スカート 澤部渡、“変わらないこと”でポップミュージックに注ぐ熱意「楽しみ方の提案はしたい」

スカート澤部、ポップミュージックへの熱意

今も新しいものを作ってるつもりは一切ない

ーー初回限定盤のDVDに収録される、2018年3月10日のライブの動画も公開されました。今後もストリングスを投入したいでしょうか?

澤部:でも、今はもう生楽器をたくさん増やしたからといって派手になる感じじゃない気もするんですよね。世の中が求める派手さは、機械でやったほうが絶対いいっていうのはここ10年、20年でわかったことじゃないですか。

スカート / 回想 live at Shibuya CLUB QUATTRO 2018.3.10

ーーバンドでフィジカルにやるとしたら、派手じゃないものにしたほうがいい?

澤部:これまた難しいんですけどね。人間がいてその音が出てるほうが、僕は派手だしリッチだと思うんで。

ーー『20/20』って、メジャー1stアルバムなのにミニマムなバンドサウンドだったのでびっくりしたんですよね。

澤部:地味でしょ?

ーーそういう傾向は次のシングルにもつながっていく?

澤部:そうですね。『20/20』は自然と外に開くムードがあったんですけど、今は少し内向きになっている気がしていて。『20/20』で得た感触は絶対に必要なものなので、「開きながらも内に向くことはできないか」っていうのが今の課題のひとつなんですよ。

ーー開きながらも内に向く?

澤部:やっぱり暗い音楽が好きだってことじゃないですかね。暗くて悲しい音楽が好きってわけでもないんですけど、手触りとしての話ですね。

ーー澤部渡さんは、お母さんの影響でXTCを聴きはじめて、ムーンライダーズも好きなわけですが、目指すアーティスト像はあるでしょうか?

澤部:難しいこと言いますね。自分が目指してるところが見えてたらもっと楽なんだろうなとは思うんですよ。とにかく続けたいという気持ちはあります。60歳になってもアルバムを出せてたら一番いいよなぁ。

ーー澤部渡さんはかつて「自分の音楽は新しいことをしているわけではないので言語化してくれることに感謝している」という主旨のことを何度も発言していました。メジャーへと進んだ今も感覚は変わりませんか?

澤部:今も新しいものを作ってるつもりは一切ありません。ただ、これはある種の逆説でもあって。僕の大好きな偉大なる先輩たちは、そのときそのときの新しいことを常にやってきた人たちなんですね。僕はその先輩たちと同じ道を行くわけにはいかないんですよ。だから、誤解を恐れずに言うならば先輩たちと同じ道を辿らずに、いかに不運で不幸でドス黒いポップミュージックを作るかを考えてます。

ーー同じ轍を踏むわけにはいかないと。

澤部:常に新しいことを求めてきた先輩たちと同じように、新しいことをやり続けるのは自然なことだと思うんです。そうじゃない方法で私が何かをやらないといけないとなったとき、先輩たちがあまりやっていないことのひとつに「作風をあまり変えない」っていうのがあったんです。

ーーそれも勇気のいる選択ですよね。

澤部:前からそういうふうに考えてたんですよ。器用なミュージシャンじゃないことの言い訳だとも思うんですけどね。もしかしたら次のアルバムで急にミュンヘンディスコとかやるかもしれないですけど(笑)。

ーー澤部渡さんは、音楽マニアがやりがちな露骨な引用をまったくやらないですよね。

澤部:それも先輩たちの背中を見てのことです。でも、たまに出ちゃうんですけどね。

ーーあえて自分に枷をかけるのは、先に進もうという意志の表れですよね。

澤部:ですねぇ。

ーーメジャーで売れたいという気持ちはあるんですよね?

澤部:もちろんですよ。せっかくやってるんだから売れたいって気持ちになってきたんですけど、このまま売れたら一番いいじゃないですか。本当に最低なこと言ってますけど。「部屋で寝てるうちに5億円降ってこねーかな」みたいな(笑)。

ーースカートはサブスクリプションサービスで配信していないので、CDやダウンロードのような購入ベースということになりますね。

澤部:今サブスクに本当に感情がぐちゃぐちゃにされてるんです。どう自分が対応していくべきかをこの1年ずっと悩んでました。でも、せっかくパッケージっていうものを手に入れて100年以上経つわけじゃないですか。それがまた形を失くすことに抵抗があるんですよ。

