西廣智一の新譜キュレーション 第3回
Judas Priestらベテランたちの新譜から考える、HR/HMの伝統芸を後世に引き継ぐ意味
最後に紹介するのは、これを新譜と呼ぶのはちょっと疑問が残るかもしれませんが……80年代のL.A.メタル期から活動を続けるブラッキー・ローレンス(Vo / Gt)率いるW.A.S.P.の最新作『Reidolized: The Soundtrack To The Crimson Idol』です。本作は1992年に発表されたW.A.S.P.のアルバム『The Crimson Idol』のリリース25周年を記念して、現在のメンバーで再レコーディングしたほか、当初『The Crimson Idol』に収録予定だった4曲を新たに追加レコーディングし、ブラッキーが当初想定していた形にまとめあげられています。もともとが非常にコンセプチュアルかつシアトリックな作品でしたが、全16曲、CD2枚組という大作になったことで、そのシアトリック感もより強まっています。
基本的にリメイクバージョンは原曲に忠実なので、『The Crimson Idol』オリジナル版を愛聴したリスナーも違和感なく楽しめるはず。「1992年を代表するHR/HMアルバム」の1枚として今日まで高く評価され続けている傑作がこういう形でアップデートされるというのも、伝統を後世に残すという観点では重要かもしれません。特に今回のアップデート版には、アルバム『The Crimson Idol』に伴い制作されたものの現在まで公開される機会のなかったオリジナル映画『The Crimson Idol』も映像もDVD / Blu-rayで同梱されているので、ぜひ音源と一緒に楽しんでほしいところです。
以上、アルバム5作品に加え、今回はおまけとして……現在来日中のHelloweenの最新シングル『Pumpkins United』もあわせて紹介します。このシングルは現編成のHelloweenに初代シンガー兼ギタリストのカイ・ハンセン、バンドがワールドワイドな人気を獲得するのに一役買った2代目シンガーのマイケル・キスクを加えた7人編成でレコーディングされた楽曲で、今回のジャパンツアーもこの編成で行われています。ジャーマンメタルをここ日本に広めた立役者たちが一堂に会し、自身のルーツを振り返りつつ新たなコンテンツを生み出すというその姿勢も面白いですし、改めて「Helloweenとはなんだったのか?」に真正面から向き合った1曲としても非常に意味のあるものだと思います。先のMichael Schenker Fest同様、こういった“お祭り的”な作品が続くというのは、もしかしたら本当に「伝統を後世に引き継ぐ」ことについて考えるタイミングなのかもしれませんね。
■西廣智一(にしびろともかず) Twitter
音楽系ライター。2006年よりライターとしての活動を開始し、「ナタリー」の立ち上げに参加する。2014年12月からフリーランスとなり、WEBや雑誌でインタビューやコラム、ディスクレビューを執筆。乃木坂46からオジー・オズボーンまで、インタビューしたアーティストは多岐にわたる。