SING LIKE TALKINGが語る、ポップスと時代の関係「環境に素直に反応して、ベストな仕事をする」

SING LIKE TALKINGが語るポップスと時代性

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「形を変えて同じことを繰り返している」(佐藤竹善)

ーー最新シングル「風が吹いた日」についても聞かせてください。もちろんこの曲にも“いまやりたいこと”が反映されていると思いますが、まず、ホーンセクションがフィーチャーされていますね。

佐藤:そうなんです。この曲は(ODS「SING LIKE TALKING LIVE MOVIE –Strings of the night-」)主題歌であると同時に、次のライブへの布石なんですよね。27年目にストリングスを切り口にしたライブをやったので、今年は“28/30”としてホーンをフィーチャーしたライブを準備していて。そのパイロット版なんですよね、この曲は。ストリングス・ライブの前にもパイロット版として「Longing ~雨のRegret~」をリリースしたので、それと同じですね。だから今回のシングルは、3曲ともホーンをフィーチャーすることを前提にして書いたんですよ。

藤田:基本的には作った曲に対して、ストリングスを入れるかホーンを入れるか考えるので、最初からホーンを入れることを決めてから楽曲を作るのは珍しいケースですよね。

佐藤:初めてじゃないかな。手法を変えるのはすごく新鮮だったし、楽しかったですよ。

ーーホーン・セクションを軸にしたライブ「SING LIKE TALKING Premium Live 28/30 Under The Sky ~シング・ライク・ホーンズ~」の会場は日比谷野外音楽堂、野外の単独ライブも初めてだとか。

佐藤:フェスではやってるんですけど、単独はやってなかったんですよね。何となく室内的なイメージがあったり、僕がものすごい雨男ということもあって(笑)、ライブを組むときは当然のようにスタッフがホールの会場を押さえていたので。僕らも「野外で単独ライブをやりたい」なんて思ったことないですからね。

藤田:確かにそういう欲求はなかった(笑)。野外だからと言って、音楽的な何かがあるわけではないですからね。

佐藤:野外らしい演出が出来るわけでもないしね(笑)。ホーンセクションを活かしたライブということで、ふだんはあまり演奏しない曲も入ってくるだろうし、また違った掘り下げ方が出来るのは楽しみですね。

西村:R&B、ファンキーな曲が中心になると思うんですけど、そうするとカッティング・ギターが増えるんですよね。ずっとカッティングしないといけないから、腕が疲れるだろうなと(笑)。そこは勝負ですね。

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西村智彦

ーーストリングス・ライブ、ホーン・ライブと音楽的な意図が明確なイベントが続きますね。

佐藤:そういうことを続けていないと“どうでもいい”ということになってしまいますから。だからバラードのライブはやらなかったわけだし。何年か後にはポジティブな意味で“どうやってもいい”って言えるときも来ると思いますけどね。

ーーいつかは無理なく“周りが望むことに応えよう”と思えるようになるだろう、と。

佐藤:だと思います。そのときまでミュージシャンとしてやれたたら、ですけどね。

藤田:何があるかわからないからね。

佐藤:僕らはプロの契約社員ですから(笑)。近いところで言えば、2018年の30周年は集大成になると思うんですよ。25周年からの5年間で成長した部分を見せないといけないし、そのステップとして、ストリングス、ホーンのライブをやって。そういう意味では、来年に何をやるかが大事になってくるでしょうね。

ーー非常に楽しみです。最後にもうひとつ質問させてください。いまの音楽シーンには、AOR、シティポップに影響を受けた若いバンドが同時多発的に登場していますよね。たとえばcero、Yogee New Waves、Awesome City Clubなどですが、その世代のバンドとの共通点だったり、“また時代が巡ってきた”という感覚を感じることはありますか?

佐藤:両方感じますね。まず共通点としては“どんなジャンルに手を出してもいい、自由でいい”ということですよね。インディーズで活動しているバンドが多いということもあるけどーー僕らの頃は“インディーズ=アングラ”だったけど、いまのインディーズはひとつの自由な文化なのでーーたとえばAwesomeにしても、ザ・バンドみたいな曲からテクノまで、自由に何でもやるじゃないですか。僕らもそうだったんですよね。デビュー曲(「Dancin‘ With Your Lies」/1988年)はファンキーな曲だったんですが、その別バージョンを1stアルバム(『TRY AND TRY AGAIN』/1988年)に入れてるんですよ。まだリミックスという言葉もない頃だったんですけどね。じつはラップを入れようというアイデアもあったんです。それは結局は入れなかったんですけど、何でもやってみようという姿勢は、いまのバンドにも共通してるんじゃないかな。

ーー音楽のトレンドが巡る感覚についてはどうですか?

佐藤:僕らが大学生の頃にモータウン・サウンドのブームが起きたんですよね。フィル・コリンズやビリー・ジョエルなどが60年代のモータウンを80年代に蘇らせたわけですが、それと同じようなことが最近も起きていて、ヨーロッパ、北欧、南米などで80年代のAORをそのままやっているアーティストがどんどん出ているんです。ブラジルのエジ・モッタというアーティストなんて『AOR』というタイトルのアルバムを出しましたからね。TOTOの初期のようなサウンドなんですが、30代前半の彼にとっては新鮮なんだと思います。ニュー・ビンテージというスタイルもそうですよね。楽曲、アンサンブルだけではなくて、サウンドのトーン、ミックスに至るまで昔の音に近づけるっていう。

ーーそういう音楽シーンの動きに刺激を受けることもありますか?

