村尾泰郎の新譜キュレーション 第6回
デヴィッド・ボウイ、イギー・ポップ……攻めの姿勢を貫いたベテラン勢の上半期5選
日本のロック・シーンを振り返ると、高橋幸宏を中心にして、若手からベテランまで名だたるアーティストによって結成されたドリームバンドとして話題を呼んだのがMETAFIVE『META』だ。高橋幸宏の呼びかけに応じて、テイトウワ、小山田圭吾、砂原良徳、ゴンドウトモヒコ、LEO今井と世代を越えてYMOの遺伝子を受け継いだアーティストが集結。メンバー全員が曲を提供し、曲のデータを共有しながら全員でアイデアを出して作り上げたサウンドは、予想を超えてアグレッシヴでダンサブルな仕上がり。エレクトロニックな輝きのなかに、オーガニックなグルーヴが息づいている。アルバムには6人それぞれの個性が散りばめられていて、メンバーのセンスを存分に発揮させながら、それをバランスよくまとめあげる高橋幸宏のリーダーシップもさすが。ある意味、日本のテクノの歴史を凝縮したような感慨深さもあって、突き抜けたポップさ、そして、サウンドの精巧さに、〈MADE IN JAPAN〉の底力を感じさせてくれた。
そして、最後は実に11年ぶりの新作として話題を呼んだ岡村靖幸『幸福』。これまでシングルなどで発表された6曲に新曲3曲という構成で、こまめに岡村ワークスを追っていた熱心なファンからは物足りないという意見もあったが、アルバムとしてパッケージされたことが重要。シングル曲と新曲とのバランスや曲順はしっかりと練られていて、シングル曲はアルバムの流れのなかで新たな輝きを放ち、最初から最後までイッキに聴かせる。ビートは凶器のように研ぎ澄まされて、岡村のボーカルとシャウトはツバが飛んできそうなほど肉感的。「新時代思想」をはじめ、閉塞した社会に音楽で真剣勝負を挑むような凄みも感じさせる。本作を発表した3カ月後にプリンスが突然死去。その知らせを聞いた岡村の心境は知るよしはないが、しっかりバトンを受け取ったに違いない。
ボウイやプリンスの死という悲しい出来事もあったが、新たな最高傑作を生み出そうと転がり続けるベテランたちに心からリスペクトを捧げたい。
■村尾泰郎
ロック/映画ライター。『ミュージック・マガジン』『CDジャーナル』『CULÉL』『OCEANS』などで音楽や映画について執筆中。『ゴッド・ヘルプ・ザ・ガール』『はじまりのうた』『アメリカン・ハッスル』など映画パンフレットにも寄稿。監修を手掛けた書籍に『USオルタナティヴ・ロック 1978-1999』(シンコーミュージック)などがある。