森朋之の「本日、フラゲ日!」vol.54
秦 基博、岡崎体育、TETSUYA……正統派SSWからネット発新世代まで男性ソロの充実
歌の主人公は、娘を必死で愛し続け、育ててきた“パパ”。しっかり見守り、そんな娘が愛する人と出会い、結婚することになった。そして彼女はこう呟く。「お父さん、お母さん、今まで本当にお世話になりました」とーー。Kのニューシングル『桐箪笥のうた』表題曲(作詞:寺岡呼人/作曲:K)は、泣けるウェディング曲の新たな定番になりそうな“卒パパ”ソング。まず寺岡呼人が歌詞を書き、Kがまるで童謡のような素朴なメロディを与えたこの曲は、現代版「親父の一番長い日」(さだまさし)と呼ぶべき楽曲に仕上がっている。ストーリーテラーに徹し、日本語の歌詞をしっかりと手渡すように歌うKのボーカルに心を打たれる。
ねこぼーろ名義でのネットシーンを中心とした活動を経て、2014年から自分が歌う形でキャリアをスタートさせたササノマリイは、エレクトロニカ、ロック、ポップスを融合させた音楽性、優れた映像表現(楽曲「共感覚おばけ」のMVは国内外のアワードで多数の賞を獲得)を併せ持つ新世代のクリエイター。緻密かつハイブリッドなサウンドメイクも彼の大きな武器だが、本作『game of life EP』ではソングライター/作詞家としての才能を大いにアピールしている。その中心は、盟友・ぼくのりりっくのぼうよみをフィーチャーした「game of life feat.ぼくのりりっくのぼうよみ」。ヒップホップとポップスをきわめてナチュラルに共存させながら、“人生という名のゲーム”の息苦しさ、儚さをリリカルに描いたこの曲はこの先、ササノマリイの代表曲として認知されることになりそうだ。
■森朋之
音楽ライター。J-POPを中心に幅広いジャンルでインタビュー、執筆を行っている。主な寄稿先に『Real Sound』『音楽ナタリー』『オリコン』『Mikiki』など。