『キミの隣』インタビュー
halcaが語る、シンガーとしての目標 「アニメが好きな人が増えるきっかけになれたら」
CHiCO with HoneyWorksのCHiCOなどを輩出した2013年の『ウタカツ!オーディション』の第1回で準グランプリに選ばれ、本格的なデビューに先駆けて発表された携帯小説サイト『野いちご』の10周年記念コンピレーションアルバム収録曲「キミの空」や、野いちご文庫の小説「32回、好きって言うよ。」のイメージソング「つぶやきレター」での透明感溢れる歌声が話題になっていたシンガー、halca。彼女がいよいよ、デビューシングル『キミの隣』で<SACRA MUSIC>よりメジャーデビューを果たす。
この楽曲は、職場で再会したオタク同士の恋愛を描いたテレビアニメ『ヲタクに恋は難しい』(フジテレビほか)のエンディングテーマ。恋のワクワク感が宿ったポップなメロディや、〈1ミリずつ解っていくきっと〉というフレーズが印象的な歌詞で登場人物たちの不器用ながらもピュアな恋愛を描いた楽曲を、持ち前のキュートな歌声で見事に歌いこなしている。2013年のオーディションから時を経て、本格的なデビューを迎えた彼女に、これまでの歌とのかかわりや作品に込めた思いを聞いた。(杉山仁)【最終ページに読者プレゼント応募有り】
成海ちゃんと宏嵩くんだけの曲じゃないのかも
ーーhalcaさんが最初に「歌を歌いたい」と思ったきっかけはどんなものだったんでしょう。
halca:歌は小さい頃からずっと好きで歌っていたんですけど、最初にちゃんと気づいたのは、小学生の音楽の授業で、ひとりずつ歌う歌のテストでした。そのときに先生に褒めてもらえたのがすごく嬉しくて、「自分の好きな歌を、得意なものにできるように頑張りたい」と思ったんです。ちょうどその頃、父が私のために初めて買ってくれたCDがYUIさんの「again」(2009年『鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST』オープニングテーマ)で、家族で出掛けるときもYUIさんの曲をよく車の中で聴いたり、歌ったりしていました。曲の速いパートを歌える日と歌えない日があって、毎回チャレンジするのが楽しみで。「あっ、今日は言えた!」って(笑)。
ーーアニソンをちゃんと意識しはじめたのはいつ頃ですか?
halca:意識して聴きはじめたのは中学生ぐらいですね。私の家はケーブルテレビに入っていたので、24時間ずっとアニメが観られるチャンネルがあったんです。他の子がバラエティを観ているようなときにも、ずっとアニメを観ているような子供だったと思います。毎日アニメを観て、そこでアニソンが流れていてーー。当時は『カードキャプターさくら』が好きでよく観ていました。あの作品はさくらちゃん(木之本桜)がとにかく可愛くって、小狼(シャオラン)くん(李 小狼)もかっこよくて。それに、知世ちゃん(大道寺知世)の手作りで毎回さくらちゃんの衣装が変わるところも大好きだったんです。『カードキャプターさくら』って登場人物に悪い人がいなくて、すごく優しい世界なんですよね。他にも好きなアニメは色々あって、多すぎて困ってしまうんですけど、つい最近だと、『とらドラ!』を見返したりもしています。あの作品は、ツンデレな大河ちゃん(逢坂大河)と竜児くん(高須竜児)がいて、中盤からは結構ドロドロしてくるじゃないですか(笑)。そういう、複雑な人間関係を描いた作品も好きです。今は『フルーツバスケット』も観返しています。通して観るのはもう3回目ぐらいですけど、好きな作品はよく見返します。
ーー『カードキャプターさくら』シリーズはもちろんのこと、「オレンジ」(『とらドラ!』)や「For フルーツバスケット」(『フルーツバスケット』)など、音楽も名曲揃いの作品がたくさん挙がっていますね。中でもhalcaさんが好きなアニソンを挙げるなら?
