椎名林檎、“和の精神”のテーマとの共鳴ーー2020年東京五輪開閉会式演出メンバー選出までの歩み
昨年12月、椎名林檎が2020年東京オリンピック(五輪)・パラリンピック開閉会式の演出メンバーに加わることが発表された。
椎名といえば、2016年8月のリオ五輪閉会式で披露された東京大会プレゼンテーションに「クリエーティブ スーパーバイザー/音楽監督」として関わったことも記憶に新しい。彼女のライブステージでもよく目にする旗を用いた演出に加え、日本の礼儀作法を取り入れた舞いなど「和」の精神を基調としながら、AR(拡張現実)による先進的な目新しさも光るショーが展開され、話題になっていた。
この閉会式の生中継終了後に放送された、セレモニー制作の舞台裏映像で椎名は「4年に1回で頻度も多くないし、それを目の当たりにできることはそれぞれの人生に揺さぶりをかけてくる出来事ですよね」と東京五輪についてコメントしていたが、それ以前から五輪という祭典に大きな関心を寄せていることが度々メディアなどで語られてきた。2014年に放送されたNHK『SONGS』(NHK総合)では、「椎名林檎~どうなる?東京五輪~」という副題を掲げ、東京オリンピック・パラリンピック競技大会委員の理事を務める蜷川実花と対談。東京五輪の閉会式はどうなるかについて「とにかく恥かかないようなものに」、「外から見ている日本のカルチャーとのギャップを、ここへ来て相殺してゼロ地点というのを(示したい)」と熱っぽく語っていた。
また、その翌年に都庁で行われた「東京のグランドデザイン検討委員会」に、有識者の一人として参加。「東京を芸事の本場にしたい」と東京万博開催を提言し、五輪の開催とともに芸術の魅力を世界に発信すべきだと発言していた。そういった前段があったのち、2016年1月にリオ五輪・パラリンピック閉会式における「フラッグハンドオーバーセレモニー」検討メンバー(プランニング担当)に就任、そしてこの度の東京五輪も引き続き携わることが決定したのである。
また音楽活動の面でも、五輪に寄り添った作品を発表する機会が増えている。2016年夏には新曲「13 jours au Japon ~2O2O日本の夏~」を配信リリース。同曲は1968年グルノーブル冬季五輪の記録映画のテーマとして書き下ろされた原曲に新たな日本語詞を加え、2020年東京五輪への思いを込めた楽曲に仕上がっている。そして、翌年10月に放送された特別番組『内村五輪宣言!~TOKYO2020開幕1000日前スペシャル~』(NHK総合)にも出演、リオ五輪「フラッグハンドオーバーセレモニー」のためにリメイクした「東京は夜の七時」をテレビ初披露していた。
椎名林檎といえば、着物でギターをかき鳴らす姿が日本一様になっているアーティストだと思う。筆者が初めてその姿を観たのは「やっつけ仕事」のMVだと記憶しているが、中学生だった当時は「和とロック」の組み合わせを異様なものと感じていた。このMVは、2000年に福岡の芝居小屋で行われた一夜限りのコンサート『(稀)実演キューシュー 座禅エクスタシー』のゲネプロ日に撮影された作品であり、同コンサートは和を基調とした演出だったことでも知られている。もっとも椎名はデビュー当初より和の雰囲気を漂わせてきたアーティストであったが、『座禅エクスタシー』の強烈な世界観は2003年の全国ツアー『雙六エクスタシー』にも受け継がれていき、以来「和とロック」、「着物とギター」の組み合わせは異様なものというより、「椎名林檎の世界」として確立された感じがある。今や常連となった『紅白歌合戦』や他歌番組でも着物姿で楽曲を披露することがあるが、椎名林檎といえば和のアーティストというパブリックイメージがすっかり定着している。