『けいおん!』楽曲が音楽シーンにもたらしたもの サブスク解禁を機に改めて考える

 2009年放送開始のアニメ『けいおん!』の登場から10年近くが経とうとしている。この作品はいわゆるアニメ好き以外の一般層まで取り込み、CDチャートから動画投稿サイト、そして日本中の楽器屋から軽音楽部まで巻き込んだ一大ムーブメントに膨れ上がった。この度、その関連楽曲がサブスクリプションサービスで解禁され、また注目を浴びようとしている(参考:Apple Music【はじめての『けいおん!』】)。ここでは今回解禁された楽曲の中から主要曲をピックアップしてその音楽性にフォーカスし、楽曲の持つ魅力から今回の”解禁”が持つ意義にまで踏み込みたい。

「Cagayake!GIRLS」
作詞:大森祥子
作曲:Tom-H@ck
編曲:Tom-H@ck

桜高軽音部『Cagayake!GIRLS』

 物語の幕開けとなる最も重要な第1期のOPテーマ。トゲトゲしいギターとタムの激しい連打から、最初の歌詞〈Chatting Now ガチでカシマシ~〉へと着地する導入部。メインボーカルを務める平沢唯(豊崎愛生)の声質が非常に穏やかで柔らかく、荒々しいバックの演奏との対比が際立つ。アニメ的な可愛らしいボーカル、そしてバンドサウンド。この対照的な「声」と「楽器」の融合が、まさしくこのアニメのテーマにも繋がる。さらにこのバックの演奏陣は、このアニメが女子高生の部活動を描いた作品であることに忠実である。プロのような演奏ではなく、だからと言って素人同然のお遊びでもない。その中間のアマチュアバンド感覚が演奏陣によってリアルに表現されている。曲調は非常にポップで、自由に飛び回る軽快なメロディや裏でピコピコと鳴るアレンジ面など、若い女性の可愛らしい一面を切り取った楽曲だ。

「Don't say "lazy"」
作詞:大森祥子
作曲:前澤寛之
編曲:小森茂生

 第1期EDテーマ。オープニングの「Cagayake!GIRLS」と比べるとクールさが全面的に押し出され、メインボーカルの秋山澪(日笠陽子)の強く吐き出すような歌い方や、〈本能に従順忠実〉といった語感の良い歌詞が特徴だ。ギターの歪んだバッキングとルート音を8分で駆け抜けるベースなど、若さ溢れる衝動で詰め込まれている。オープニング曲と比べるとまた違った女子高生像を描いていて、キャラクター設定が一人ひとりしっかりと描かれているのも感じ取れる。

「ふわふわ時間」
作詞:秋山澪(かきふらい)
作曲:前澤寛之
編曲:前澤寛之

 ハンドクラップ越しにノリの良いギターのリフから始まる。重過ぎず、軽過ぎもしない、絶妙な加減に抑えられたこのギター。導入こそギターだけなものの、すぐにベースとドラムが合流する。この三つの楽器は、ほとんど同量の存在感が与えられていて”誰もが主役”といったサウンド感だ。そこに女性声優の声が混ざり合うことで急激にポップな響きを持ち始める。ボーカルやコーラスを務める女性声優陣は、4人とも2005年以降にデビューしたばかりのまだまだ駆け出しの声優たち。ギター一本の登場から徐々に仲間が集まって最終的にひとつになる、そうしたストーリーを楽曲構造からも感じ取れるだろう。ワンコーラスを終えてやってくる〈ふわふわ時間(タイム)〉を3回繰り返す部分は”バンド感”が凝縮されていて、これぞ『けいおん!』なポイントだ。

「GO! GO! MANIAC」
作詞:大森祥子
作曲:Tom-H@ck
編曲:Tom-H@ck

 第1期OPに引き続きTom-H@ckが作編曲を務めた第2期OPテーマ。オリコンによれば、アニメキャラクター名義での史上初のシングル首位だという。それだけでも『けいおん!』現象の大きさを見て取れるが、何よりもまずこの楽曲の音楽性がセンセーショナルであったことを忘れてはならない。BPM250の高速のシャッフルで繰り広げられる難度の高いリズムに、高低差の激しい主旋律が乗っかり、さらにサビのラストで〈Chance Chance〉→〈Jump Jump〉→〈Fun Fun〉……とこれでもかと上昇してゆく天井知らずのメロディ。以降のアニソンでは比較的散見される要素ではあるが、当時としては非常に斬新だっただろう。サウンドにおいては、オルガン系の音色を奏でるキーボードの存在感が増したことがこの曲のイメージを決定づけている。斬新なサウンドながらも、一聴した限りではあくまでポップに仕上がっている。

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