halca:私の世代の作品ではないですけど、親戚にDVDをプレゼントしてもらった『鋼鉄天使くるみ』のOPテーマ「KissからはじまるMiracle」です。この曲はお母さんと一緒にカラオケに行ってよく歌っていた思い出の曲です。そういえば、母は私が小学生の頃『ふしぎ遊戯』にハマっていたときに、その下敷きとえんぴつキャップを探して手に入れてくれたりもしました。そういうのもあって、私はずっとアニメも歌も好きで、自然とアニメを観て、自然と歌を歌っていて。でも、「将来の夢」を書く機会があったときに、「私は何になりたいんだろう?」「世の中にはどんなお仕事があるんだろう?」と悩んだこともあります。その時に「歌を歌うお仕事があるんだ」ということをふと気づいたんです。実は声優さんにも憧れてたりもします。中学生の頃は合唱部に入ったり、活舌やアナウンスの練習をするために放送演劇部に入ったりもしていたんです。
ーー好きなことが、次第に目標に変わっていったんですね。
halca:ちょっとずつ、自分がなりたいものが見えてきた感じです。「ぼやぼやぼや……パキリ!」って(笑)。それで、お母さんに「歌手になりたい」と相談をしたら、母は調べ物が大好きなので、受けられるオーディションを大量にリストアップしてくれました。「今やってるオーディションはこれ!」って(笑)。そこにはアニソン以外を対象にしたものも含まれていたんですけど、そのリストを並べて見ていたときに、『ウタカツ!オーディション』を指さして、「halcaはいつもボカロの曲やアニソンを歌っているから、これがぴったりなんじゃない?」と言ってくれて。私自身、このオーディションならピッタリだろうし、やりたいことにも近いと思ったので、その1本だけに絞ってオーディションを受けることにしました。
ーーそれが2013年に開催された第1回の『ウタカツ!オーディション』だったんですか。
halca:はい。準グランプリに選んでいただいたときはビックリしました。最後にひとりずつ名前を呼ばれる段階で、「あれ……? もしかして私、グランプリ……!」って浮かれたりもしていて(笑)。今思うと恥ずかしいです。結局私は準グランプリでしたけど、でも私、そのときグランプリになったのがCHiCOちゃんで本当によかったな、と思うんです。もし私がグランプリに選ばれて、突然人前に出て歌っていたら、きっと大変なことになっていたんじゃないかと思います。デビューするまでにCHiCOちゃんのライブを観に行かせていただいたりもして、ゆっくりゆっくり今回のデビューまで辿り着くことができたのは良かったと思います。一時期は「早くデビューしたい」とか、「このままで大丈夫なのかな?」と思ったこともあったんですが、今は信じてやってきて本当によかったなという気持ちです。今回のデビューが決まって、支えてきてくれたファンやスタッフの皆さんに感謝でいっぱいの気持ちです。
ーーデビュー曲「キミの隣」は、テレビアニメ『ヲタクに恋は難しい』のEDテーマですね。この曲は主人公の成海ちゃん(桃瀬成海)と宏嵩(二藤宏嵩)の不器用な恋愛が描かれたとてもいい曲だと思うのですが、同時に作品に登場する他の人たちや、作品を越えて色々な人に向けられた歌のようにも感じられるのが印象的でした。halcaさん自身はどんなことを意識していましたか?
