『ポラリス』インタビュー

Base Ball Bear、新レーベル設立と今後のビジョン スリーピースの熱量詰まった『ポラリス』語る

究極的にはドラムとベースだけでも歌えるということ

Base Ball Bear - 試される (2018.11.11 Ver.)

ーー新曲のアイデアはライブをやりながら頭に浮かんだりしていたんですか?

小出:いや、具体的にどういう曲を作りたいというのはなかったですけど、ただ『光源』の曲をライブでやってみて反省点がいくつかあって。『光源』は3人で作ったアルバムだったけど、音源としてはいろいろ音を盛る方向の作品だったからライブでやったときに3人だと手が足りないと感じる曲があって。

ーーなるほどね。

小出:去年のツアーでスリーピース編成で演奏していく中で、「そもそもこういうスリーピース然とした曲の作り方をすればストレスを感じないじゃん!」と思って。音を盛ることはマテリアルクラブでやれるし、バンドはどれだけ音を引いていけるかという発想が明確になって。音数が少ない中で何をどう積むか。そういう考え方になれたので、バンドがやるべきことで悩まなくなった。

ーー今作は全曲そういう発想と方法論で作られてると思うけど、特に「PARK」なんか全編リズムとラップと歌だけで転がしていけるんじゃないかと思えるし。

小出:「PARK」もね、最初はいろいろカッティングとかも弾いてたんだけど、「それは邪魔だ!」と思って。

ーーまさにリズム隊でスタジオに入って生まれた賜物というかね。

小出:そうですよね。詞曲が先だとこういう曲にならないから。先にリズムを作ったところにラップと歌とギターを乗せていくことができました。

ーー「試される」もリズムが先ですよね?

小出:そうです。

ーーこのリズムで、ドナ・サマーの「Hot Stuff」、サザンの「マンピーのG☆スポット」的なリフを弾くというね。

小出:ストリングスとかシンセでこのフレーズを弾くとそれっぽくなるんだけど、これだけ削ぎ落とされたサウンドプロダクションでこのギターリフだと、言われないとわからないみたいな。重要なのはディスコっぽい曲をスリーピースで、削ぎ落としたサウンドでやろうとしてるということですね。

ーー最近の小出くんはBase Ball Bearについて語る際に“ソリッド”という言葉を多用してますけど、まさにその具現化がこの盤だと思うんですね。

小出:そうですね。

ーーロックバンドとしてのイカツさがあるというか。それは説得力ということでもあるんだけど、ソリッドというのはロックバンドの強さ、迫力、怖さみたいなところにも繋がってくるなと。「いろんなバンドがいるけど、スリーピースのロックバンドでこういう迫力を出せる人たちはどれくらいますか?」って真顔で言ってるみたいなね。

小出:ありがとうございます。

堀之内:それはめちゃくちゃうれしいですね。バンド的にそういうふうに思われるというのが。

ーーそれはスリーピースだからこそたどり着いたフェーズだと思うんですね。SANABAGUN.の高岩遼くんがこの前、言ってたんですよ。Base Ball Bearと対バンしたときにやっぱりバンドとしてすごいと思ったって。あの人ってあまりそういうことを言わないから。

3人:あははは。

堀之内:そう、それもうれしかったんですよ。打ち上げのときもサナバのメンバーがすごく褒めてくれて。

小出:俺は遼くんと打ち上げで全然しゃべらなかったけどね。

堀之内:俺は朝まで一緒だったから。最後にラーメン食って帰ったけど(笑)。そういう意味でも去年は対バンをたくさんやれたのは貴重な機会でした。日比谷野音のRHYMESTERとペトロールズとのスリーピース3マンもそうだし、キュウソネコカミのように音を埋め尽くしたすごく強いバンドとも対バンをしたこともそう。俺らって、もともと10代のころから同じようなジャンルで括られてバンドと対バンしてきたわけじゃないんだけど、あらためて今のBase Ball Bearのフレッシュさを対バンを通じて感じることができたんですよね。

ーーOKAMOTO’Sのニューアルバム(『BOY』)にもそういうことを感じたけど、結局楽器を説得力をもって鳴らせる人がミュージシャンとして一番強いと思わせてくれるなって。

小出:バンドをやってる以上は、最後はその戦いになってくると思うんですよ。僕はそんなに人のライブを観に行かないけど、人のライブを観たときに一番ショック受けるのってそこなんですよね。「こんなにかっこよく音出してるのか!」って思わされると一番凹むというか(笑)。歌もそうですけど、楽器がすごくいい音で鳴ってるなって思うと「殺されてたまるか!」みたいな気持ちになる(笑)。「いや、こっちが殺さねば!」みたいな。言葉は悪いですけど、本当にそのくらいの気持ちになるんですよね。OKAMOTO’Sも全員演奏がしっかりしているし、スキルがあるからこそああいうアルバムを作れるわけで。僕らも、4人時代を経て、鍛錬の時間を経て「どうですか、この太い骨!」みたいなマインドがありますね。

ーーそうだよね。“血と骨”って感じだもんね。

小出:そうそう。装飾品なしで「怖いだろ!」みたいな。

ーーホリくんもミュージシャン仲間の反応を早く知りたいんじゃない?

