大野雄二が語る、ジャズに対する飽くなき探求心 「色んな面白さが無限に詰まってる」

大野雄二、 ジャズへの飽くなき探究心

「プロは“つかみ”と“お約束”がないとダメ」

ーー演奏者同士の関係といえば、本書の中にある、Lupintic Sixメンバーの方々との座談会が大変興味深かったです。例えば、長年付き合いのある市原康さん(Dr)やミッチー長岡さん(Eb)とは感覚的なやりとりですが、宮川純さん(Key)や和泉聡志さん(Gt)といった若手の方はすごく勉強家で理知的な印象を受けました。世代によってプレイヤーの気質に違いは感じますか。

大野:それはある程度あるだろうね。時代が違うから。僕らの若い頃は情報が一切なかったから、独学でレコードを聴きまくってコピーして、正しい答えもなく、きっとこれで合ってるんだろうなって感じだった。でね、イッチー(市原康)やミッチーの時代になると、少し情報も入ってきて一寸やりやすくなってきて、和泉や純の時代は情報があり過ぎくらい。そりゃあプレイヤーの気質も変わるよね。ただ、和泉や(宮川)純のすごいところは、頭でっかちになってないし、フィーリングが熱いとこだね。2人とも本当に良いプレイヤーだよ。だから今のLupintic Sixは若手、中堅、ベテランと素晴らしいバランスのバンドになってるんだよ。

ーーなるほど。さて、今はMCにギターにと大活躍の和泉さんですが、彼はもともとロック畑の方ですよね。出会った当時、将来伸びるかもしれない、というような予感はありましたか?

大野:当初はまったくそういう予感はなくて、単純に彼のスケジュールが空いてたから声をかけたんだ(笑)。僕はライブハウスを中心にギタリストを探してたんだけど、そういう場所で毎日弾いているようなプレイヤーは割とジャズ的なこともできる人なんだ。逆にスケジュールが空いてるということは本当にロックしかできないんだろうなって。Art Blakey & The Jazz Messengersみたいな編成のバンドにするんだったらギターは必要なかったんだけど、そことは異なる音楽を作ろうと思っていて、ロック系のギターが必要だったから一か八かで和泉を入れてみたら、結果、大アタリだったね。

ーー座談会での市原さんとのやりとりも印象的でした。

大野:イッチーは出会った時から、オリジナリティーの強い独特のドラミングをするやつだった。ドラマーの中ではその曲にどうやって合わせて叩くかをよーく考えてプレイするし、フィルインがシンプルで音数が少ない。僕の好みのドラマーだね。ただ、Lupintic Sixというバンドは全国のホールでルパンナンバーを中心に、敷居は高くないけど上質のジャズをどこでも同じように聴かせたいバンドなのに、イッチーは自由気ままにその時の気分でテンポを変えちゃうんで、たまにメンバーに怒られたりするんだよ。そこだけは守ってもらわないとね。一度「ドンカマ」でテンポ確認してからスタートしてって彼に言ったら、「機械に指示されるのはキライだ」なんて言い出すから……(笑)。

ーーどこまで自由にできるかというのは、メンバー同士の“おもんばかり”というわけですね。この本には様々な音楽理論が書かれていて、大野さんは「テクニックをひけらかす音楽ほどつまらないものはない」ということも強調されています。

大野:これは僕の好みを言っているわけで、すべてを否定しているわけじゃない。テクニック自体は大事だよ。例えばジョン・コルトレーンは、ある時期からやたら音符だらけの演奏をしていた。でも、コルトレーンはそこに説得力があるから成り立つわけで、頭の中にある情報を考えなしにバカバカ鳴らしているのとは違う。だから僕は、くだらない部分をもっと減らして、整理整頓してから出すべきだと言ってるのさ。

ーーそういうことを各パートのメンバーに伝えているのですか?

