒崎:プロットを書かせていただきました。MVに関しては「幻想の輪舞」のアナザーストーリーとして観ていただけたらいいな、と思って。

ーー「『幻想の輪舞』のアナザーストーリー」?

黒崎:『グリザイア:ファントムトリガー』のオープニングテーマとして「幻想の輪舞」が描き出す世界というものもあるんだけど、曲を聴いて歌っているうちに「『幻想の輪舞』自身の描き出す世界っていうのもあるな」と思ったので、「私はこの曲を聴いたとき、こういう世界や物語を思い浮かべました」「これを正解と受け取ってくださいというわけではないんだけど、こういう見方もできますよ」って提示したかったんです。

ーー今ネットで公開されている1コーラス分のMVを観るぶんにはあまりハッピーな世界の話ではないのかな? という印象を受けますが……。

黒崎:ネットで公開されているところだけだと、まだ物語の断片という感じなんです。だからCDの付属DVDやTVの音楽番組なんかで最後まで観ていただけると、皆さんまた違った印象を受けるんじゃないかな? という気がしています。このMVの主人公は年を取れなくなる奇病にかかっていて。その病気を治そうとするお医者さんとの物語なんです。彼女は年を取らないけど、お医者さんはどんどん老いていく。そういう状況の中で彼女はなにに気付いて、どんな生き方を選択するのかっていうあらすじになっています。

ーーそれだけ聞くだに、やっぱりハッピーな印象は……。

黒崎:ええ。そこはもう観てくださる方に委ねようと思っていて。面倒を診てくれているお医者さんが老いていくのに、ひとり取り残されていく主人公のことを悲しいと感じる人もいるでしょうし、私は、実はそれでも彼女が何かに気付けたこともそうだし、その気付き自体も幸せなものだったと思っていますから。2人の関係についてもただの患者と医者なのか、親子みたいな関係なのか、それとも恋人みたいに見えるのか。これも観る方によって違うと思うので、それぞれ思うように楽しんでもらえたら面白いかなと思ってます。

ーーそもそもなんでMVのプロットを書こうと?

黒崎:『ROAR』のインタビューときにも少しお話したんですけど、去年はひとりになる時間が多くて、そのあいだに自分でオリジナルストーリーを作るっていうことをやっていて。私が物語を書いて、知り合いにイラストを描いてもらって「こんな乙女ゲームがあったら楽しくない?」って感じで(笑)。

ーーそうやって物語を書くトレーニングをしていたら、MV制作の話が舞い込んだ?

黒崎:そうなんですよ。「今度のMVでやってみたいことのイメージはある?」って聞かれたので「あっ、あります」って即答させていただいて。ちょうど物語のあらすじを書くことにも慣れ始めていたので、あまり迷うことなく「このフレーズにはこんな画が似合うかな?」って感じで2ページぶんくらいの企画書というか、プロットを書き上げて、スタッフさんにお渡ししたら「あっ、いいじゃん!」ってことになって、映像にしていただいた感じなんです。

ーー前々作のシングル『Gravitation』のカップリング曲「Hazy Moon」の制作の経緯と似てますね(参考:黒崎真音が『禁書目録』新OP「Gravitation」で受け取った、偉大な先達からの言葉のバトン)。

黒崎:そうかもしれないですね。

ーーあのときは初出演なさった映画『BLOOD-CLUB DOLLS 1』の撮影中、月を見上げながら「この映画って主題歌ないのかな?」なんて考えたことがきっかけになって、まさに「Hazy Moon」という曲ができあがったと言っていた。で、今回は自作シナリオを書いていたらMV制作の話があった。ちょっとオカルトめいた言い方になってしまうけど、最近の黒崎さん、なにか“持って”ますよ(笑)。

黒崎:あはははは(笑)。でも不思議な縁に恵まれているな、とは思ってます。私、乙女ゲームがすごく好きで、デビュー当時から「いずれは自分の乙女ゲームを作りたい」ってあちこちで話していたんです。で、去年、いつまでも話を待っていてもしょうがないから、と思ってその第一歩としてシナリオの練習を始めていて。やっぱり始めたばかりの頃はすごく難しかったんですけど、それでも書き溜めてはいろんな方に読んでいただいて、っていうのを1年くらい水面下で繰り返していたら、そのことは知らなかっただろうスタッフさんから「『幻想の輪舞』のMVのイメージある?」って言われて。

ーーだから先ほど「幻想の輪舞」について正統派アニソンと言ったんだけど、実は黒崎さんのディスコグラフィ的には保守的な1曲ではなくて、むしろ新しい表現の扉も開いた1曲なんですよね。

黒崎:なんか、悪い意味で一つのことにこだわるのはもうやめようと思っていて。「アニソンシンガーです」って名乗らせてもらっているからって、表現の手段は歌詞やメロディや歌だけじゃないはずですから。実際に声優や俳優をやっている方もいるし、シンガーが映像作品やゲームの原案を考えて発信していってもいいんじゃないかと思っていて。それが新しいシンガーの形として確立できたなら、これからアニソンシンガーになりたいという子たちもより可能性や自由を感じてくれると思うから、去年頃から、歌以外のクリエイティブな方法でこの世界に関わっていくっていうのは私の新しい夢になったんです。

ーーしかも今の黒崎さんの活動は「いきなりゲーム原作に乗り出した!」みたいな突飛なものではない。それこそレディー・ガガやビヨンセやリアーナのような女性ボーカリストだって、単に曲を作って、歌っているだけじゃない。絶対MVのような自身の映像作品のコントロールもしているはずですしね。

黒崎:そうなんですよね。だから、本当に「巡り巡って」「たまたま」というお話ではあるのかもしれないけど、シンガー・黒崎真音としても新たな表現を提示できたな、って思っています。

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