振付から紐解くJ-POPの現在地 第3回:辻本知彦

ダンスアーティスト/コレオグラファー 辻本知彦、独創的な表現を生み出す“信念”に迫る

「見ていてグッとくる、涙が出る踊りがしたい」

 「例えばアフリカに行っても、どこに行っても身一つで自分を表現できる。その方法が僕にとってはダンスだったんです」。様々な自己表現がある中で、絵を描くことでも、歌を歌うことでもなく、踊ることを選んだ理由を明かす。誰かのダンスに憧れたのは、自分がダンスを始めてからだったという。「テレビに出ていなくても才能がある人がいるんだ、と気づいた時に嬉しくなったし、“本物”に会った瞬間に震撼しました」と懐かしそうな表情で当時を振り返った。また、注目するダンサーの話題では、「ヤン・リーピンさんのような人と会って話がしたいし、一緒に踊りたい。白河直子さんとデュオで踊れたこともものすごく幸せで。彼女のような、見ていてグッとくる、涙が出る踊りがしたいですよね」とも。“グッとくる涙が出るような踊り”は、辻本が振付するそれぞれのダンスにも共通する感覚であるように思う。

 人生のターニングポイントについて聞くと、驚くほど多く人物の名前が挙がった。自分の人生や考え方を正したいという時に出会う人は、必ず心に刻まれるのだという。「ダンサーや制作者、アーティストが多いかもしれません。気分が落ち込んだ時に、教えを請いたい、逃げずに話さなくちゃいけない、会いに行かなきゃいけない人がたくさんいる。人と会って触れ合うことで、少しずつ自分の気持ちが正されていくので、全部の作品に『この人に会わなかったらこれはなかった』と思っています」。多くの人とのかけがえのない出会いが、今の辻本を形作っているのだろう。

 最後に挑戦したいことを尋ねると、「演出家になりたい」と力強く語ってくれた。「チャレンジャーでいることが自分の感性を保ち続けることにつながる。誰々と仕事をしたい、という夢をずっと持っていたいですね」。常にストイックに自らの表現に向き合い続けるーーそんな飽くなき探究心が、多くの人を魅了する辻本知彦のダンスや振付を生み出す源になっているに違いない。

(取材=鳴田麻未/文=編集部/写真=林直幸)

※辻󠄀本の「辻󠄀」のシンニョウは点1つ。環境によっては点2つで表示される場合あり。

■連載「振付から紐解くJ-POPの現在地」インデックス
第1回:s**tkingz
第2回:TAKAHIRO(前編後編

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