『DAISAN WAVE』インタビュー

みきとPが語る、ボカロPを取り巻く現状への違和感「“踏み台”なんていう言い方はよしてほしい」

ボカロ出身=“第二の米津玄師”と括る風潮

ーー初音ミク生誕10周年を記念して制作されたアイリッシュ調の「だいあもんど」や、『マジカルミライ2016』のテーマソング「39みゅーじっく!」も収録されて、みきとPさんの近年のボカロ曲の集大成的なアルバムになりましたが、こうして並べると曲調の多彩さも魅力のひとつとして浮かび上がってきます。そのサウンドの引き出しの多さはどのように培ってこられたのですか?

みきとP:自分はよくジャンルの引き出しが多いように思われてますけど、そんなことはなくて。大前提として楽器の音色が違うと曲調も変わって聴こえるので、それが理由だと思うんですね。あとは二十代中盤にAORを聴きだした頃から、リズムの違いによって起こる曲調の変化というものに着目しだしたので、それである程度幅広く見せられるようになったというか。それと僕は小学生の頃にTHE BOOMというバンドが好きで、彼らはアルバムごとに曲調が全然違うんですけど、いろんなことをやってもTHE BOOMはTHE BOOMだなあと思ってたんです。別にそれを特別意識してるわけじゃないんですけど、その原風景の影響は強いと思います。

ーーTHE BOOMはすごく納得いきました。「少女レイ」のラテンっぽいリズムは、まさに『極東サンバ』(1994年)の頃のTHE BOOMに通じるところがありますし。

みきとP:たしかにその辺りはTHE BOOMを聴いてなかったらわからなかったかもしれないですね。特にジャンル音楽というのはガチでやるとガチすぎちゃうというか、自分のフィルターを通したほうがポップになると思うんですよ。「少女レイ」もサンバっぽいですけど、ガチのサンバになると雰囲気が変わるし、ガチのサンバはやろうと思っても出来ないので。

ーーたしかに「ポップスを作りたい」という気持ちは、みきとPさんの音楽から伝わってきます。

みきとP:経験上、そのほうがいいんじゃないかと思っていて。僕はバンド時代にキャッチーな曲を全然作れなくてコンプレックスだったんですよ。その頃に「もっとキャッチーに」「もっと強いサビを」と言われ続けて、「俺はキャッチーなメロが作れないやつなんだ……」っていてこまされて(笑)。今もそれを引きずってるところがあって、頑張ってキャッチーで届きやすい曲を書こう、という意識になってるんです。だから今でも曲を提出したときに「サビが弱い」と言われるとズキッときます(笑)。

ーー来年にはボカロPとしての活動を始めてから10周年を迎えるわけですが、そこに向けてやっていきたいことはありますか?

みきとP:まだおぼろげながらライブはやりたいと思ってるんですけど、よく考えたら自分以外にも10周年の人がいっぱいいるので(笑)、そこに埋もれないように何かやりたいですね。個人的には何事もなく平穏に過ごすのがいいですね。

みきとPコラボステージ @ YouTube FanFest JAPAN 2018

ーー例えば昨年のイベント『YouTube FanFest 2018』に出演された際、キズナアイ、ミライアカリと映像でコラボレーションしていましたが、昨今ネットシーンで盛り上がっているVTuberについてはどのようにご覧になってますか? 

みきとP:キズナアイチャンネルとかを見ておもしろいなあと思ったりはしてます。鳩羽つぐというVTuberがいるんですけど、その子は気になって追ってたりしてて。彼女はいろんな憶測を呼んでる異色のVTuberで、喫茶店で後ろ向きで何かをしてて、たまに何かポロンと言って終わったりとか、謎の映像を上げてるんですよ。しかもその映像がいい雰囲気で、ぼーっと見て楽しめるというか。

ーー最近はVTuberがアーティストデビューするケースも多いので、作家として楽曲提供してみたいと思ったりは?

みきとP:お話をいただければぜひ何かやりたいですけど、自発的に何かというのは考えてないですね。僕らは依頼があったときに動く立場なので。ただ、めちゃくちゃ好みのVTuberが現れたらわからないですけど(笑)。

ーーまた、近年は先ほど話題に上った米津玄師さんのブレイクもあって、Eveさんやバルーンこと須田景凪さんといったボカロシーン出身のアーティストに注目が集まっています。みきとPさんもご自身で歌も歌いつつボカロPとして活動していますが、現在の盛り上がりをどのように受け止めていますか?