藤田:同じ時代を生きているわけだし、特に意識しないでも刺激は受けていると思いますけどね。ただ、音楽自体に対する考え方は、途轍もなくかけ離れてるとは思うんですよ。僕らの感覚でいうと音楽を作る人はミュージシャンなんですけど、いまはどっちかというと、クリエイター的な人が増えてますよね。それはつまり、音楽という作品ではなく、音楽≒コンテンツという意識で制作している人が多くなっているということじゃないかな、と。そういう傾向はかなり以前から感じてたんだけど、それを露骨にそうだと表現されるようになったのは、ダフトパンク辺りからじゃないかなと。

ーーなるほど。

藤田:それがいまは当たり前になっている気がしますね。手作業、人力からPC上の作業に移行して、音楽に対する意識も作品からコンテンツに移行した。いまはまだ過渡期で、その中間でいろいろなアプローチの人たちが存在感を示しているという構図だと思うんですよ。それが将来的にどうなるかはわからないですけど、音楽をコンテンツとして捉える考え方自体が僕にとってはすごく新鮮だし、おもしろいなって思うんですよね。僕らは音楽に対して「人生をかけてやり遂げる」的な感覚があるけど、いまは「いま、こんな感じ、おもしろいんじゃない?」みたいな感覚の人がたくさんいるわけで。それは良い、悪いの問題じゃないですからね。そういうニュアンスを取り入れてみたいという気持ちもあるし、逆に僕らの感覚を(若いクリエイターが)受け取るとどうなるのかを見てみたいなと。

佐藤:お互い、自分たちが持ってないものに憧れますからね。ダフトパンクが(アルバム『ランダム・アクセス・メモリーズ』で)ミュージシャンに近づいたり。そうやって刺激し合ったり、近寄ったり離れたりすることで、また新しいものが生まれるだろうし。

西村:確かに「感覚がぜんぜん違うな」と思うことは多いですね。たとえばライブ告知のビラにしても、いまはアマチュアのミュージシャンもすごくキレイに作るじゃないですか。レコーディングも自宅で出来るし、そのクオリティも良くなってますからね。

ーーいまの若いバンドって、音源はもちろん、ビジュアル的な打ち出し方、ステージの演出からグッズまで、すべて自分たちで手がける場合が多いですからね。自己プロデュース能力が高いというか。

佐藤:それも大局で見れば、たとえばデヴィッド・ボウイがトータルで世界観を作り上げていたのと同じだと思うんです。セックス・ピストルズだって、パンクというスタイルをビジネスに組み込んだイメージ戦略だったわけじゃないですか。いまのアーティストは表現、表し方が違いますが、それを新しいムーブメントと捉えるか、形を変えて同じことを繰り返していると考えるか……。僕は「形を変えて同じことを繰り返している」と捉えているんですが、それはとてもいいことだと思うんですよ。そういう方法って、じつは何十年、何百年と繰り返されてきたことですからね。

(取材・文=森朋之/撮影=竹内洋平)

 

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SING LIKE TALKING『風が吹いた日』

 

■リリース情報
『風が吹いた日』
発売:2016年6月8日
【初回限定版】 ¥2,700 (税込)
1 風が吹いた日
2 Hysterical Parade
3 Prima Donna
CD2
1 月への階段 (Live)
2 Longing ~雨の Regret~ (Live)
3 離れずに暖めて (Live)
4 Rendezvous (Live)
5 Your Love (Live)
6 点し火のように (Live)
7 回想の詩 (Live)
8 止まらぬ想い (Live)
9 With You (Live)
10 Spirit Of Love (Live)
※ライブ音源
・2015年10月12日東京・昭和女子大学人見記念講堂で行われた「SING LIKE TALKING Premium Live 27/30 ~シング・ライク・ストリ ングス~」公演より。
・ボーナスディスクとしてライブ音源10曲収録

【通常盤】 ¥1,700 (税込)
1 風が吹いた日
2 Hysterical Parade
3 Prima Donna
4 Your Love (Live)
5 点し火のように (Live)
6 回想の詩 (Live)
7 止まらぬ想い (Live)
8 With You (Live)
9 Spirit Of Love (Live)
※ライブ音源
2015年10月12日東京・昭和女子大学人見記念講堂で行われた「SING LIKE TALKING Premium Live 27/30 ~シング・ライク・ストリ ングス~」公演より。
ボーナストラックとしてライブ音源6曲収録

■「風が吹いた日」配信情報
「風が吹いた日」
レコチョク http://po.st/sltkazeblreco
iTunes http://po.st/sltkazeblitms

「風が吹いた日(Bonus Track Version)」
レコチョク http://po.st/sltkazebtblreco
iTunes http://po.st/sltkazebtblitms

「風が吹いた日」ハイレゾ
e-onkyo music https://po.st/sltkazebloky

■SING LIKE TALKING LIVE MOVIE-Strings of the night-
〈舞台挨拶付上映スケジュール〉
6月11日(土)  大阪府   あべのアポロシネマ  13:00~
6月12日(日)  東京都   角川シネマ新宿  ①10:30~・②13:00~
6月12日(日)  神奈川県  イオンシネマみなとみらい 16:00~
6月18日(土)  福岡県   ユナイテッドシネマキャナルシティ13 13:00~
6月19日(日)  宮崎県   セントラルシネマ宮崎 15:00~
※東京&神奈川&名古屋&大阪はメンバー3名。 その他地域は佐藤竹善1人の登壇予定。

■SING LIKE TALKING Premium Live 28/30 Under The Sky ~シング・ライク・ホーンズ~
<東京公演>
開催日時:2016年8月6日 (土) 17:15 開場 / 18:00 開演
会場:日比谷野外大音楽堂

<大阪公演>
開催日時:2016年8月13日 (土) 16:15 開場 / 17:00 開演
会場:大阪城野外音楽堂

■オフィシャルサイト
https://singliketalking.jp/

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