ーーかつては楽譜だった音楽が録音芸術になり、フィジカルメディアになったものの、また形のないものに戻ってしまう。

澤部:本来は進化だし、ポップスのあるべき姿だと思うんですよ。でも、メリットもデメリットもありすぎるっていう状況で、この1年でそれが精査されたかというと意外とされてないんですよね。「もういいんじゃないの?」って気もするんですけど、そうなると自分が今までやってきたことや、自分が今後やっていくことはどうなっちまうんだっていう。

ーーそうなると、まだCDで売れるのが理想だと。

澤部:幻想にとらわれてますね、正直。たぶん結果的にはサブスクにも出すことにはなると思うんですよ、近い将来。でも、基本的には自分はやりたくないんです。音楽だけじゃ弱いですから。僕のビジュアルが良かったら別ですけど……いや、僕のビジュアルはすごくいいですよ!? でも、たとえばテレビ映えする甘い顔とかじゃないし、そこは補填できないし。〈読み捨てられる 雑誌のように〉なんて歌詞もありますけど(松本伊代「センチメンタル・ジャーニー」)、本当にそういうものになっちゃうんじゃないかなって。

ーーそういう危機感もあると。

澤部:沈みゆく船に乗り続ける覚悟をするか、新しいノアの方舟に乗るべきかどうか。そのどちらから「ボン・ヴォヤージュ!」と言うべきかみたいなね。

ーーその迷いを背負っているのがこの『遠い春』であると。

澤部:そうです。『20/20』もそうなんですけど。

ーーCDドライブが無い環境の人も多いですもんね。

澤部:そうと思うとつらくてさー。この間、若い子に「どうやって音楽聴くの?」って聞いたんですよ。そしたら、何の悪気もなく違法アプリで聴いてるんですよね。それを見たときに「はぁ~」ってマジで落ちこんじゃって。「音楽にお金を払うことの意味って自分はどうだったんだろう?」ってところまで戻るんですよ。それを下の世代に強制したくないけれど、そういう楽しみ方があるっていう提案はしたい。「パッケージに力を入れてきたのが自分たちだ」っていう自負もあるんです。『遠い春』のパッケージも、取って代われないものなんです。……いつもしてる話になってきましたね。もしかしたらスッとサブスクで出てるかもしれないですけど(笑)。

(取材・文=宗像明将)

■リリース情報
『遠い春』
発売:10月31日(水)
<収録曲>
M1.遠い春(映画「高崎グラフィティ。」主題歌)
M2.いるのにいない
M3.返信
M4.忘却のサチコ(テレビ東京系「忘却のサチコ」オープニングテーマ)
全4曲入り

【通常盤(CD Only )】¥1200+税
【初回限定盤(CD+DVD)】¥2000+税

<DVD収録内容>
“eight matchboxes, seventy one cigarettes” at Shibuya CLUB QUATTRO 03.10.’18
1. さよなら!さよなら!
2. 視界良好
3. ハル
4. だれかれ
5. 月光密造の夜
6. CALL
7. 魔女
8. 回想
9. ガール

<CDショップ購入特典>
α-STATIONレギュラーラジオプログラム「NICE POP RADIO」にて毎回披露されている澤部渡によるレア弾き語り音源CD!
NICE POP RADIO SESSIONS #1 A
1. 都市の呪文
2. ランプトン

<TOWER RECORDS全店特典>
NICE POP RADIO SESSIONS #1 B
1.CALL
2.静かな夜がいい

<インストアライブ情報>
タワーレコード新宿店 7F イベントスペース
11月3日(土・祝)18:00~
内容:弾き語りライブ、サイン会

『α-STATION SPECIAL公開録音EVENT 「NICE POP RADIO」 In TOWER RECORDS京都店』
11月4⽇(日)タワーレコード京都店内イベントスペース
α-STATION公開録音トークイベント:15:30START/16:30END(予定)
メジャー1stシングル「遠い春」CDジャケットサイン会:公開録音イベント終了後スタート

【DJ】 スカート
【MC】 前田彩名(α-STATION DJ)
【STYLE】観覧自由(公開録音トーク弾き語りライブイベント)
(※α-STATIONで11月16日(金)20:00-21:00 ONAIR予定)
詳しくはこちら

■ライブ情報
『Major 1st Single「遠い春」リリースツアー
"far spring tour 2018"』
11月18日(日)宮城・仙台enn 2nd
開場17:30/開演18:00
11月25日(日)札幌・KRAPS HALL
開場17:00/開演17:30
12月2日(日)福岡・INSA
開場17:30/開演18:00
12月14日(金)大阪・Shangri-La
開場18:30/開演19:00
12月16日(日)愛知・名古屋TOKUZO 
開場17:30/開演18:00
12月19日(水)東京・キネマ倶楽部
開場18:00/開演19:00
チケット情報はこちら

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