大野雄二が明かす、Yuji Ohno & Lupintic Sixの充実とこれから「気分が違えば、音も変わる」

大野雄二が語る、新バンドの充実

 「僕は思いのほかロマンチストだったりもする」

――大野さんもジャズミュージシャンとして出発され、そこからポップミュージック、スタジオミュージシャンとしてキャリアを重ねられました。演奏時の感覚はどちらに近いですか?

大野:プロデューサー活動のときはスタジオミュージシャンだね。弾いているときは僕もプレイヤーだけれど、昔みたいに完全には切り替えられない。ジャズを辞めて、スタジオミュージシャンとしてのやり方を極めて、ライブをやるようになってまたちょっと昔に戻った、という感じはあるけれど、やっぱりもうひとりの自分が同時にどこかにいるので。昔は「ええい、行っちまえ!!」って感じで弾けたんだけどね。

――5月の『ルパン三世コンサート〜LUPIN! LUPIN!! LUPIN!!! 2017~』のような、熱いライブでもそうですか。

大野:うん。(もうひとりの自分は)一応ちゃんといますよ、いまは。

――さて、今回は『ルパン三世』の40周年でもあり、あらためてルパンの音楽に向き合った部分もあると思うのですが、どうでしたか? ライブを観ていても、さらに多くの人に愛されている感じがあります。

大野:時間は黙っていても過ぎるわけで、みんなが思うほど実は“周年”というのは意識してないね。ただ、アレンジに関しては、ある意味もう開き直ってる。これだけ長くやってればマンネリになるに決まってるし、ただアレンジで訳のわからないものにしようと思えばいくらでもできるけれど、「これだけ変わりました!」と言っても、「それなら違う曲やればいいじゃん」ってなるでしょう? そもそも、聴いてくれるファンによろこんでもらってナンボだから、それは違うだろうと。だから、40年もありとあらゆるアレンジをしてくれば、新しいものなんてそうそうできない! って開き直ってるんです(笑)。そのさじ加減を楽しんで欲しいね。

――そのなかにも、佐々木詩織さんのボーカルなど、新しい要素が入ってます。

大野:同じアレンジだったとしても、気分が違えば音も変わる。メンバーが変われば当然、また新しいものになるし、それでいいのかなとも。詩織ちゃんに関しては成長が本当に早いし、もうほとんどアドバイスもしていないね。良い感じで大人になってます。

――元気のいいファンキーな曲でありながら、少しブルーな感じ、メロウなニュアンスがあるのが、ルパン音楽のひとつの特徴だと思います。大野さんの得意な分野だと思いますが、その点についてはどう考えていますか。

大野:まぁこれは僕のミュージシャンとしての大きな特徴だと思うね。リアルジャズピアニストからスタートして、CM音楽をやり、劇伴をやり、と色々やってきた中でできてきたものだし、あと僕は思いのほかロマンチストだったりもするからね。ついでにもうひとこと言っちゃうとアルバムを作るときって、リズミカルでファンキーな部分とメロウな部分の両方がないとダメだから、一番気をつけているのはテンポ感の違い。あとは、編成が厚い薄いという違い。ハードな曲もあり、そこにメロウな曲をうまく組み合わせる。それが最初に考えることだね。構成をあまり考えないでスタートして、できてみたら全部イケイケの曲だった、ということにはならないようにしてる。

――大野さん自身としては、どちらが好みだ、ということはありますか。

大野:ないなぁ。ファンキーでハードなものやメロウでセクシーなもの、全部好きだよ。あとね、アレンジに関してだけど、これは時期によって変わってくるんだよね。隙間に音を入れて、装飾をいっぱいつけて……というふうに、やたらとアレンジする時期もあれば、そこで「なにバカなことをやっているんだ」と思う自分が出てきたり。もっと言うと、「アレンジって、最終的には何もしないのが一番なんじゃないの?」って思ったりね。でも、またちょっと経つと「やっぱ空いてるところを埋めるのがアレンジだ」なんて、その繰り返し。何となく傾向としては、トリオなんかでやるときはなるべく埋めず、Sixのときはほどよく埋める、という感じかな。

――この間のライブでも、ソロのコーナーでは“埋めない”で、ライブ全体を引き締めていましたね。今作では「愛のテーマ 2017」が9曲目に収録されましたが、今回はどんなアレンジにしようと考えたのでしょうか。

大野:この曲はわりとステージでやってるものに近い感じ。ずっとこの雰囲気でやっているけれど、音源にしたことがなかったので。ストリングスも入っているけど、ストリングスなしで演奏しても大丈夫なように作ってるから。逆に「TORNADO 2017」はこれまでステージでやってきたものとタイプを変えようと思って、かなりテンポを速くして、少しラテンフレーバーをつけたんだ。