みきとP:自分はアーティスト活動も並行してやってると言えるほどライブ活動も音源も出してないし、シンガーソングライターであるという意識はあんまりないのでそこのカテゴリーには属していないと思います。一つ思うのは、ボカロ出身でアーティスト活動を始めた人たちを総じて「第二の米津玄師」というパワーワードで括るのは、本人たちにとっては本意ではない可能性があるんじゃないかと思います。それに、「もう第二かよ?」とも思いますし。自分は作品至上主義っていうか、結局どんな作品をつくるかに興味があったりするんで、どんな形であれグッドミュージックを作る人達はリスペクトします。

 最近「ボカロ踏み台論」みたいな話題もあがっていますけど「踏み台」なんていう言い方はよしてくれって思いますね。なんともキャッチーな響きなのはいいですけど、どちらかというとネガティブな印象ですよね。それに関して言えば、ボカロがみせてくれた景色が次の世界に繋がっていくということはたくさんあると思います。ただ、だからといって必ず高く飛べるというわけではないし、結局自力が必要になってくるわけです。つまり「踏み台」に登ることは「挑戦」の一つだと思います。

ーーなるほど。

みきとP:それでもその話題が盛り上がるのは、ある種、その界隈への愛の確認(愛していたの? 愛していなかったの? というような)とか、高く飛んだ人へのやっかみ的な話題なのかなと感じました。なぜそう思うかというと、「ボカロを踏み台にしたら成功します」みたいな戦略的な流れも今は感じないし、直接の勝因には結びつかない気がするからです。ボカロ曲を出すのって結構手間暇かかるもんで、なんらかの想いがないと中々難しいことだと思います。その界隈で人のつながりができたり、自分の曲が二次創作されたり、直にコメントをもらえたり、そういう世界の中で、次にやってみたいことが湧いてきたり、次のステージへ挑戦したくなったりすることは、愛とか熱とかなしには起こらないことなのかなと思ったりします。

ーーみきとPさんもかつてはバンドのフロントマンとして、アーティストとしての活動を志していたと思うんです。その当時と今ボカロで作ってる音楽とでは、自分の中で何か線引きがあると思うのですが、アーティスト的な部分に執着しなくなったきっかけは?

みきとP:これは全然ネガティブな話じゃなくて、自分はいわゆるロックアーティストになれるタイプの人種じゃないことに気づいて、それですごく楽になったんですよ。よく芸人さんで、だんだん表舞台に出ていかなくなって、放送作家や構成になる人がいるじゃないですか。自分はそっち側の人間なんじゃないかと思って。それ以降、自分が理想としてたアーティストの姿を追いかけるのは違うなと思って、自分をもっと活かせる別の場所を探し始めたんです。バンドを解散した少しあと、2007年や2008年頃にはそういうことをずっと考えてましたね。それでボカロで曲を作り始めたときに、俺は裏方でいいんだ、と思うことができて。でも、自分がそう思えたことで作れた曲もたくさんあったし、出会えた人もたくさんいるし、それで今の状況があるんだと思います。

(取材・文=北野創/写真=伊藤惇)

みきとP『DAISAN WAVE』

■リリース情報
『DAISAN WAVE』
発売中
ロキ、少女レイ、新曲含む全15曲入りアルバム
価格:¥2,778(税別)

<CD購入情報>
アニメイトオンライン
Amazon

■配信情報
ドワンゴジェイピー
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ニコニコ動画

<配信コンテンツ(配信タイトル/アーティスト名)>
DAISAN GENERATION -instrumental-/みきとP
信じる者は救われない/みきとP
ロキ/みきとP
PLATONIC GIRL -VOCALOID ver.-/みきとP
だいあもんど/みきとP
NのONE/みきとP
愛の容器/みきとP
Tears River/みきとP
少女レイ -feat.みきとP-/みきとP

<配信サイト>
DL型配信サイト
国内:ドワンゴジェイピー/iTunes/Amazon/Google Play Music
国外:Amazon/Google Play Music

サブスクリプション配信サイト
国内:AppleMusic/LINEMusic/AWA/Amazon Music Unlimited
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YoutubeMusic
国外:Amazon Music Unlimited/Google Play Music/Spotify/KK BOX
YoutubeMusic

<販売価格>
単曲
ドワンゴジェイピー:216円(税込み)
その他:200円(税込み)
アルバム
Amazonのみ:1800円(税込み)

みきとP公式サイト

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