太田省一『ジャニーズとテレビ史』第十八回:A.B.C-Z『ABChanZoo』
A.B.C-Zはジャニーズの過去と未来をつなぐ? 好調のテレ東冠番組から伝わること
そして移動後の5月8日と15日の2週に渡って放送された「ジャニーズモノマネレストラン」も、同じ意味でA.B.C-Zだからこそできた企画のように思える。
ものまねは、テレビでは定番の企画である。ものまね番組やものまねネタを目にしない日はないと言ってもいいほどだ。
かつては「声帯模写」と呼ばれたように、芸能人や有名人の声色にとにかく似せることが物まねだった。ところが1980年代くらいからだろうか、歌手なら歌っているときの一瞬の特徴的な表情や仕草をデフォルメしながらまねる芸が現れた。コロッケの岩崎宏美や野口五郎の物まねが斬新なものとして人気がでたのもその頃のことである。
最近では、ものまねの目の付けどころはますます細かくなっている。とんねるずの番組の「細かすぎて伝わらないモノマネ選手権」を思い出せば、わかりやすいだろう。
「ジャニーズモノマネレストラン」は、そんなものまねをジャニーズ限定で、しかもそれを現役ジャニーズであるA.B.C-Zが評価するところが新しい。実際、続々披露されるネタは、コンサートやテレビの実に細かいポイントを拾ったものが多かった。
それはいわば、ジャニーズへの愛の表現でもある。「声帯模写」時代の政治家の物まねなどは、風刺の要素が強かった。それに対し、細かいところまで再現するいまの時代の物まねは、対象への愛の表現になっている。今回のジャニーズものまねもそういうものだろう。だからこうした企画で楽しむことができるのも、ジャニーズ文化の成熟の表れと言えるに違いない。
このときの放送で印象的だったのは、ジャガーズによるタッキー&翼とジャニーズJr.のステージの絡みをまねたネタに、塚田僚一が自分の経験を踏まえて足の細かいステップの“ダメ出し”をした場面である。そこからは、A.B.C-Zのジャニーズへの愛も深いものであることが伝わってくる。それは、河合郁人が得意とするジャニーズのものまねレパートリーにも共通する部分だろう。
2週続いたこの企画のラストは、A.B.C-Zの「Za ABC~5stars~」の振りを完コピするというもの。ところがよく見ると五関晃一役だけがいないというフリがあって、最後は彼が加わって本物と偽物のコラボが実現した。バラエティ的なオチではあるが、そうしたなかで自分のパートをしっかり真面目にこなす五関晃一も良かった。
こうしたことから見えてくるのは、A.B.C-Zが、ファンだけでなく一般の視聴者とジャニーズの懸け橋になってくれる豊かな可能性を秘めたグループだということだ。
一方で、「体育会系ジャニーズ」として彼らが見せてくれる華やかなパフォーマンスは、まさにジャニーズの原点にある、徹底して楽しませるエンターテインメントの哲学を受け継いでいる。またもう一方で、「苦労人」とも呼ばれる経験が培った彼らの懐の深さ、そこからにじみ出る飾らなさや親しみやすさは、ジャニーズの魅力を一般視聴者にも伝える最良の武器になりうるのではなかろうか。
ジャニーズの過去と未来をつなぐ存在としてのA.B.C-Z。そんな彼らのこれからに注目だ。
■太田省一
1960年生まれ。社会学者。テレビとその周辺(アイドル、お笑いなど)に関することが現在の主な執筆テーマ。著書に『中居正広という生き方』、『社会は笑う・増補版』(以上、青弓社)、『紅白歌合戦と日本人』、『アイドル進化論』(以上、筑摩書房)。WEBRONZAにて「ネット動画の風景」を連載中。