金子厚武の「アーティストの可能性を広げるサポートミュージシャン」
自ら生み出し、他も支えるーー創造性豊かな凄腕ミュージシャンの活躍から見る音楽シーンの現在
星野源の『POP VIRUS』、ceroの『POLY LIFE MULTI SOUL』、そして、年明けの『バズリズム02』(日本テレビ系)での「今年コレがバズるぞ!BEST10」や『関ジャム 完全燃SHOW』(以下、『関ジャム』/テレビ朝日系)の「3人の売れっ子音楽プロデューサーが選ぶ2018年の年間ベスト10」で取り上げられ、大きな話題を呼んだ中村佳穂の『AINOU』や、『関ジャム』の「売れっ子音楽プロデューサーが選ぶ2018年 上半期ベスト5」に選出されたKID FRESINOの『ài qíng』(「今年コレがバズるぞ!BEST10」では16位)。この2018年を代表する4作品に共通しているのは、ペトロールズ、CRCK/LCKS、Yasei Collectiveといったバンドの優れたプレイヤーたちが、サポートとしてそれぞれの作品に参加し、大きな貢献を果たしているということ。『ài qíng』にはペトロールズの三浦淳悟、CRCK/LCKSの石若駿、Yasei Collectiveの斎藤拓郎が勢揃いしていて、打ち込みのトラックと生のバンドサウンドを横断する稀有なラッパーの作品である同アルバムは、彼らの存在なくして生まれ得なかったと言えよう。
星野と細野晴臣の交流は今や多くの人が知るところとなったが、はっぴいえんどの時代から(あるいはその前から)、優れたミュージシャンが表だった自らのアーティスト活動と、裏方としてのサポート/プロデュースの両方を行き来することによって、音楽の歴史は作られてきた。そして、近年はそんな動きがメジャーとアンダーグラウンドの境界なくダイナミックに起こっていて、日本の音楽シーンが新たな転換期を迎えたことを感じさせる。
昨年はmabanuaがひさびさのソロ作を、小袋成彬が宇多田ヒカルのプロデュースで初のソロ作を発表したが、前者はorigami PRODUCTIONSの一員として、後者はTokyo Recordingsの主宰として、近年は主に裏方としてアーティストを支えていた。『関ジャム』でmabanuaとともに並ぶagehasprings所属の蔦谷好位置もまたここ数年プロデューサーとして大活躍しているが、昨年は自らのプロジェクトKERENMIをスタートさせている。
agehasprings、origami PRODUCTIONS、Tokyo Recordingsといった、それぞれタイプの異なる作家集団の存在感は、近年ますます大きくなっている。agehaspringsの田中ユウスケやorigami PRODUCTIONSの関口シンゴらがサウンドプロデュースを担当し、「満月の夜なら」や「今夜このまま」にはYasei Collectiveのメンバーが演奏で参加していたりと、あいみょんが時代の顔役になったこともこの流れで必然だったように思える。