堀之内:そうですね。昔からの付き合いがあるバンドは特にあきらかにバンドの音が変わったことがわかるじゃないですか。ミュージシャン友だちに聴いてもらって、面白いしヤバいと思ってもらえたらいいなって。

ーーあと、ロックバンドはこんなにいろんな音楽を咀嚼できるし、自由なんだよということをスリーピースの削ぎ落とした音で表現できてもいますよね。

小出:そうですね。そもそもロックっていうフォーマット自体が本来は何でもありだから。そのうえで「あなたにとってロックとはなんですか?」みたいな、その意味を拡張していくところにやっぱ面白みがあるわけじゃないですか。

ーーうん。

小出:だから、僕らは同じところで足踏みをするのを最初からつまらないと思っていたバンドで。どこまで秘伝のタレを継ぎ足してロックの概念を更新できるかということにずっと一番興味があるんですよ。でも、今はすごく邦楽ロックマナーがしっかりできちゃっていて、多くのバンドがそのマナーに則って邦楽ロック的な音楽を表現しようとしているから。

ーートレースしているというかね。

小出:うん。「その型をトレースし続ける理由はどこにあるのだろうか?」って思うから。それをピュアに追い求めるというやり方も一つありだと思いますけど、僕らはそれを最初から疑っている立場なので。引き続きそれを疑い続けていこうと思います。やっぱり日本だけだからですね。これだけ音を盛ったロックが流行ってるのって。世界的な音のトレンドはどんどん音数を減らしてグルーヴで聴かせているのに日本だけJ-POPもロックもアイドル音楽もすごく音を盛っていて、さらに展開まで多い。曲の中のピークを必死に作ってるみたいな。ドメスティックな面白さはあるのかもしれないけど、それは土を耕すことになっているのかなぁと。そんな中、僕らは音が減ったことによって、最大よりも最小を作れるようになった。そこで僕が思ってるのは究極的にはドラムとベースだけでも歌えるということなんですよね。僕自身はそういうバンドになりたいって『C2』(2015年11月リリース)くらいから思っていて。ドラムとベースだけで歌えるというふうになったから、僕はその分どれだけギターを弾きすぎずに弾くことができるかというチャレンジをやれるようになって、ついにバッキングがうるさいって思ったんですよね。

ーーついにね。

小出:「試される」も最初はバッキングを入れてたんですよ。マナーから言えば、リフの後ろにバッキングが鳴っているのは通常運転。だけど、それをやるとうるさく感じたんですよ。ドラムとベースがしっかりしてるから、いらない。ギターにちょっとした余韻があれば、それでコード感が聴こえる。そういうフレーズにできたわけです。だから通常運転ではアウトロで盛り下げないためにバッキングを弾くんだけど、リズムが太いからいらないとなる。そういう局面にこれたのは大きいですね。

ーーそういう意味でも今のBase Ball BearはAlabama Shakesとかを聴いてるときの感覚とそう遠くない迫力があると思うんですよね。

小出:うれしいですね。Alabama Shakesとか生の怖さに満ちてるもんね。

ーー自主レーベルの話もしたいんですけど、レーベルを作るということは他のアーティストの受け皿にもなる可能性も今後含まれるわけですよね?

小出:そうですね。

ーーあとは、リリースの在り方も含めて活動自体のハンドリングを自分たちで能動的にしていくと。

小出:ここまでの話でも出てきたけど、それぞれのメンバーのバンドに対する主体性というかーー僕がリーダーでホリと関根がいてとかじゃなく、2人も「ちゃんと3人でBase Ball Bear」ですよということを感じているはずだから。なので、活動の方針を切り替えるにはちょうどいいタイミングなんじゃないかと思ったんですよね。新作もこういう純然たるスリーピースのサウンドというか「骨太で怖い音にしたれ!」と思っていたし、ここでバンドのアティチュードとしても切り替えてくのはちょうどいいのかなって。

ーーホリくんと関根さんはどうですか? レーベルを立ち上げたことについて。

関根:正直、私は具体的にレーベルをどうしていこうとか、そういうところまで考えられない性格ではあるんですけど。ただ、言わずもがなのこのモードは、バンドのムードとして漂っていたし、私も3人で新しい扉をちょっと開けてみたいという気持ちだったので非常にワクワクしました。

