村尾泰郎の新譜キュレーション 第12回

The Magnetic Fields、Le Ton Mité……宅録的サウンドによるストレンジでポップな音楽

 実験的なアーティストが集まった異色のヒップホップ・レーベル、<アンチコン>の人気者、ヨニ・ウルフ率いるWHY?。4年半ぶりの新作『Moh Lhean』は、ヨニの自宅スタジオで初めてレコーディングされ、そのスタジオの名前がアルバム・タイトルになった。ヒップホップ色は控えめになっているぶん、持ち前のメランコリックなメロディーが際立っていて、ホーンやストリングスなど様々な生楽器を加えたオーガニックな質感が特徴的。アルバムの前半は継ぎ目なく曲が展開したりと、緻密に音が作り込まれていて、それが本作の狙いだったのかもしれない。ヨニの心象風景を色彩豊かに音像化したような、パーソナルでそれでいてスペクタクルな広がりも感じさせるアルバムだ。5月に予定されている来日公演が楽しみ。

WHY? – This Ole King (Official 360° Video)

 アメリカの宅録界のレジェンドといえば、R・スティーヴィー・ムーア。70年代から自宅でせっせと宅録に励み、これまでリリースした作品は400タイトルを越える。そんな彼の新作『Make It Be』は、元Jellyfishのメンバーで、ベックやポール・マッカートニーなど様々なミュージシャンと共演してきたジェイソン・フォークナーとの共演盤。今回はムーアが曲を書いて歌い、フォークナーが演奏やレコーディングでサポートしたらしい。“こんな良い曲、書いたっけ?”と思わせるくらい、フォークナーはムーアのポップ・センスを引き出していて、メリハリが効いたアレンジやタイトな演奏にフォークナーのセンスと貢献が光っている。もちろん、ガレージ感溢れる粗いサウンドやサイケデリックな歪みなど、ムーアのアクの部分もしっかり拾っていて、どちらのファンも楽しめる会心の仕上がりだ。

R Stevie Moore Jason Falkner ~ I H8 Ppl (2017)

 そんなムーアと過去に共演し、ムーアの後継者ともいえるのがLAの奇才、アリエル・ピンクだ。今回はこれまでにも度々共演してきたWeyes Bloodことナタリー・メーリングとコラボEPP『Myths 002を発表。本作はアートフェス、『Marfa Myths』のために制作されたもので、海外ではアナログとデジタルのみのリリースだったが日本限定でCD化された。即興音楽集団、Jackie-O Motherfuckerの元メンバーだったナタリーのアシッド・フォーク的な妖艶な歌と、アリエルのストレンジなポップ・センスが融合。なかでも、2人がデュエットを聴かせる「Tears On Fire」の強引な展開が最高だ。まさに美女と珍獣という組み合わせだが、EP1枚ではもったいない。ぜひ、次はアルバムを期待!

■村尾泰郎
ロック/映画ライター。『ミュージック・マガジン』『CDジャーナル』『CULÉL』『OCEANS』などで音楽や映画について執筆中。『ゴッド・ヘルプ・ザ・ガール』『はじまりのうた』『アメリカン・ハッスル』など映画パンフレットにも寄稿。監修を手掛けた書籍に『USオルタナティヴ・ロック 1978-1999』(シンコーミュージック)などがある。

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