>  > ミト×岩里祐穂の“楽曲への向き合い方”

クラムボン・ミトの『アジテーター・トークス』Vol.6 岩里祐穂

ミト×岩里祐穂が語り合う“楽曲への向き合い方” 「ちょっとした発想で世界がひっくり返る歌詞を」

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 クラムボンのミトと、音楽に携わる様々な“玄人”とのディープな対話を届ける対談連載『アジテーター・トークス』。今回は、対談集『作詞のことば 作詞家どうし、話してみたら』を先日出版した作詞家の岩里祐穂との対談が実現した。

 『作詞のことば』は、岩里が作詞家を招いて行った全5回のトークセッションの模様を収めたもの。元チャットモンチーの高橋久美子から始まり、松井五郎、ヒャダイン、森雪之丞、坂本真綾という錚々たるメンツと共に、司会進行を介さず文字通り「一対一」で行ったやり取りは、お互いの歌詞に対する深くて鋭い洞察や、惜しみないリスペクトが飛び交っている。

 他アーティストやシンガーへの楽曲提供などで、名だたる作詞家たちと仕事をしてきたミトは、この本をどう読んだのだろうか。作曲家と作詞家の、楽曲に対する向き合い方の違いや共通点、ミトと岩里がタッグを組んだ時の制作エピソードなど、多岐にわたるトピックについて深く語り合ってもらった。(黒田隆憲)

「岩里さんは“ちょっと混ぜ込む違和感”が常に秀逸」(ミト)

ミト(クラムボン)

ーーお二人はもう、何度もタッグを組んでいますよね?

岩里:初めて一緒に作ったのは花澤香菜さんの曲でしたよね。

ミト:そうです。彼女の2ndアルバム『25』(2014年)に入っている「Make a Difference」という曲。僕の中では、例えばArt of Noiseとか、トレヴァー・ホーンのプロデュースした80年代テイストのサウンドを意識してたんですよ。オーケストラ・ヒットが入って、みたいな。そうしたら、それを汲み取った歌詞を書いてきてくださって。あれって、事前に話し合いましたっけ。

岩里:まず曲をもらって、それを聞いたときに「そういうことかな」と思って。で、確かミトさんに電話かメールで確認したんですよね、「YMO後期とか、あの辺りの雰囲気で歌詞を書きますけど、大丈夫ですか?」って。そしたら「ど真ん中ですー!」って返事が返ってきたの覚えてる(笑)。

ミト:まさに。『BGM』以降のYMOというか、ピーター・バラカンさんが書くようなちょっとポリティカルでシュールな歌詞が乗ったら嬉しいなと思っていたら、もうドンズバなのが来て。めっちゃグッと来ましたよ。

岩里:あれはね、私も書いててすごく楽しかった(笑)。

岩里祐穂

ミト:僕、タレントさんのプロジェクトにオファーが来ると、大抵は変化球を求められるんですよね。ある程度アルバムの方向性が決まったところで、「ちょっと変わった曲入れたくない?」みたいな時に呼ばれるパターン(笑)。

岩里:そうかも、ちょっと変態要員みたいな(笑)。私はその時は、北川勝利さんとか沖井礼二さんとかとタッグを組んで、香菜ちゃんの日常を切り取るような歌詞はそっちで結構書いていて。そこに、ふっとミトさんの楽曲をもらっったので、「あ、これは今までとは全然違う世界観で、俯瞰的な立ち位置のメッセージみたいなものが書けるかも、書きたい!」って思えたんですよね。

ミト:彼女の他のアルバムでも、大体そのパターンですよね。「Trace」(『Blue Avenue』収録/2015年)もそうだったし。

岩里:きっとミトさんも、それを楽しんでくれてると思ってたの。というのも、私はミトさんと出会う前からクラムボンが好きで、原田郁子さんの書くものすごくパーソナルな歌詞と、ミトさんの楽曲ががっちり結びついた時の「強固な世界観」というのを楽しんでいたんだけど、でもミトさんの楽曲だけをポンって渡された時に、何かすごく広がりを感じたんです。きっとミトさんも、郁子さんのパーソナルな方向性とは違うことを、自分に求めてるのかなと思って。

ミト:それはあります。岩里さんの言葉の乗せ方って、いつも音節に対してこちらの意図を汲んだど真ん中でありつつ、ちょっと混ぜ込む違和感みたいなものが常に秀逸なんですよ。例えば、COALTAR OF THE DEEPERSの「Dear Future」(2009年)。あの曲っていわゆるシューゲイザーサウンドで、言葉もちょっと浮遊感漂う感じなんだけど、サビの〈悲しみは〉というフレーズのハマりが変なんですよ。普通、そうじゃないだろ? みたいな入れ方をしていて英語っぽく聴こえるし、ちょっと床が抜けたような不安感を覚える。