堀之内:俺も可能性は広がったなって思ってますね。単純にこいちゃんが言ってるように、このバンドは自由だなってあらためて思うんですよ。去年、こいちゃんがマテリアルクラブの活動をしている裏で俺もサポート仕事をやらせてもらったりして。團長(氣志團の綾小路翔)の生誕ライブでビッグバンド編成のドラムを叩かせていただいたんですけど。ボーカルが5人いて、管楽器と鍵盤が入ってという編成で叩いたときに、こいちゃんがマテリアルクラブでやってたような音数の多さを、ベクトルは違えど俺も実際そのタイミングで体感してたんですよね。で、そういった貴重な経験を経てバンドに戻ってきたときに「この自由度ってすごくいいな」って思ったんですよ。今後は自分の年齢の半分以上をバンドで過ごすことになるんですけど、そういうタイミングでまたフレッシュな気持ちを味わえているのが幸せだなと思うんですよね。あとはやっぱり2人がすごく頼もしいんですよ! こいちゃんのギターソロにパッと変わるタイミングがまた新鮮だったりして。だから、自分ももっとやれることがいっぱいあるなって思います。

ーー話を戻すと、小出くんは今後のレーベルのビジョンをどう描いてるんですか?

小出:んー。希望としてはさっき言ったように、いつかは他のアーティストも所属するようになっていいと思ってます。これからのアーティストのあり方として、今までだったら事務所とレーベルがあって、作品をリリースする際のいろんな工程があるじゃないですか。曲を作りました、それがCDになります、プロモーションやります、雑誌に出てテレビに出てラジオに出てというプロモーションを経て、作品がお店に並びますと。でも、どんどんそういう時代じゃなくなるのは間違いないわけで。それを踏まえてどうやって音楽でご飯を食べていくのか、それに紐づけてどうやってバンドの活動を回していくのか。自分たちはどれくらいの規模感のアーティストでいるのか、ということもそう。そのためにどれくらいの収益を出していかなければいけないのかーーそういうところも含めてアーティスト自身がちゃんとコントロールして効率よくやっていくような選択肢がもっとあってもいいなって思っていて。誰かのその選択肢の中にうちのレーベルがあって、気があったりすれば所属してもらったりしてもらえたらなと。まだ新作がリリースされたばかりだからちょっとわからないんですけど、自分たちがこのあとそういう気持ちになれたらいいなって思ってるのが、お客さんとより濃密な関係性を築くということなんですよね。それは、単純にファンと近いという意味ではなくて。たとえば今回だったらスリーピース編成のライブを経てこういう作品を作りましたと。それを踏まえてこういうプロモーションをしようという手順を踏まえてお客さんの元に作品が届く。で、作品を聴いたお客さんがライブに来る。またそれを踏まえて僕らがまた新しい作品を作るという活動の循環であり、それはバンドにまつわる経済もそうですね。お客さんが僕らの作品に対して対価を払いたいと思ってくれて、払ってくれたお金によってBase Ball Bearが回っていく。そういうサイクルが前よりも濃密になったらいいなと思ってるんですよね。そういうDrum Gorilla Park Recordsなりのサイクルを使ってみたいと感じてくれる子たちがいてタッグを組めたら、また新しいレーベルの回転が生まれるのかなって思うし。

ーーDGPR宛にデモ音源を送りたいという若者がいたらどうすればいいですか?

小出:それはまだ早いかな(笑)。まだ看板しかないからね。

ーーさっきの話にも繋がるけど、これからどういう人たちと対バンするということも、リアルにレーベルのカラーであり希望にもなってくると思うんですよね。今まで交わったことのない人を呼ぶ対バンツアーとかもやってほしいですけどね。

小出:それはね、近い将来にありえると思います。自分たちのアティチュードを立体的にしていくための対バンというかね。

堀之内:今までやってなさすぎたよね。

小出:そうそう。

ーー小出くんのマインドが開かれたというのも大きいですよね、そこは。後輩とコミュニケーションをとったりとかもそうだし(笑)。

堀之内:そうなんですよね。対バンとか今までやりたがらなかったですもん(笑)。対バン後の打ち上げもそうだけど。あと楽屋の雰囲気とかもそう。キュウソのオカザワ(カズマ/Gt)くんもウチのバンドをずっと聴いてたって言ってくれて。アンコールで一緒に「changes」をやったんですけど、それもすごくよかった。

ーー小出くんのマインドが解放されるにあたって、RHYMESTER主催のフェス『人間交差点』に出たことも大きかったのかなって。

小出:それはあると思う。『人間交差点』こそ音楽フェスだなって感じがしたから。アーティスト自身がオーガナイザーになって、そのアーティストがリスペクトする人や好きな人や繋がりのある人を紹介するフェスというのが、一番健康的だと思いました。

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