「音楽のプロフェッショナルに聞く」特別編
姫乃たまが南波一海に語る、“地下アイドル人生”と卒業後の活動「試行錯誤しながら成長していく」
これからのファンとの関係の築き方
ーー今後は地下アイドルの立場を離れるわけですが、気になることはありますか?
姫乃:10年ぶりに“人間界”に戻るわけじゃないですか。いままで地下アイドルとしてしか生きてこなかったので、タイムスリップみたいな感覚というか。高校1年生が、いきなり現世で26歳になってるわけですよ。どうしたらいいのかわからない……。
ーーアイドルじゃなくなってもファンとの関係は続いていくじゃないですか。ファンタジーが一枚剥がれるような感覚はあるんですか?
姫乃:人間対人間になるわけで、以前より、ライブハウス以外で私も彼らも現実の世界を生きているんだよなあという実感があります。急速に魔法が解けていっている感覚がありますね。卒業を発表してから。冷静になったら負けだって瞬間がたくさんあります。地下アイドルの自分や、ライブの熱気を俯瞰してしまうというか。これはいままで自分が守ってきた関係でもあるわけじゃないですか。生き辛さを抱えているけど、地下アイドルとして、ヲタクとして、ライブハウスに居場所を見つけられて幸せっていうのが、いままでの私が話したり書いたりしてきたことだけど、地下アイドルとアイドルファンという既存の構造を失った時、どうしたらいいのか私もわからないんです。今後は地下アイドルでも、いわゆる歌手でもないし、微妙にライターでもないのに……そもそもライターのファンってなんだって感じですけど(笑)、一体どういう関係性なんだろうっていう。友達とかになれるんだろうか。どうしたらいいものか。難しいです。
ーーどう関係を築いていくかは手探りになりそうですね。
姫乃:なるようにしかならないですね。毎月「実話ナックルズ」でアイドルにインタビューしている中で、ファンと共同墓地を作るために、無人島の購入を検討してるっていう人がいたんですよ。最終的には自分たちもそこに入って、宗派も関係なく、ヲタ芸で法会をするって言っていて。
ーー一緒に年を取っていくと。
姫乃:そうそう。あと老人ホームをつくるとか、家を買ってみんなで住むとか、私もわかるわかるーと思って聞いてたんですけど……だんだんわからなくなってきて。
ーーリアルに考えられるようになってくると、どうなんだろうと。
姫乃:地下アイドルやるうえでキャリーケースを運ぶのがつらくなってきたこともあって……。自分の体がつらくなるとファンの加齢や体力の低下もよりリアルになりますよね。今の私はシェアハウスとか無人島とか考えられるけど、今後彼らの体力がなくなったときに私も面倒見られる状態なのか不安です。
ーーそこですか。
姫乃:あと、このまま一生「楽しいね」っていうだけでいいのかなって気持ちも強くて。10年付き合っているから、ファンに対しての責任も感じるので、どうしてあげたらいいのかなって思うんですよ。私が地下アイドル卒業するとか人間になるとか言うのも、長い目で見たら、まだみんなの体力がある今のうちにショックを受けるなり適応するなりして、お互い今後の長い人生を人として歩んでいくほうがいいんじゃないかって気がするからなんです。
ーーそれはそれでとても律儀ですよね。
姫乃:いいやつなんですよ、私(笑)。
ーーさっき言ったぬるま湯状態を少しずつ現実に戻すように導いているわけですよね。普通はそんなことまで考えないですよ。
姫乃:ファンからしてみても、普段まともに仕事して生きてるわけだし、現場は娯楽として楽しんでるだけだから、別にそこまで思わなくていいよって言われたらそれまでなんですけどね。とは言え、勝手に責任は感じますね……。卒業した先に私のやりたいことがあればいいんですけど、相変わらずやりたいことがないので、導いてあげられる先をまだ具体的に提示できないのがまたなんとも……。
ーーそれは地下アイドルを辞めたあとに見えていくんじゃないですか? それこそ、この10年間で試行錯誤してきたように。
