太田省一『ジャニーズとテレビ史』第三十七回:ジャニーズWEST『炎の転校生』
ジャニーズとインターネットの関係性に変化? ジャニーズWEST出演『炎の転校生』から紐解く
そうしたなかで、ジャニーズWESTの7人も躍動している。
今回のドラマでは、原作の主人公が年を経ていまは「種火学園」という高校の校長となっている設定だ。そこに集められた「駆(かける)」という偶然同じ名前を持つ7人の高校生がジャニーズWESTの役どころである。
桐山照史は名古屋弁を話す時代劇好きの熱血漢、中間淳太はIQ180という頭脳を持つ常に冷静なメガネ男子、神山智洋は弱虫だが泣くと異常なパワーを発揮する甘えん坊、藤井流星は金髪ロン毛の美形で自分も大の「美しい男子」好き、濵田崇裕はボクサーで戦闘能力も高いが融通の利かない堅物、小瀧望は昔懐かしいリーゼントのトサカ頭で滅法ケンカの強いヤンキー。こうした漫画からそのまま抜け出てきたような個性的なキャラクター揃いのなかにあって、重岡大毅だけは川島海荷扮する女子生徒に一目ぼれしてしまうごく「フツー」の高校生だが、これも見方によっては少年漫画の典型的な主人公キャラだ。そんな彼らが、怪しげな高校に転校生として潜入し、問題を解決していく。
毎回、彼らひとり一人に見せ場があるのも見どころだ。たとえば、実は熟女好きの一面がある甘えん坊役の神山智洋が、好きになった悪役生徒の母親と繰り広げるなんとも言えない濃い芝居は一見の価値があるし、アクションシーンでは際立って格好良い役の濱田崇裕が見せる「おバカ」な一面も笑いを誘われる。クールな頭脳派役の中間淳太が苦手の運動会で意外な活躍を見せる場面も少年漫画的熱い展開に上手くはまっている。とにかく7人全員が与えられたキャラクターを迷いなく全力でやり切っていて、それが心地よい。
その一方で、彼らの役名は「シゲオカ駆」「キリヤマ駆」「ナカマ駆」など、全員の名字が本人そのままになっている。当然それぞれのキャラクターは創作されたものだが、ドラマのなかで「カミヤマくん」とか「フジイくん」とか呼び合ったりしている場面があると、現実のジャニーズWESTにも自ずと重なって見える。そうしたこともあって、ふとした瞬間に本来のアイドルとしての魅力、グループの一体感がにじみ出て、それがこのドラマの隠し味にもなっている。
今年の4月でCDデビュー3周年を迎えたジャニーズWESTだが、デビュー曲「ええじゃないか」などの曲調や関西出身のノリの良さもあって“お祭り”のイメージは強い。その点、今回のようないかにも現実離れしたキャラクターが活躍するコメディドラマはぴったりだろう。ドラマの随所に挟まれるメンバー同士のボケ、ツッコミのトーンや間合いの良さも光る。そのように全員がキャラクター的なコミカルさを表現できることは、得難い武器である。
とは言え、彼らの演技は明るさ一辺倒なわけではない。小瀧望扮する「コタキ駆」がヤンキー女子との、桐山照史扮する「キリヤマ駆」がタイムスリップした江戸時代の町娘との恋愛絡みの場面でそれぞれが醸し出す切なさ、藤井流星扮する「フジイ駆」が肥満児であった過去をコンプレックスではなく親からの愛の証しであると切々と訴える場面の説得力、重岡大毅扮する「シゲオカ駆」が一人だけ「フツー」の高校生であるがゆえに時おり浮かべる戸惑いの表情の真実味など、全体が能天気なまでに明るいこのドラマのなかでは、逆に深く印象に残る。
ジャニーズWESTの本質的な魅力、それはこのふり幅の大きさにあるのではなかろうか。光が強烈であればあるほど、そこにできる影も鮮やかさを増す。そのふり幅から感じ取れる類まれなスケール感こそがジャニーズWESTの持つ可能性であり、そこに今回彼らがジャニーズとワールドワイドなネットをつなぐ大切な役割を任された理由もあるように思える。
■太田省一
1960年生まれ。社会学者。テレビとその周辺(アイドル、お笑いなど)に関することが現在の主な執筆テーマ。著書に『SMAPと平成ニッポン 不安の時代のエンターテインメント』(光文社新書)、『ジャニーズの正体 エンターテインメントの戦後史』(双葉社)、『木村拓哉という生き方』(青弓社)、『中居正広という生き方』(青弓社)、『社会は笑う・増補版』(青弓社)、『紅白歌合戦と日本人』、『アイドル進化論』(以上、筑摩書房)。WEBRONZAにて「ネット動画の風景」を連載中。