カセットテープ、いまなぜ若者リスナーに人気? シーンの動きを検証する
全国にひろがる輪
現在日本にはカセットをあつかうレーベルがおおく散点する。なかでも神戸の〈Miles Apart Records〉が送り出す人気シリーズ“Cassette Tapes Club”は、国内インディーロックの登竜門としての機能を果たすなど、ここからデビューするアーティストの活躍が目立つ。ブルックリンを拠点とするカセット専門サイト〈International Tapes〉でもいち早く紹介されていたBoyishもそのひとつ。昨年、全国流通盤(別レーベル)を出したPictured Resortを知ったのも、そのシリーズからの最初のカセットだった。
名古屋のレーベル〈GALAXY TRAIN〉にみなぎるDIY精神にも注目しておきたい。ステッカーや缶バッヂといった付属品も豊富で、そこからすでに演奏がはじまっているようなワクワク感がある。目下売り出し中なのが女流フォークシンガーのレンゲ。枯れ落ちた草木の生命力こそ彼女の魅力だとおもうが、キャリア二、三年というにはかなり自己世界ができあがっている。
福岡には〈Duenn〉(ダエン)という前衛的なレーベルもある。コンセプトに“アンビエントの自己解釈”とあり、その影響力は都内にも波紋をひろげるほど。地元を中心とした作家にまじってメルツバウやリョウ・アライなど知名のアンビエント作品もあるくらいだ。レーベル主催のイベントが東京でおこなわれたことも注目される起因となった。
山形発の〈ZOMBIE FOREVER〉も地元に軸足を置きつつ、都内での活動も積極的。その反対に、都内にあって陸の孤島のように運営されるのが〈日本カセット少年団〉。ナードコア色の強い、一筋縄ではいかない作品ばかりリリースしているが、カセット本来のあり方をしれっと問いただすようで、なんだか放っておけないレーベルだ。
SNS以降、音楽レーベルの運営は180度変わった。そして、そこにカセットという未知の分野が加わることで、そこからの効果がどれほどのものなのか、これからたしかめていく必要がでてきた。昨年につづき10月には〈カセット・ストア・デイズ〉が開催される。日本での公式運営(本部はイギリス)が初めてとなる今回を、ひとつのターニングポイントとして見ることもできるだろう。レコード・ストア・デイズのように定着していくのか、関心があつまる。
■若杉 実(わかすぎ みのる)
音楽ジャーナリスト。雑誌、書籍への寄稿からCD、DVD企画、ラジオ番組のパーソナリティも担当していた。著書『渋谷系』『東京レコ屋ヒストリー』(いずれもシンコーミュージック)。