森朋之の「本日、フラゲ日!」vol.11

欅坂46は“いま、何を語るべきか”が重要であるーー8月10日発売の注目新譜5選

クリープハイプ 『鬼』(SG)

 「信頼していた人たちに裏切られ続ける」という男を主人公にしたドラマ『そして、誰もいなくなった』(日本テレビ系)のストーリーに激しく共感した尾崎世界観が「世の中に復讐するような気持ちで」書き下ろした「鬼」は、どんなに仲良くても、どんなに長く一緒にいても、結局はお互いに何を考えているかわからず、何がどうなっても“人は孤独である”ということには変わりがない人間という存在の悲しみ、おかしさ、愛おしさをリリカルに描き出したアッパーチューン。根底にあるのは尾崎自身の個人的な経験と感情なのだが、曲を聴いているうちに「これ、自分のことかも」と浸食されるような感覚(“共感”ではないところがポイント)は尾崎の処女作となった書籍『祐介』にも共通している。きわめてシリアスなテーマを扱っているにも関わらず、独特のユーモアと可愛らしさを加えることで、親しみやすいポップ感をまとっているところも「鬼」の魅力。この曲によってクリープハイプは、一時の停滞時期を抜け、さらに凄みを増していくことになりそうだ。9月7日リリースのアルバム『世界観』にも大いに期待したい。

クリープハイプ 「鬼」

Sugar's Campaign『ママゴト』(AL)

 作曲家/トラックメイカーのAvec Avec、マルチアーティストのSeihoによるユニット、Sugar’s Campaignの2ndアルバム『ママゴト』のテーマはずばり“家族”。料理が上手じゃないママへの親しみを描いたタイトル曲「ママゴト」(ゲストボーカルの井上苑子の舌足らずな歌声がめちゃくちゃかわいい)、生まれ育った家への愛着を綴った「SWEET HOME」まで、家族にまつわる物語をまるで短編映画のような雰囲気で表現している。80年代のエレポップ、90年代の渋谷系、00年代のネオ・ソウルなど、各時代のエッセンスをさりげなく注入したサウンドメイクも絶品。恋愛と並び、もっとも一般的なテーマを掲げることで彼らは、必然的にポップミュージックと正面から向き合うことになったという。ポップであることはつまり、大衆的であること。その大前提を踏まえながら質の高い楽曲を体現したみせた2人は、このアルバムによって自らのポップス像をしっかりと掴み取ったようだ。

Sugar's Campaign「ママゴト」

■森朋之
音楽ライター。J-POPを中心に幅広いジャンルでインタビュー、執筆を行っている。主な寄稿先に『Real Sound』『音楽ナタリー』『オリコン』『Mikiki』など。

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