――ラテンフレーバーもお得意ですね。以前、70年代~80年代に、青山のレコード屋に通って、あらゆるジャンルの音源をごっそり買っていた、というお話も伺いましたが。

大野:いわゆる、骨董通りのお店なんだけど、店員さんが評論家みたいな人ばっかりだったんだよ。フレンチ・ポップスとか、アフリカの音楽とか、当時はよく知らなくて。アメリカとブラジルの音楽はもともと得意だったけれど、ヨーロッパ的なものは知らなかったから、すごく勉強になったね。店員さんに「あなたが気になっているレコードは全部取っておいてくれ」と言って、実際に買ったもんだよ。

――大野さんの音楽的ルーツのなかには、ヨーロッパのものや、アフリカなどの土着的なものもあるということですね。

大野:うーん、昔ほどではないけどね。ちょっとはあるかな。僕はけっこうブラジルものが好きなんだけど、いま「フレンチ・ボッサ」ってあるでしょ? あれは、ブラジル人でフランスに住みついちゃった人、つまり本物がやっているんだけれど、何十年もやっていると、やっぱりちょっとおフランス的に洗練された音楽になっていく。それも嫌いじゃない。ってことは、ちょっとミックスされている方が好きなのかな。僕の場合は。ドがつくミックス好きかもね。

――なるほど。ファンクは70年代までのものが好き、というお話もありましたが、いろいろなフレーバーをミックスしていけば、まだ発展していきそうですか?

大野:えっ、僕の音楽スタイルが今後どう変わってくかってこと!? うーん、どうでしょう? 難しいな。今の僕は派手な仕草とか地味にスゴいみたいな、とっても変なことしか考えてないから。まぁ期待していてください。それよりね、日本の音楽界に当てはめてみると、これから先ある程度は発展すると思うけど、けっこう出つくしている感もあるし、焼き直しの連続的なスタイルになっていくんじゃないかな。ちなみにね、ジャズが一番すごかったのって、フリージャズが頂点に行ったときなんだと思う。そして、人がやっていないことをやろうとして、相手にされなくなってしまった。新主流派と言われたハービー・ハンコックとか、頭のいい人たちが理論を積み重ねていったけれど、普通の人が聴くと難しくて訳がわからない。その点、マイルス・デイヴィスっていう人は、本質的には変わってないのに、人を使うのがうまくて、いつも旬の人を入れて、自分のプレイをカメレオンみたいに新しく聴かせていた。だからきっと、普通の人も聴きやすかったんですよ。やっぱり、ごくシンプルに作ることが大切なんだと思うね。音楽スタイルにこだわり過ぎずにね。個人的には、そのタイプで大好きな人たちがいるんだけど、それはアトランティック・レコードが素晴らしかった頃の、アレサ(・フランクリン)やダニー・ハサウェイとロバータ・フラックもののバックバンドのプレイなんか好きだね。

――大野さん自身もトリオでも活躍されていますが、ジャズから受ける刺激も、持ち続けていますか?

大野:トリオでジャズをやるとき、僕はどちらかと言うと時代遅れですから。ハードバップが一番好きなので、逆にそこから外れないようにしてます。それをいまの人が聴くと、普通にお店で聴いているピアニストとは違う、と思われるんだ。なんかわかりやすい、と。

――今作も難解なものではなく、聴いていてとても楽しいですね。

大野:そうでしょ? Lupintic Sixの音は楽しくてナンボの世界だから。それと、かなりイケイケで作ったから。

――次の構想もありますか?

大野:Sixももちろんだけど、いまはFujikochansと組んだ形でライブも含めをもっとたくさんやっていけたらいいなと思うね。

【Music Video】BUONO!! BUONO!! (BUONISSIMO)~Short ver.~ /Yuji Ohno & Lupintic Six

――今作でもう一点、ライブで盛り上がる定番曲でもある「BUONO!! BUONO!!」についても聞かせてください。今回のバージョンはいつも以上にハードですね。
 
大野:今回は思うところがあって、テンポをちょっと速くして、キーも上げている。前のものは女の人が歌いやすいキーにしていたんだ。だから今回女の人はけっこうがんばらないと難しいんだけど、バンドの音はよりハードになったら、ますますライブで盛り上がる曲になっているよ。

――全体を通じて、セクションと大野さんが組み合わさるとやはり素晴らしく、You & Explosion Bandバンドのような大掛かりな作品も、また聴いてみたいなと思いました。

大野:ありがとう。近いうちにまた、この手のものも出しますよ。ただね、今のSixはホントに素晴らしいから、このバンドメインでいろんなことをやっていきたいね。大きいやつからレギュラーものまで。

(取材=神谷弘一)

■リリース情報
Yuji Ohno & Lupintic Six『RED ROSES FOR THE KILLER』
発売:2017年6月21日(水)
定価:¥3,000+税

<収録内容>
1. TORNADO 2017
2. RED ROSES FOR THE KILLER 2017
3. CRAZY IN LOVE feat.詩織
4. MIDNIGHT WHOOPIE
5. GOLDEN TIME feat.TIGER
6. BLUES FOR RED
7. BUONO!! BUONO!!(BUONISSIMO)
8. SUPER HERO~peace ver.  feat.TIGER
9. 愛のテーマ 2017
10. ルパン三世のテーマ~peace ver. feat.詩織

■関連リンク
大野雄二オフィシャルサイト

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