2016年第一弾シングル『ヨアケマエ』インタビュー

パスピエがバンド“2周目”で突き詰めること「説明に困るような純度の高いものを目指したい」

「当時はちょっとハズすことにカッコよさを感じていた」(成田)

――歌詞に関しては、これまでの楽曲よりもさらに俯瞰したところから表現している印象でした。

大胡田:何と言ったらいいのかわかりませんが、今年は歌詞について、いい言葉や感動的なストーリーにしなくてもいいのかなと思っていて。この歌も「綺麗にまとめるのは一旦置いておこうかな」という気分で、今年の決意表明的なことを書きました。達観しているというか、いまは歩み寄るというモードではないのかもしれません。

――ひとつのストーリーではなく、フレーズとして強い言葉が並んでいるというのはこちらも感じました。サビ頭の<革命は食事のあとで 誰よりスマートに済ませたら>という言葉も、パスピエらしいクールな表現です。

大胡田:今回はストーリーを考えず、サビの一行目に2016年のパスピエを表現するようなフレーズを入れたいというところから書き始めたんです。タイトルの「ヨアケマエ」は成田さんの案ですが、これも歌詞がほとんど出来上がったときに提案してくれたワードで。

成田:今って、世の中の反応が見えやすくなり、手段もどんどん簡略化されているなかで、便利になりすぎていることに疑問を持つ人たちもいますよね。大胡田もおそらくその一人で、この歌詞はそんなもやもや感と世の中が実際に思っていることが整合性を取り合っている内容に映るというか。この歌詞を受け取って奮い立ってほしいというわけではなく、「こういう価値観を提示しますがどう思いますか?」と投げかけて、音楽を通じた会話をしたいだけなんだと思います。

――先ほど成田さんから「研ぎ澄ます」という表現がありましたが、2人は何をもって音楽を「研ぎ澄ます」とするのでしょうか。

成田:“パスピエだからできること”を突き詰めることですかね。時期によりけりですけど、純度を研ぎ澄まし続けることだけが良いことだとは思っていなくて、昨年は「持てる武器をもっと増やしたい」ということで色んなアプローチに挑戦したのですが、今年はそこで得た武器や経験を磨いて、自分たちにできることを追求するべきじゃないかなと。

大胡田:わたしは、“説明に困るようになること”ですね。友達から「パスピエってどんな感じのバンドなの?」と聞かれて薦めるときに、「誰々と誰々の中間っぽくて」と言い表すことができずに「とにかく聞いてもらえればわかるので」と答えなきゃいけない存在になることが、純度の高いものといえるのかもしれないです。

――替えの効かない存在こそが純度の高いものである、ということですか。

大胡田:そうですね、そこを目指していきたいなと思います。

――2曲目「カメレオンの言い種」は、『ONOMIMONO』に収録されていてもおかしくないくらい、初期のパスピエに近い印象を受けました。

成田:『ヨアケマエ』からパスピエを知る人にむけて、面白い部分を感じてもらうために、改めて過去の曲をやるのがいいんじゃないかと思い、結成当時に作った曲を持ってきたものです。『フィーバー』や『MATATABISTEP』のカップリングには置けないけど、自分たちのありのままを洗練させてアップデートした「ヨアケマエ」とこの曲を並べたときに、サウンド感も含めて繋がるものがあると感じていて。「2周目に入ったんだな」という感じがしますね。

大胡田:確かに、2周目感がありますね。

成田:そういう意味では昔のファンにも今から知ってくれる方にも「既視感」のようなものが伝わるといいですね。

――この曲はパスピエのディスコグラフィーにおいても、良い意味で「ポップにしすぎないバランス感」の働いている楽曲だと感じましたが、そんな背景があったんですね。歌詞は当時のものから変更しているのでしょうか?

大胡田:5文字くらいしか変えていないです。

――どこを変えたのか気になりますね。

大胡田:(笑いながら沈黙)

成田:それは言わないんだ(笑)。

大胡田:ちょっと恥ずかしくて変えた箇所なので(笑)。もっと大幅に変えても良かったんですけど、せっかく昔のパスピエ感を残したまま収録するなら、そのまま歌ってみたほうが、言葉の意味合いなども変わってくるかなと思いまして。

――当時はどういうモードで書いたものなんですか。

大胡田:割と自分がやらかしそうなことというか、私のストーリーに近いものだったと思います。いま改めて見返すと、漫画チックというかファンタジーというか、自分からは若干遠い物語のように感じました。

――『カメレオン』という言葉は、当時リスナーを煙に巻いていたパスピエにピッタリの言葉かもしれないなと思いました。

成田:「そういうスタイルがカッコいいよね」と思っていた自分たちが若いと感じてしまいますね(笑)。曲の構成にも表れていますが、当時はちょっとハズすことにカッコよさを感じていましたし、背伸びすることも多かったのですが、いまになってみると、等身大のままで演奏できるようになっているんですよ。

――パスピエは過去曲のサルベージも定期的に行なっていますが、“2周目”といえるタームに入ったことで、より引っ張り上げる曲も増えそうです。

成田:アルバムの場合はコンセプトを決めて、そこにハマる曲を作っていくという流れですが、シングルのカップリングは自由度が高いですし、そこを大事にしないとシングルとしての意味もなくなると思っていて。だからこそカバーにも挑戦しているので、カップリングでは今後も過去曲や新曲は関係なく、どんどん面白い楽曲を収録していきたいですね。もちろん、それは自分だけで判断するものでもなくて、スタッフを含めて良いと思ったものをやっていければと考えています。

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