姫乃:そうですねえ。人生は螺旋状に巡り巡って、悩んでも悩まなくても進化しちゃうんですよね。次のアルバムをリリースするビクターエンターテインメントも父親がメジャーデビューしたレコード会社だし、今やっていることって人生の最初と繋がって円状になっていると思うんです。私、時間を螺旋で想像していて、違うところに見える同じようなところを反復しているんだけど、実は先に進みながら上に上がっているっていう意識がすごくあって。だから、今後も試行錯誤しながら行ったり来たり成長していくんだろうなという意識はあります。
ーーその考え方はよくわかります。過去にやってきたことは意味があったんだなって繋がる瞬間ってありますよね。学生の頃に妄走族が好きだった姫乃さんがヒップホップのサークルのなかに入っていくことになったり。
姫乃:ダースレイダーさんとインターFMでラジオやってるなんて知ったら昔の自分が倒れますよ(笑)。こないだメジャーデビューの発表をしたときもイベントのBGMは妄走族でした。人はなかなか変わらない……。
ーーと考えると、あの時にした決断があとになってよかったなと思うことがくると思うんですよね。
姫乃:なんとなく選んだ芸名の“たま”が円形を示す言葉なのも、“魂”という全部を保有している名前なのも、意味はあるんだろうなと思います。この話をしていると、だんだんスピってきますね……。
ーーそういえば一時期コラムでスピリチュアル寄りのことを書いていた時期もありましたよね。
姫乃:あー、1〜2年前くらいですよね。私、実は短気で、常になにかに反発されていたり、反発している状態がわりと好きなんですよ。それを隠すために、普段はふわっとした感じで生きているんですけど、内面的には強いタイプなので、渋谷WWWでのワンマンライブが成功したときにイヤな気持ちになっちゃったんですよね。
ーーイヤな気持ちというと?
姫乃:もっとうまくいかない予定だったんです。高みを目指して頑張ったけどうまくいかなくて、でもその頑張りに対して価値を見出すみたいなことを想定していたんですけど、周りの人たちが技術的にも精神的にも優れていて、普通にうまくいってしまったんです。その瞬間、姫乃たまに飽きてしまったというか。そのときに私を救ったのが石丸元章さんとスピリチュアルだったんですよ。
ーー振れ幅が極端!
姫乃:石丸元章さんって覚せい剤を使って、通常の自分とは異なる状態の脳内を旅しながら文章を残されているじゃないですか。スピリチュアルも、自分の中にいくらでも可能性を想像して遊べる。ケロッピー前田さんと大島托さんの「JOMON TRIBE」も、縄文時代にタトゥーはあったのか考えながら模様を刻んでいく。とにかく、いまここに生きる自分から離れたものに興味があったんです。本当にすごい人がいるっていうのもわかったんですけど、そうではない人もいるので、もういいかな。もともとスピリチュアル嫌いなので、偽物の人に会うと嫌悪感がすごくて……。でも、私が今日話しているファンとの関係はアセンションでは……。
ーーそろそろ終わりの時間ですね。姫乃さんの今後を楽しみにしています。
姫乃:まずは4月30日の卒業ワンマンライブですね。これからも螺旋状にクルクルしながら上がっていきたいと思います。アセンションしましょう。
(取材・文=南波一海)
■ライブ情報
『姫乃たま活動10周年記念公演「パノラマ街道まっしぐら」』
日時:2019年4月30日(火)
開場 17:00 / 開演 18:00
場所:渋谷区文化総合センター大和田 さくらホール
出演:姫乃たま(ボーカル)
演奏:澤部渡(ギター)、清水瑶志郎(べース)、佐藤優介(キーボード)、佐久間裕太(ドラムス)、シマダボーイ(パーカッション) 、劇団ゴキブリコンビナート
主催:姫乃たま活動10周年記念公演実行委員会
企画制作:姫乃たま
制作:CITTA'WORKS
問い合わせ:チッタワークス 044-276-8841(平日12:00〜19:00)
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