halca:今回の「キミの隣」は『ヲタクに恋は難しい』のための曲なので、もちろん作品の世界にすごく合っている曲です。でも、私自身の友達の話とか、自分自身の経験にも当てはまる部分があるので、アニメの世界だけではなくて、いろんな人たちに共感してもらえる曲なんじゃないかとも思うんです。“私も/僕もあんなことあったな”って。実は最初は、主人公の成海ちゃんになりきって、ヲタクを隠しているときの可愛らしい成海ちゃんのイメージで歌おうと思っていました。でも、何度も歌っているうちに、「この曲って、成海ちゃんと宏嵩くんだけの曲じゃないのかも?」と思うようになって。それで、今までいろんな人に聞いた話や、自分が観てきた作品を思い出して、「もっとたくさんの人が共感できるように歌おう」と思いました。
ーーなるほど、だからこそいろんな人の表情が浮かぶような曲になったのかもしませんね。また、後半にはhalcaさんの歌がどんどん早口になっていくテクニカルなパートがあって、この部分も恋が加速する様子が魅力的に表現された楽曲の大事なポイントだと思いました。
halca:はい、その部分は私もすごく頑張ったところです。実はレコーディングの日にどうしても上手くできなくて、その場にいるみなさんと私とで、一時間ぐらい練習して何とか歌い切れたパートなんです。曲に対する思い入れに加えて、そういうレコーディングのときの思い出も重なって、私自身すごく印象に残っている部分です。
ーーお話を聞いていて、最初に話してもらった小さい頃に早口のパートを練習していたhalcaさんのエピソードがオーバーラップしてきました(笑)。
halca:(笑)。もしこの曲を聴いて、あのときの私ぐらいの年齢の女の子が、私と同じように「今日は歌えたよ、お母さん!」って喜んでくれるようなことがあったら、すごく素敵ですね。今回の「キミの隣」は、すごく長い時間をかけてレコーディングをさせていただきました。作曲や編曲をしてくれるみなさんも色々と差し入れをしてくださって、「なんてみなさん優しいんだろう」と思ったんです。みなさん夜もずっと私のレコーディングを見守ってくれて。
ーー本格的なデビューのタイミングとあって、レコーディング自体にも思い出深い出来事がたくさんあったんですね。
halca:そうですね。ディレクションをいつもしてくださっている、本当はすごく優しいんですけど、私がへにゃへにゃにならないように厳しいことを言ってくれる方がいて。その方に、サビに向かう直前の〈ドンカン同士って/思ってるのになんで?/こんな日に限って/察しがいいの〉の〈察しがいいの〉のニュアンスを、すごく褒めてもらえたのも嬉しかったです。あっ、でも、“すごく”はちょっと盛ったかもしれません(笑)。いつもは「もう一回やってみよう」となることが多いのに、「今のはよかったね。これでいこう!」と言ってくださって。次のレコーディングの時には、もっと褒めていただけるように頑張りたいです。
ーー自分の歌のどんなところに強みを感じますか?
halca:えーっと……高音のパートが出るところですね(笑)。
ーーhalcaさんの歌声は高い音域でも無理やり声を出しているように聞こえないというか、とても滑らかに聞こえますよね。「キミの隣」を聴いていてもすごく感じたことでした。
halca:それは私自身意識しているところなので、そう言っていただけるとすごく嬉しいです。以前、母に「あなたの声は高いとキンキンする、裏声がオバケみたい」と言われたことがあって。それ以来、なるべく高音の部分も綺麗に歌えるように練習をしてきたんですよ。「耳に優しく届くといいな」と思って、ひとつひとつのフレーズを歌っています。
ーーでは、halcaさんがこの曲の中で特に好きなフレーズというと?
halca:「キミの隣」だと、さっき話した〈察しがいいの〉のところや、その1番の〈真顔じゃ困る〉のところです。この部分の、ポップなサビに向かう前に一旦落ち着いて「ここからサビに向かいますよ」という雰囲気は、この曲のポイントになる部分だと思っているので。好きな部分だからこそ、レコーディング中にそこを褒めていただいたのはすごく嬉しかったです。
ーー『ヲタ恋』のエンディングで自分の曲がかかるのを観た感想は?
halca:最初はずっとソワソワしてました(笑)。曲が流れはじめても、楽曲クレジットを確認するまでは「これ、本当に私なのかな?」ってずっと半信半疑というか、疑って観ていて。
ーーいやいや、絶対halcaさんの声じゃないですか!
halca:はい、そうなんですけど……(笑)。曲に合わせて成海ちゃんの動きがついたりしているのを観て、「キミの隣」に合わせて考えてくださったんだと感動しました。そこから、サビで自分の名前が出てきて「わぁ!!」となったんですけど、隣に母がいたので思い切りは喜べなかったんです。グッとこらえつつ、心の中では思い切り喜んでました。