平井堅の持つ特別な吸引力 2018年最後に開店した『Ken’s Bar』を振り返る

 通常とは異なるアコースティック編成の上質でアダルトなムード、カバーも交えて自由気ままに歌うコンセプトライブ。店長・平井堅が皆様を歌でおもてなしする『Ken’s Bar』が、このほど開店20周年を迎えて全6公演のアリーナツアー『Ken’s Bar 20th Anniversary Special !! vol.3』へと規模を拡大した。昨年12月24日はそのツアーファイナル。センター席にはドリンクの置かれた円卓と椅子、ステージにはバーカウンター。ステージ後方の『Ken’s Bar』のネオンサインにあかりがともると、それが開店の合図だ。

 〈からっぽなのは誰でもなく この無様なあたし〉。クリスマスイブの幕開けにはスパイスの効きすぎる「かわいそうだよね」は、平井堅が初めて作詞作曲での楽曲提供をしたJUJUのアルバム「I」の収録曲で女性のせつない人生哀歌。一人でピアノを弾きながら、技巧的なファルセットを加えた圧巻のハイトーンで広い横浜アリーナに静寂を与えると、続く「思いがかさなるその前に…」は、アコースティックギターと二人で柔らかくしっとりと。音数は最小限、照明も最小限。わずか2曲で外の喧騒を忘れさせ、親密なバー空間へと観客を誘う。『Ken’s Bar』の持つ吸引力は特別なものだ。

「本日はツアー最終日、今年最後のライブパフォーマンス。命がけで歌いますので、どうぞよろしくお願いします」。

 3曲目に登場した「林檎殺人事件」は、1978年にヒットした郷ひろみと樹木希林のデュエットソング。当時を知る年代にとっては、おもちゃのメガネと振付まで完コピするリスペクト心に大拍手だが、メロディ楽器を一切使わず、パーカッションと歌だけの骨太なパフォーマンスが何たって素晴らしい。「I’m so drunk」の、アコースティックギターをリズム楽器のように使うワイルドでファンキーな演奏もしかり。極めつけは「POP STAR」で、あのキャッチーな大ヒット曲のコード進行をそっくり入れ替え、フリージャズばりの強烈でスパイシーな演奏は観客に挑戦するかのように刺激的かつ音楽的。唖然とするほどにかっこいい。

 そうかと思えば、「LIFE is…」と「センチメンタル」は王道ピアノバラードで、とことん美しくまろやかに。「一番ノリノリで聴きたい曲を乗れないようにする」と観客を笑わせながら、最後はしっかりと感動で締めくくる、見事なおもてなしぶりだ。

 ウッドベースが刻むスローでファンキーなリズムが、横浜アリーナの空気を震わせる。30分間の休憩をはさんだ後半1曲目「リバーサイドホテル」は井上陽水のカバーで、こうした隠れた名曲を引っ張り出すセンスと、どんな曲も平井堅スタイルに染め上げる歌のパワーはさすがのひとこと。さらに温かいピアノバラード「僕は君に恋をする」を歌い終えると、「I want your request〜」と歌いながらセンター席中央のサブステージへ。『Ken’s Bar』ならではのリクエストコーナーは、会場がどんなに大きくなっても変わらないお楽しみだ。

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