小熊俊哉の新譜キュレーション 第1回
小熊俊哉のキュレーション連載スタート! “2017年のロック”を提示する新鋭の5作
はじめまして、小熊です。今回から「新譜キュレーション」のコーナーに仲間入りすることになりました。錚々たる執筆陣に囲まれてチビリそうですが、海外の注目リリースを中心にバリバリ紹介していこうと思います。どうぞよろしく。
さっそくですが、第1回のテーマは「王道ロックを担う新鋭」です。例えばジャンルや国境を越えたブラック・ミュージックの隆盛ぶりに比べると、洋楽のストレートなロックは影が薄くなって久しい昨今。かくいう自分もここ数年はロックを聴く回数が減っていたのですが、最近になって風向きが変わってきたような気もしていて。そんなことを考えていた矢先、リアルサウンドの神谷編集長に呼び出され、そこで「洋楽ロックへの導線が失われている」という話になったわけです。私も編集部に在籍していた『クロスビート』など、ここ数年で洋楽誌が相次いで休刊したこともあり、殊にロックだとリアルタイムな動向を伝えるメディアはほぼ壊滅。自分自身も書き手として、情報が入ってこない状況に焦りを覚えていたのですが、ふと世の中を見渡してみたら、フレッシュな新世代が続々と台頭していたわけです。これをスルーするのはもったいない! 今日的な感性でロックならではのダイナミズムを奏でる、気鋭の5組を紹介します。
まず大推薦したいのはCommunions。ド直球のメロディーと有無を言わせぬスケール感。ここまでパワフルで胸がすくようなギター・ロックを聴いたのはいつぶりだろうと感激したのが、彼らのデビュー・アルバム『Blue』の冒頭に収録された「Come On, I’m Waiting」です。
バンドが結成されたのは2014年。地元デンマークのコペンハーゲンでは徹底した美意識のもと、ハードコアやインダストリアルなど先鋭的な音楽シーンが黄金期を迎えていたなかで、彼らはポップで煌びやかなアンサンブルを武器に、コアなリスナーから熱狂的な支持を獲得していきます。時にダンサブルでUK色の強いサウンドは「The Libertines×The Stone Roses」と評され、リアム・ギャラガーにも似た少年的なハイトーンから“第2のOasis”との呼び声も。それに彼らは、なんといってもシリアスな佇まいが最高です。上掲したMVでも、音は甘いのに楽天的なムードは皆無。かつてのポスト・パンクにも通じる空虚感や冷え切った眼差しには、ここ数年のロックに不足していた怒りとリアリティがとことん備わっているような気がします。満を持しての初アルバムに『Blue』と名付けたのも、そんな純粋さの表れなのか。2月26日に『Hostess Club Weekender』で実現する初来日ライブも楽しみです。
平均年齢20歳のCommunionsに続いて紹介するのは、18歳のデクラン・マッケンナ。デヴィッド・ボウイに心酔し、15歳を迎えた頃には100曲以上の楽曲を自宅でレコーディングしていたというUK出身の神童は、Fountains Of Wayneの大ヒット曲「Stacy’s Mom」を下敷きにした(のであろう)最新シングル『The Kids Don't Wanna Come Home』で、目を見張るべきポップ・サウンドを展開しています。
しかし、パリのテロ事件を通じて体感したフラストレーションを題材にしたというだけあり、ハスキーであどけない歌声や甘酸っぱいメロディーとは裏腹に、同曲のMVでは逃げ場のない若者の怒りが爆発。ほかにも、FIFA(国際サッカー連盟)の汚職問題をテーマにした「Brazil」や、自殺したトランスジェンダーの子どもにまつわるネットの投稿にインスパイアされた「Paracetamol」など、現代的な社会問題からパーソナルな葛藤に至るまで、若者ならではの視点で切り取ったリリックも冴えています。さらに、シンセがチャーミングに跳ねる「Isombard」のように、Vampire Weekend以降のインディー・ロックを通過したモダンな音作りには、ソングライターとしても一級品のセンスを感じずにはいられません。現在はArctic Monkeysの諸作で知られるジェイムズ・フォードをプロデューサーに迎えて、初のアルバムを制作中。今年の『SUMMER SONIC』に出演が決まっており、日本でも注目が高まりそうです。
昨年の『FUJI ROCK FESTIVAL 』ではホワイト・ステージで熱演を披露したロンドン出身の4人組、VANT。ブレイクの機運高まるなか2月17日にリリースされる初作『Dumb Blood』には、ハードコア・パンク~グランジを継承した荒々しい音が詰まっています。The Vinesの2002年作『Highly Evolved』における「危険で予測不可能な感じ」を通じてロックに魅了されたというエピソードも頷ける話ですが、それこそMC5やFoo Fighters、Jetといった先人だったり、Circa WavesやThe Bohicasのような同時代のUKバンドと並べても彼らが見劣りしないのは、とにかくフックの効いた楽曲が連発されるから。わずか80秒の高速チューン「Parasite」や、Nirvanaマナーでポップに畳み掛ける「Parking Lot」を筆頭に、疾走感あふれるガレージ・サウンドは清々しいほどで、メッセージ性の強い歌詞も痛烈ながら、いい意味で万人受けしそうなヒット・ポテンシャルを備えたバンドだと思います。