TXTが体現する、“K-POPのトレンド”とBTSに通ずる“BigHitらしさ” デビュー作から考える

 しかし、もっとも大きな特徴であり“BigHitらしさ”ともいうべき部分は、曲よりもその歌詞にあると言っても良いだろう。全体的な歌詞の主体は「僕たち/私たち」であり、“君のペットになりたい”という例えや主人公や対象の性別が曖昧で解釈の余地が広いところなど、部分的に現代的にアップデートされている。しかし、タイトル曲の「CROWN」は、ある日突然頭からツノが生えてきた主人公が自分はモンスターになってしまったのではないかと思い悩むが、背中に翼が生えた別のもう1人に出会い、2人でお互いを埋めあって自分を認めることができるようになる、あくまで“BigHitらしい”物語だ。

 「CROWN」の原題は日本語にすると「ある日頭からツノが生えた」だが、英題の「CROWN」には「頭頂部」と「冠」の2つの意味があり、頭のてっぺんから生えてきたツノが自分の王冠になるというダブルミーニングにも捉えられる。BTSにおける『花様年華』コンセプトの物語は、欠落を抱えた7人の少年達が出会い、お互いを埋め合うことで1つになって人生で最も美しい刻を経験するというストーリー。それがそのままリアルの彼らに重なったからこそ生まれるエモーションがあった。「CROWN」で描かれている世界は、かつてBTSが数年かけて描いたストーリーを1曲に凝縮しており、「LOVE YOURSELFのその先」の世界をも暗示しているようだ。

 韓国の世相の変化やK-POPのグローバル化の加速に伴い、現在のアイドルファンドムは数年前までほどには若さを象徴する傷や重さを欲しなくなったようだ。ある意味で彼らはデビュー時から「甲((勝ち組))」の立場であり、己の傷を開いて見せて共感を求めるような歌詞は逆に表層的に聴こえることもあるかもしれない。これは先輩のBTSが世界的なブレイクを果たしたことでデビュー前から世界最大規模のサブスクライバーを持つ事務所の新人で、生まれる前から2000万人以上の注目を集めていた(YouTuberのヒカキンが言及するほどに……)TXTの宿命でもあるだろう。

 他のアルバム曲の歌詞を見ると、ブルーとオレンジという色相環では補色にあたり、さらに最もコントラスト差がある色に例えられるほど対照的な2人が惹かれ合う、というストーリーの「Blue Orangeade」は、アルバムデザインのイメージカラーそのままを表している。“君と僕は違う存在、だけど一緒にいよう”というグループのキャッチフレーズが、アルバムのデザインと楽曲の歌詞、メンバー達のリアルなどを通してシナジーを生む効果を狙っているようだ。BTSの時は模索しながら進めてきたことを、今回は最初から計画してやろうとしているのではないだろうか。BigHitオリジナルで生み出したグループはまだ2組だけだが、少年時代に少年マンガに深くハマっていたというパン・シヒョク代表(プロデューサー)の志すもののベースにあるのは、まさに“大人と子供の狭間で揺れ動く少年たちの成長と絆”なのかもしれない(ちなみに、BigHitのグローバル・オーディションは現在男子限定になっている)。

■DJ泡沫
ただの音楽好き。リアルDJではない。2014年から韓国の音楽やカルチャー関係の記事を紹介するブログを細々とやっています。
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