岩里:「床が抜ける」ね、いい言い回し。使わせてもらおう(笑)。

ミト:いくらでも使ってください(笑)。「Trace」の時も〈一瞬の〉が〈You Should Know〉に聴こえたんだけど、そういうちょっと洋楽のサブリミナル効果みたいな感じ?(笑)。ROCKY CHACKの「Perfect World」(『狼と香辛料』第2期EDテーマ/2009年)もそう。Bメロでいきなり〈ミロのビーナス〉って出てくるじゃないですか。僕、この曲はもちろん『狼と香辛料』自体が原作から大好きだったんだけど、ミロのビーナスって作品と全く関係ないですよね? あの強烈な違和感はサイケを感じましたよ。

岩里:嬉しい。サイケっていわれるとすごく褒められた気がする。でも、自分じゃ「これくらい言葉を入れても大丈夫だ」と思ってやってたんですけどね(笑)。

ミト:この本の中で、(坂本)真綾さんに突っ込んでるじゃないですか、「アニメのテーマとか書くのに、突然アニメとは関係ない素材を真綾さん、よく入れてるけど、よくやるよね」って。「え、マジでそれ岩里さんが言う?」って僕は思った。

岩里:あははは! あそこでミロのビーナスが出てくるのは、「Perfect World」の対極としての「未完成」「不完全」を表したかったの。だから、私の中では全く脈絡がないわけでもないんだけど。

ミト:通常はアニメのエンディングだと、その作品の世界観の余韻の中から言葉を拾い集め、それを紡いでいくものなんですよ。少なくとも僕は、そういう気持ちでエンディングテーマを聴いているから、「Perfect World」を聴いていて本当にビックリしたんですよね。

岩里:今でこそ台本をしっかり読みこんでから作詞に取り掛かるけど、あの頃はまずあらすじをざっくりと聞いて、どの登場人物の関係性を書けばいいのかを決めたのね。それと作品のテーマが合致して、リスナーにどういう共感をもたらすか? を追求していくと、アニメの中に出てくる言葉であろうがなかろうが、私には一切関係なくなるのかも(笑)。でも確かに、そんな自分がよく真綾にあんなこと言ったね。

ミト:そうなんですよ(笑)。

岩里:そういえばヒャダインさんと話したとき、今井美樹さんの「雨にキッスの花束を」という曲の話になったの。これ、本ではカットされてるエピソードなんだけど、あのプロポーズの歌詞が『YAWARA』の主題歌になった時、すごくビックリして(笑)。でも、「あ、そうか。違うテーマでもいいんだ」と思ったわけ。例えば「幸福感」とか、どこか少しでも作品との共通点があれば、かけ離れてる部分の空白はリスナーが想像力で埋めてくれるし、逆に外れていることが「何なんだろう?」という好奇心につながる。そういう「余地を残す」ってことが、歌詞には必要なんだなって思ったんですよね。「それもあって、私はあんまり作品に寄せてないんです」ってヒャダインさんに言ったら、「いやいや、ちゃんと寄せてください」って言われました(笑)。

ミト:でもこの本、あっという間に読めたんですよ。とにかく面白くて。人選は、どんなふうに決めたんですか?

岩里:流れだったり、成り行きだったり(笑)。ただ、森雪之丞さん以外は基本的に一回はお話ししたことのある方たちでした。雪之丞さんは、軽くご挨拶したくらいでずっとニアミスだったんですよね。今井美樹さんと布袋寅泰さんの結婚パーティーでお見かけしたとか。

 でもね、今回5人と対談してみて、いちばん感覚が近いと思ったのは雪之丞さんでした。畏れ多いですけど、もしかしたらすごく近いところにいるのかもしれないって。私の勝手な憶測ですが。音楽を通して歌詞を書いているというか。やっぱりバンドをやっていた人ならではの感性みたいなものを強く感じましたね。

ーー雪之丞さんに「『バンビーナ』で僕が一番好きなフレーズはどれでしょう?」と聞かれて、ズバリ言い当ててましたもんね。

ミト:そうそう。それに、雪之丞さんと会話している時の岩里さんが、一番自分のことを俯瞰しているように思いました。自分の作風が変わったという話をしていましたよね。「キャッチーで強い言葉の歌詞を書け」って言われたけど、それができなくて。そうじゃないところ、日常に転がっている説明がつかないような気持ちを切り取って、それをどうキャッチーに聞かせるかにシフトしたって。

岩里:読み込んでくれてる(笑)。

ミト:もちろんですよ(笑)。あのやり取りは、まさに僕の思う「岩里さんらしさ」がどう形成されたのかを知れた、すごくスリリングな箇所でした。90年代って、キャッチーではなくてもうちょっと俯瞰した視点というか。ひねくれているというのとは別の「ちょっと冷めた視点」ってあったと思うんですよね。

岩里:80年代は、アイドル全盛の時代。とにかくキャッチーだったのが、90年代に入ってアーティストの時代になり、その時に私は今井美樹さんに出会い、雪之丞さんは布袋さんのようなロックアーティストの相棒になったというふうに、2人ともそこで大きく作風が変化したんですよね。

      

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