「音楽のプロフェッショナルに聞く」第11回
姫乃たまが東洋化成に潜入! カッティングエンジニアに聞く、アナログレコードへの思い
プレス工場と試聴室見学へ
「レコードの日」(註:毎年11月3日に東洋化成が主催しているイベント。東洋化成プレスの参加アーティストのレコードが一斉に販売されるので、つまりとーってもたくさんのカッティング作業があります)が近づいていて、この後も立会いがあるそうなのでカッティングルームを後にして、藤得さんとプレス工場に向かいました。
藤得:カッティングで溝をつくるので、そこで音が決まるのは確かなんですけど、レコードはそれ以降の工程も結構あるので、カッティングはレコード化するための第一歩って感じです。レコード自体は塩化ビニールで出来ているんですけど、カッティングはラッカーという柔らかい材質の盤に施すんです。
ーーカッティングからプレスの間にも工程があるんですか?
藤得:はい。ラッカー盤はすごく傷つきやすいのと、それだけだとレコードの複製ができないんですよ。プレス作業って、塩化ビニールを上下から圧迫して両面に溝を刻むんですけど、ラッカー盤でやるとレコードの溝が山になっちゃうじゃないですか。
ーーほんとだ。それでは聴けない。
藤得:そこで電鋳メッキっていう工程があるんですけど、ラッカー盤に金属を乗っけるんです。500オングストロームくらい。
ーー500オングストローム……?!
藤得:すごい薄く乗せるのを何回か繰り返して、それをベリベリっと剥がします。その剥がしたやつが「マスター盤」になるんですけど、溝が山になるじゃないですか。すると今度は音が心配なので、また溝がある「マザー盤」を作って確認して、もう一回メッキで山の盤を作って、それが「スタンパー盤」っていうプレスの機械に装着する盤になります。
ーーえっえっ、そんなに工程が?
藤得:僕、なんか面倒くさいものが好きで、もしかしたらそこがこの仕事の魅力かもしれません。
プレス工場は社内の一室にあるので、扉を開けるとオフィスからいきなり工場になって少し驚きました。
藤得:これがレコードの元です(真っ黒な塩化ビニールの塊を見せながら)。
ーーうわあ、なんとも言えない見た目です。
藤得:これ全体に100トンくらいの圧力をかけて、プレスします。ラベルも、この機械で一緒に圧着させます。
ーー100トン。
藤得:プレスしたばかりのレコードは熱々なので、冷やして固めます。円盤からはみ出した部分は冷やして固めた後にカットして袋に詰めておきます。
ーー再利用するんですか?
藤得:昔は再利用してたんですけど、何回も練ると異物が混ざったり、硬くなったりするので、最近はピュアな材料だけで作っています。
ーー実はこのレコードが、あの曲のレコードのプレス時にはみ出した材料で出来ていた……っていうのもロマンがありますけど、そういう事情があるんですね。そういえばピクチャー盤はどうやって作っているんですか?
藤得:あれはまた作り方が違って、スタッフが一枚一枚手作業でやっているので……かなりアナログです。中に紙が入っていて、紙に直接溝を作るわけにはいかないので、薄いシートに溝を作って挟んで製造しています。シートの間に埃などが入っていないか確認しながら、中の紙の水分が出て曇らないように乾燥機にかけるんです。乾燥もやりすぎると変色してしまうので……見ます。アナログです。
ーー目で見て確認するんですね。
藤得:ピクチャー盤に限らず、一見問題がなくても音はわからないので、200枚に一枚抜き打ちで音に異常がないか確認しています。そのための試聴室があるので行ってみましょう。