クラムボンというバンドの“特異性” 徳澤青弦カルテットと紡いだビルボード公演を見て

ビルボード公演に見たクラムボンの“特異性”

伊藤大助

 亀田誠治プロデュースの通算3枚目、『ドラマチック』収録曲である「ララバイ サラバイ」は、クラムボンの無邪気な遊び心が詰まったアレンジだった。イントロでは、まるでインドの古典楽器サーランギーのような、不思議な音色の楽器を弾いていた原田が間奏でピアノに向かうと、それまでドラムを叩いていた伊藤が彼女の側へ走り寄り、おもむろに連弾をやり始めた。すると今度は、グロッケンシュピールを叩いていたミトが2人の横に並び、3人で連弾を始めたのだ。原田、ミト、伊藤が並んでピアノを弾く……初めて見るその「絵」に感動しているのも束の間、再び各々の「持ち場」へ戻ると、後奏ではカルテットと共にまるでSigur RósやÁsgeirら、北欧アーティストのような力強く壮大なアンサンブルを奏で、オーディエンスの多幸感を引き上げていった。

 他にも、まるでニール・ヤングやWilcoを思わせるフォーキーなアコギのストロークと、寄せては返す波のようなカルテットのオーケストレーションが、雄大な自然と生命が織りなすリズム&ハーモニーのようでもあった「tiny pride」(『2010』収録)、オリエンタルな響きがドビュッシーを思わせる美しいピアノと、地を這うようなコントラバスが鮮やかなコントラストを織りなす「バイタルサイン」(2005年『てん、』収録)を披露し、ライブ会場限定販売の最新ミニアルバム『モメント e.p. 2』から、「タイムライン」を演奏して本編は終了。アンコールでは、「Slight Slight」(2016年『モメント e.p.』収録)を、まるでOasisやThe Verveのような、骨太のチェンバーロック的なアレンジで聴かせた。ステージ背面のカーテンが開き、屋外のイルミネーションが目の前に広がると、オーディエンスからはため息にも似た感激の声が上がった。

 作者にこれだけ愛されたら、きっと楽曲も本望だろう。音楽的なキャリアを重ね、新たなスキルを身につけるたびに既存の楽曲と新鮮な気持ちで向き合い、その時点での自分のベストを尽くして新たなアプローチを探っていく。そう、クラムボンは、自分たちが作り出してきた作品に対し、常にそんな姿勢で挑んできたのだ。朋友、徳澤青弦とクラムボンにより、リアレンジ〜リビルドされた楽曲たちが生まれ変わる、その「瞬間の悦び」を目撃しているような、そんな奇跡的な一夜だった。

■黒田隆憲
ライター、カメラマン、DJ。90年代後半にロックバンドCOKEBERRYでメジャー・デビュー。山下達郎の『サンデー・ソングブック』で紹介され話題に。ライターとしては、スタジオワークの経験を活かし、楽器や機材に精通した文章に定評がある。2013年には、世界で唯一の「マイ・ブラッディ・ヴァレンタイン公認カメラマン」として世界各地で撮影をおこなった。主な共著に『シューゲイザー・ディスクガイド』『ビートルズの遺伝子ディスクガイド』、著著に『プライベート・スタジオ作曲術』『マイ・ブラッディ・ヴァレンタインこそはすべて』『メロディがひらめくとき』など。

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■セットリスト
M1 Re-Re-シカゴ
M2 希節
M3 はなれ ばなれ
M4 tiny pride
M5 ララバイ サラバイ
M6 バイタルサイン
M7 タイムライン
EN Slight Slight

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