“ネガティブの共有”から生まれる新たなシーン 眩暈サイレンら若手アーティストの台頭から紐解く
人はなぜ、ポジティブでまばゆい光よりもネガティブで視界や思考をシャットアウトする闇に惹かれるのだろう。もちろん、すべての人がそうとは限らないのは百も承知だ。だが、誰しも一度はこういった経験はないだろうか……悲しい出来事、悔しい出来事があったとき、どん底まで落ち込みネガティブ思考の自分に、そしてそんな状況に少なからず酔いしれてしまう、そんな経験が。
そういった状況に陥ったとき、無理にポジティブになろうとするのは逆効果だ、という話もある。脳科学者、医学博士、認知科学者の中野信子氏に以前話を伺った際、人は失恋したときに無理してポジティブな音楽を聴くよりも失恋ソングを聴くほうがストレス発散となり、前向きになれるというようなことを言っていたが、非常に腑に落ちるものがあった。無理をすればどこかに歪みが生じ、その歪みは見えないところで大きくなっていき、ある瞬間に破裂するかもしれない。ネガティブにポジティブを掛け合わせるよりも、ネガティブにネガティブを被せて倍増させるほうが、実は精神衛生上とても良いことなのだろう。
それもあってなのか、以前なら「ネガティブよりもポジティブ」という古い価値観を押し付けられ生きにくかったところを、今は「ネガティブのままでもよい、自分らしく生きることが一番だ」と背中を押してくれる環境も、少しずつだが生まれ始めている。学校や会社など、日常生活に潜むさまざまなストレスから解放されたいががめ、自身をネガティブな環境に置く。むしろこっちのほうがポジティブなのではないか……そう思うのは筆者だけではないはずだ。
となると、常に心に闇を抱え、日常生活の中ではマイノリティに属する者たちが普段聴く音楽にもこのような志向が反映されてもおかしくはない。2000年代に入ってから登場したamazarashi、凛として時雨のTK(Vo/Gt)によるソロプロジェクト・TK from 凛として時雨、そしてsupercellのコンポーザー・ryoがプロデュースするEGOISTなどは「内省的な歌詞と、ダークながらもその世界観とサウンドの作り込みの徹底さが魅力」のアーティストとして、ひとつの流れを築いてきたといっても過言ではない。
また、そういった先人たちに続くように、最近ではCö shu Nieや秋山黄色、須田景凪など新たな世代による次世代シーンも生まれ始めている。彼らの紡ぐ歌詞やサウンドスケープは前向きとは言い難いかもしれないが、だからこそリスナーの胸にストレートに届き、素直に共感できるという若年層も多い。2月6日にニューシングル『夕立ち』をリリースする眩暈SIRENも、この次世代シーンの中で頭角を表し始めたアーティストの1組だ。