『THE ANTHEM』インタビュー

AK-69、己と闘うすべての人に向けた“アンセム”に込めたメッセージ「自分に負けていたら歌えない」

清水翔太、t-Ace……ゲスト陣との楽曲に込めた思い

ーー本作には多様なタイプのゲストが参加しています。「Lonely Lion」に迎えた清水翔太はどのような経緯から一緒に曲を作ることになったんですか?

AK-69:UVERworldのTAKUYA∞が翔太と仲良くなって、プライベートで一緒に飲む機会がちょいちょい出てきて。で、『DAWN』のときの日本武道館にも翔太は来てくれたんです。そんなこんなで飲んでるときに「一緒に曲がやれたらいいね」っていう話になって。

ーー作るにあたって、どういう方向性を考えたんですか?

AK-69:翔太がやりたい今っぽい方向じゃなくて、90sのいなたいビートで、でも王道な感じのヤツがやりたいと。しかも、アタマにブルーススケールのアカペラがあってからビートが鳴り出す、みたいな。「たとえばこういう感じ」って、新譜なんだけど、90年代テイストが新しく聞こえる曲を聞かせたら「わかるっす。ヤバイのできそうですね」みたいな話をしてくれて。翔太も乗ってきて「ビートは俺にやらせてください」って作ってきてくれて、見事に俺の頭の中で鳴ってたものを再現してくれたんです。

ーー制作中はどんなやりとりをしましたか?

AK-69:翔太はメールが簡素なんですよ。「わかりました。了解です」とか「オッケーです」だけなんで、リリックを書いて送ったときも「大したことねえなって思われるのかな」とか、いろいろ不安になったっすね(笑)。

ーー「これ、伝わってるのか?」みたいな(笑)。

AK-69:そう。でも、最後のミックスが届いたときに翔太から「っていうか、ヤバないですか」みたいな返事が返ってきて「手応えあったのか! 早く言ってくれよ!」と思って(笑)。まあ、翔太も完成してみないとわからなかったのかもしれないですけど。

ーー「Lonely Lion」は、ソウルシンガー・清水翔太のカラーが存分に発揮された曲になりましたね。

AK-69:そうですね。改めてすげえシンガーだなって思いました。シブいのにキャッチーだし、歌い出しのところはテクニックをみせてくるし。

ーーこの曲の歌詞のテーマは?

AK-69:「Lonely Lion」というワードは翔太が出したんです。人生いろんなことが起こるけど、すべては自分が志した道の中で起こってることだし、後悔の念すらも全部必要なことだったんじゃないか、みたいなことを俺がリリックに書いて送ったら、翔太が返してくれたサビのリリックに〈Lonely Lion〉というワードが入っていて、まさにそれだなって。翔太からそのワードをもらった時に、この曲のピントがグッと合った手応えがありました。

ーー孤独を抱えながらもプライドを持って闘っていく歌ですね。

AK-69:ライオンの群れのことをプライドと呼ぶそうなんです。縄張り争いというプライドのぶつかり合いのとき、雄ライオンは負けたら死ぬか、群れから離れてひとり旅に出るしかない。それってすごい覚悟がいることだし、やるときはやらないといけない。それって俺たちアーティストに限らず、ひとつの職に全てを掛けてる人に通じることなんじゃないかって思うんです。

ーー「You Mine」でコラボしたt-Aceは、意外と言えば意外な顔合わせでした。

AK-69:今ヒップホップ界で、今までになかったバズを起こせてるのって、BAD HOPとt-Aceくらいだと思うんです。t-Aceは今、チャラいキャラで話題になってますけど、確かに昔からクズなんですよ(笑)。

ーーエロ神ですし(笑)。

AK-69:でも、クズはクズでも、種類的には般若の弟分みたいな感じで俺はずっと捉えてたんで。地方から出てきた苦労人だっていうことも知ってますし、どういう形であれ、ヒップホップから出た人間がこれだけの話題を作れてるっていうのはすごくいいことだと思うんです。そういう力強い話題を振りまけているヤツと一緒にやることで波紋を広げたいなと。俺が今まで見てきたヒップホップシーンって波紋が起きても、他の波紋を巻き込まないからすぐに収束していって、また違うところで波紋が起きて、みたいな繰り返しだったと思うんです。誰かを巻き込まずに収束していくのか、他で起きた波紋を巻き込んでさらにデカい波紋にするのか。それって結構大きいことだと思うんです。単純にアイツは人間として面白いヤツだから曲を一緒にやってみたいっていうところが大きいんですけど、一方でそういうふうにシーンのことも考えてっていうところもありますね。

