MI8k『Cupid Power』インタビュー
ボカロP MI8kに聞く、独自の世界観の起源「インターネットは人と“作品”で繋がれる」
ご飯を美味しいと思えるくらいのメンタルで生きていきたい
——今回アルバムには「ラブ&デストロイ」(ニコ動25万回&YouTube27万再生)や、「嗤うマネキン」(ニコ動22万回&YouTube19万再生)、「もぬけのからだ」(ニコ動33万回&YouTube24万再生)であったり、シーンで人気な曲が収録されています。MI8kさんの中で、特に大事にされている曲なんてあったりしますか?
MI8k:そうですね、「タイムイーター」になるかな。この曲は、去年の6月に『特殊諜報機関MI8』ってミニアルバムを出した時にアレンジを変えたんです。2月にやるライブでもアレンジし直していて。でも、自分が一番落ち着く世界観はこのバージョンかもしれないですね。この歌の世界観が一番落ち着けるんですよ。なので、曲順として最初に収録したかったんです。あとは、「バスケットワーム」かな。僕が失恋した時に作った曲で。体重がめっちゃ落ちたんですよ。で、その元カノの誕生日に投稿しました(苦笑)。
——ええええ。そういう想いというか念が込められた曲なんですね。
MI8k:セルフカバーも、次の年の元カノの誕生日に投稿しました(苦笑)。でも、投稿するときは、お互いの嫌な感情はもうなくって。そのあと、普通に連絡きて「あの曲めっちゃよかったよ!」なんて言われたり(笑)。
——なるほどね(笑)。作品として消化できるってすごいことですね。アーティストならではの在り方ですね。
MI8k:思えば「バスケットワーム」から、自分の気持ちで曲を作るようになりました。それまでは想像ばっかりだったんですよ。
——あと、レトロな音使いのデジタル解釈である「ミセスアイロニ」もいいですよね。リズムやメロディが織りなすアンサンブルが気持ち良くって。
MI8k:最初は、アルバムの最後の“striped ver.”のアレンジだったんです。それを、はるまきごはんに作詞をしてってお願いして。
——なんで、委ねられたんですか?
MI8k:人と音楽を一緒に作ってみたかったんです。動画だと、絵や音楽とって感じなんですけど、音楽を一緒に作ってみたかった。その頃、はるまきごはんは「22世紀の僕らは」や「銀河録」を出してたのかな。それで知って、すぐにTwitterを通じてお願いしたんです。音を渡して戻ってきた歌詞に対して送った音源のアレンジはアグレッシブすぎるなって思って、そのタイミングでやってみたかった音作りでアレンジを変えたんです。
——そうなんですね。「もぬけのからだ」も時系列では古い曲になりますが、あらためて聴いているとメインストリームを突き刺すようなロック感がカッコいいですね。
MI8k:僕、ロックバンドの歴史も大好きで。『27クラブ』ってあるじゃないですか? ロックスターは、27歳でみんな死んでいくよってやつ。この動画の中にいろんなクリーチャーが出てくるんです。それは全部、ロックスターの死因やコンプレックスをイメージしているんです。カート・コバーンが死んだ時に母親が「うちの息子もろくでなしの仲間入りをしてしまった」みたいなことを言っていた記事を読んだことがあって。それって「いいな!」って思って。僕も仲間入りしたいなって(苦笑)。そういうストーリーのファンなんですよ。でも、僕はそっち側じゃねぇなって悲しさもあって。そんなことを思いながら、出すときは負のエネルギーを出しとこってタイプなんです。後に尾を引かないように出し切った曲や動画ですね。
——お話を聞いていると、曲にまつわるイメージが広がっていきますね。今回、アルバムのラストにご自身による歌唱でのセルフカバーが収録されています。アルバムの中ではどんな位置付けなのですか?
MI8k:本編最後の「そして、人になる」で人になりたかったんですよ。で、「ラブ&デストロイ」のセルフカバーで本当は終わってたんです。「ミセスアイロニ」は、ボーナストラックのボーナストラックな意味合いで。このアレンジは、はるまきごはんが気に入ってくれていたんで、いつか出したかったんですよ。
——アルバムの構成的にも美しくまとまった全19曲なんですね。そういえば、最近Twitterで「自分のエンジンの掛け方がわかってきた」みたいなことを書かれていたじゃないですか?
MI8k:ああ、そうですね。たぶん、今はわりかしお金が出ていく時期だなって思っていて。なんか自炊ばっかりしてます。料理するのは好きなんですよ。これはこれで悪くないなって。曲を作るだけじゃなくって料理や家事をやりながらのバランスがちょうどいいなって。最近バチっとハマったんです。もちろん、それでも手が足りてない感じはあって。もう二人ぐらい、自分が欲しいんですけどね。そう思えるだけ、今はやりたいことがたくさんあります。
——今回、『Cupid Power』という素晴らしいアルバムが完成しましたが、今後は、よりどんなことをやっていきたいと思われていますか? 夢的なというか野望というか。
MI8k:これからも美味しいご飯を食べられるように生きていきたいですね。それはご飯を食べて美味しいって思えるくらいのいいメンタルでいないとってことで。僕が食べたご飯が僕の体を作っているので結局は僕が食べたご飯が曲を作っているようなものですし。
——なんか、とても心があらわれる感じが。ちなみに、2月2日に、高円寺Highでライブがありますが、どんな感じになりそうですか?
MI8k:僕の曲って、ライブで出来そうなバンドの曲がないんですよ。なので、アレンジをし直していて。いろいろ考えながらやっていて、早くお客さんの反応を見てみたいですね。
——そういえば、昨年シンガーソングライター湯木慧さんの曲をアレンジした「キズグチ reborn by MI8k」も素晴らしかったんですよ。
MI8k:その頃、実はあまり仕事を受けたくなかったんです。自分の時間が無くなってしまうので。でも、湯木慧さんの曲「キズグチ」がとても良かったんですよ。ワガママ言いながらアレンジさせていただきました。あの曲をアレンジできて良かったなって。
——MI8kさんは、ご自分の世界観が明確なので、ネットカルチャーに限らずいろんなコラボレーションなどやれますよね。
MI8k:そうだとありがたいですね。自分の性格が変に邪魔をしなければいいですねぇ(苦笑)。
(取材・文=ふくりゅう(音楽コンシェルジュ)/写真=はぎひさこ )
■リリース情報
MI8k『Cupid Power』
1月23日(水)発売
¥2,000+税
1. Cupid Power ~interlude~
2. タイムイーター
3. ロックンロールイズペット
4. 絶対的少年値
5. ラブ&デストロイ
6. Enter
7. シルバーワープ
8. Escape Under NEON ~interlude~
9. ボイリング・ナイト
10. バスケットワーム
11. イン・レインボウズ
12. 嗤うマネキン
13. アクシデントコーディネイター
14. ミセスアイロニ
15. もぬけのからだ
16. そして、人になる
17. Let It Live (bonus track)
18. ラブ&デストロイ~selfcover~ (bonus track)
19. ミセスアイロニ ~stripped ver.~ (bonus track)