RADWIMPSが『君の名は。』で手がけた劇伴の特徴は? 映像音楽の専門家が読み解く
「伏線」を用いた劇伴表現
本編の中盤以降、劇伴全体のサウンドが一気にメランコリーな雰囲気に包まれる。デートシーンや、秋祭りのシーンなどといった、本来楽しいはずのイベントシーンの際に付加されている劇伴でもこの雰囲気が徹底されている。(サントラ盤 トラック10「デート」、トラック11「秋祭り」他)
これらのように、メランコリーなトーンの劇伴を多用しているのは、その後に瀧が3年前の出来事に関する真実を知る場面までの長く大きな「伏線」とも解釈できるだろう。
伏線とは「その後に起こることを予めほのめかしておく手法」であり、例えばこの後に起こる不吉なこと暗示させる定番的な伏線としては次のような例が挙げられる。
・ 真夜中に何度も犬が泣く
・ 風も吹いていないのに自転車が倒れる
これらはほんの一例だが、映像表現と共に音楽や効果音としてもアクセントを加えるといった数々の例は、従来の映像及び映像音楽表現で度々使用されてきた手法だ。本作の例では、劇伴で長い伏線をはることで、その間に描かれている人物と劇伴との間に距離感を感じさせ、後に衝撃的な事実を知った際のインパクトを強める効果にも一役買っている。
本作は、新海誠監督による前作『言の葉の庭』に比べて本編の尺が大幅に伸びていることもあり、劇伴の種類も多くまだまだ沢山の手法が使われているが、残念ながら割愛した部分もある。
この記事を踏まえた上で、本編を再度鑑賞することで、劇伴、そして何よりも映画本編の表現について新たな発見をされることを願いたい。
■高野裕也
作曲家、編曲家。東京音楽大学卒業。
「映像音楽」「広告音楽」の作曲におけるプロフェッショナル。
これまでに様々な作品に携わるほか、各種メディアでも特集が組まれる。
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