ーーt-Aceが最近の作風でみせるキャッチーな曲調で、歌詞は端的に言えば、女性に向けたアピールソングですね。

AK-69:t-Ace とやるからキャッチーな曲にしたいっていうのは意識しました。最初、t-Aceは普段ああいうキャラだけど、実は裏でマジメにやってる感じ、俺はストイックにやってるイメージがあるけど、実は裏で遊んでますっていう歌をやろうと考えたんですけど、「それ、俺、損してるじゃねえかよ!」と思って(笑)。

ーー向こうは好感度アップだけど、自分は好感度ダウン(笑)。

AK-69:そう。自分から言い出したものの「それ、いかん、いかん」って(笑)。結局は、俺の過去の歌で言うと「BECAUSE YOU'RE MY SHAWTY」みたいな。お前のためなら何でもしてやるぜっていうことを歌おうと。t-Aceは、ひとりの女性に向かって「お前のためなら」っていうことを言ってる歌はあまりないと思うんです。だから、t-Aceファンもキュンキュンするんじゃないかなって。

ーーそれにしても、この歌の羽振りの良さはハンパないです。t-Aceは最近ベントレーを買ったようですが、ここではポルシェと歌ってますね。

AK-69:ポルシェも買ってベントレーも買うって大したものだと思います。エロ神マネーで(笑)。

ーーAKさんのセンチュリオン(発行最難関と言われるクレジットカード)もスゴイですよ。

AK-69:たぶんラッパーで俺だけじゃないかと思うけど……(と言いながら、財布から取りだして)ほら、チタンカードも持ってますから。

ーーおぉー。実物を初めて見ました。

AK-69:入会の案内が来た時、めちゃくちゃ嬉しかったですもん。これはBボーイの夢の一つだから。いい車に乗る、いい家に住む、アメックスのブラックカードを持つっていう。最後がなかなか叶わないなと思ってたら突然電話かかってきて、足バタバタしましたから(笑)。

ーー「MINAHADAKA」は、今のトラップ系のフロウで聞かせる曲ですね。

AK-69:俺の得意とするのはBPM90から100くらいのテンポだけど、こういうトラップは書いてて楽しいですね。新しいことをやれてる感じがして。

ーーこの曲に参加しているLui Hua、 OZworld、Hideyoshiとはどのように繋がったんですか?

AK-69:OZworldは『SMASH HIT』(AbemaTV)の流れで知ったんですけど、そこから俺がプロデュースするアパレルの「BAGARCH」のモデルになってもらおうと思って。他に誰がいるだろう? ってスタイリストに相談したら、HideyoshiとLui Huaの名前が挙がったんです。そこから2人をチェックして、まずは3人で先シーズンのモデルをやってもらって。でも、せっかく繋がったわけだし、音楽でも繋がらないともったいないと思って作りました。

ーー3人とは年が一回り以上離れていますが、今の若手のホープですよね。

AK-69:俺が彼らくらいの年齢でちょっと頭角を現し始めたとき、地方というのもあると思いますけど、シーンの最前線を走っている人が声を掛けてくれることなんてなかったんで。だから俺は自分がデカくなったときには頭角を現してきた若い子をフックアップしたいなと思ってて、今がそういうときだなと。今回のアルバムに参加するということは、自ずと武道館のステージを踏むということになる。人のステージとはいえ、自分たちが作った曲でその舞台を踏むというのはすごく大事な経験になると思うんです。

ーーこの曲を通じてどのようなことを伝えたかったんですか?

AK-69:口で取り繕うのはしょぼいヤツがやりがちということですね。たとえば初めて会った人に「俺はこういうことをやってて、これもやってて」って大きく言っても大抵の人は信じますよね。「そうなんですか、すごいですね」って。でも、それって嘘なんで。まやかしをまとって一時はいい気分を味わっていても、結局は崩れる。リリックでも言ってるけど、砂上の楼閣はすぐ潰れるんですよ。俺は結果重視。真実がすべて。たとえば、俺が洋服を買いに行ったときにカードを切れば「うわ、ブラックカードだ」ってなる。それは真実じゃないですか。でも若いラッパーの中には「俺、アメックスの案内来たんですよ」ってうそぶくヤツもいる。「お前、それビジネスカードだし。そもそもビジネスカードはセンチュリオンないし」みたいな。本当にそれを起こしているのか、これから起こりそうなことをうそぶいているのか。それって全然違うんです。

ーー本当の自分でいたいと思っていても、ついつい虚勢を張ったり、見栄を張ったりしてしまうところはあります。

AK-69:だけど、やっぱり若い子だからこそ、裸で、等身大で突き進んで欲しいなって思うんです。それで悔しいんだったら真実を身につけていくしかないんだっていう。そのことをメッセージしたかったところもありました。

関連記事