大野:そうだね。あと、つかみはOKか、とかね。

ーー“つかみ”と“お約束”は大事だとおっしゃってましたね。

大野:今のLupintic Sixのようなバンドは、ジャズ大好きなお客さんだけじゃなくて、ルパンが好きでその音楽も好きだからコンサートに来てくれるって人もたくさんいる訳。マニアックにジャズ好きな人専門のバンドでは無いんだよね。まぁ言ってみれば、Lupintic Sixはメジャーバンドになってきちゃったので、お約束は大事。ソロの頭でガッツリつかんで(つかみ)、ホットにガンガンいってお客さんが一番楽しんでるときに拍手しやすいように終わる(お約束)。ジャズコンサートに慣れないお客さんでも安心して拍手できるような終わり方、これが実は結構難しい。でもこんなお約束はある意味ミュージシャン側だって嬉しいことなんだ。終わった瞬間にワーって拍手されたら、ドヤ顔の一つもしてみたくなるじゃないか。どうだー!って。それが無いとダメなんだよ、プロは。

「芸術は家で練習する時にやるもの」

ーー大野さんは藤家虹二さん(Cl)や白木秀雄さん(Dr)といった伝説的なミュージシャンのバンドにも参加してこられました。様々なバンドを経験することで、そういうお客さんへの見せ方を勉強された部分はありますか。

大野:たまたまね、両方ともサービス精神旺盛なバンドだったんだ。だから割と王道というか、お客さんへのサービス精神みたいなところはその頃に覚えたね。でも、その当時の他の人から見たら、僕はもともとサービス精神が旺盛なタイプだったしね。日本のジャズバンドはどっちかって言うとお客さんへのサービスが苦手な印象がある。みんな芸術家寄りというか。僕は、芸術は家で練習する時にやるものって思うんだ。お客さんに観てもらうなら、こっちもある程度のことは我慢して企業努力をしないとダメってこと。それでも、自分の本気の演奏の大半は聴いてもらえるからね。ただし、”コレしかやらないぞ、お客さんなんて来なくってもOK”って人がいても良いとは思ってるよ。否定はしない。大変だろうけどね。

ーーもともとサービス精神は旺盛だったんですね。

大野:そうそう。だって、お客さんが来てくれた方がプレイしてて楽しいからね。だから僕は、当時からみんなが知っている曲は1ステージに2曲は入れたいと思ってたし、たとえアドリブがわからないお客さんでも、知ってるメロディが流れれば大分印象は違うわけでしょ。そしてコマーシャルの音楽を作るようになって、そういう考え方が決定的になったのかも。

ーーYou & Explosion Bandでの活動やコマーシャルの音楽を作っていく中で、観客のことを一番に考えるという方向性が定まっていった、と。

大野:そうだね。

ーーステージマンとして、この先もライブをずっと続けていきますか。

大野:曲を書くのは大変なんだけど、演奏はずっとやってきたことだからやめられないね。やっぱり、お客さんが目の前にいることが一番面白い。もし自分のバンドを気に入ってくれるスポンサーがいて、最高の環境でいくらでも練習していいよ、アルバムを作るお金も全部出すよって言ってくれたとしても、それだけでは全然つまらないかな。やっぱお客さんがいないとね。ライブはお客さんあってのものだから。ライブは生き物! 一寸先はヤミ的な所もあるしね。

ーーライブが活動する上での活力になる。

大野:なるねー。例えば小さいライブハウスだといつもほぼ満員になるんだけど、贅沢な話、立ち見がいないと少しだけ物足りないというか。もし、ファンがあと東京に2000人から3000人いたら、埋まってるだけじゃなくて、もっとザワザワ感のある状況にもっていけるわけでしょ。だから、もうちょっとなんとかしてやろうって思うんだ。このもう一寸なんとかしたいって気持ちが、活力になるわけさ。逆にね、お客が入らないことに慣れてるバンドはお客さんがいないのが当たり前だと思って、少し多いだけで喜んじゃうから。それじゃダメなんだ。

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