Perfumeの新アルバムはなぜ“稀有な音楽体験”を生むのか レジーの『COSMIC EXPLORER』徹底考察

音楽シーンの旅、世界の旅、そして宇宙の旅

 前作『LEVEL3』から今作『COSMIC EXPLORER』までの約2年半の間の活動を振り返ると、「Perfumeの輪」とでも言うべきキーワードが浮かび上がる。

 国内においては2014年に『Perfume FES!! 2014』として全国で対バンライブを行ない、東京スカパラダイスオーケストラから9nineまで様々なタイプのグループとの共演を果たした。また、2015年2月の『MUSIC JAPAN』(NHK総合)、2015年9月の『Perfume FES!! 2015 ~三人祭~』におけるNegiccoとの邂逅も話題となった。さらに、2015年10月には『アメトーーク!』にて「祝15周年!! Perfumeスゴイぞ芸人」が放送され、サバンナの高橋茂雄やハリセンボンの近藤春菜といった芸能界におけるPerfumeファンが集結した。クラスターごとの細分化がさらに進みつつある昨今において、「ロックバンドではないがロックフェスの常連である」「アーティスティックなアウトプットをこなす一方で芸能人としてもテレビに出る」という形でクラスター間の「ハブ」となり得る彼女たちの存在はますますユニークなものになっている。一方で国外においても2014年に3度目となるワールドツアーを敢行し、初のアメリカライブも実施。前述の『SXSW』も含めて、海の向こうでの支持をさらに広げつつある。

 「Perfumeの輪」を広げることに費やされた近年の活動は、ある意味では「旅」とも言いかえることができる。日本全国もしくは海外に実際に足を運ぶということだけでなく、音楽シーンの様々な場所に足を踏み入れて仲間を増やしていく過程も「旅」のようなものだと言って差し支えないだろう。旅をすることの醍醐味は、未知のものに接することで改めて自分自身の価値観や存在意義を問い直すことにある。そんな形で過ごしてきた彼女たちの2年半の道筋と「宇宙を旅して新しい生命に出会う」という『COSMIC EXPLORER』の世界はリンクしているし、そのつながりが今作の持つ説得力を増幅させている。

道なき道のその先へ

「「コズミック」っていう単語は、みんなから「Perfumeっぽい言葉」だと思われがちなんですけど、実は今までの曲で使ったことはないんですよ。「Perfumeってロボットダンスの人ですよね?」ってよく言われるけど実際はやったことがない、みたいな感じで。だから私たちの中では、「コズミック」はちょっと口にするのが緊張する言葉というか、今まで大事にしまってあった言葉というか。」
(ナタリー http://natalie.mu/music/pp/perfume11

 今作のタイトルに使われている「COSMIC」という言葉についてあ~ちゃんはこう語っているが、アルバム冒頭で「Perfumeっぽい言葉」とあえて向き合い、そこからナチュラルな響きを持った楽曲が揃った終盤に進むという流れは、「近未来型アイドルユニットが大人の女性として成熟していく過程」というPerfumeのメジャーデビュー後の足跡をトレースしているとも言える。つまり、『COSMIC EXPLORER』は宇宙の旅というモチーフを使ってここ数年のPerfumeの活動を俯瞰するとともに、Perfumeというグループの「これまで」を総括した作品として位置づけることも可能ではないだろうか。

 『COSMIC EXPLORER』のラスト3曲は「Pick Me Up」「Cling Cling」「Hold Your Hand」。グループの「これまで」を総括した作品のラストは「一緒に新しい世界へ」「手をつなぐ」というメッセージで締めくくられている。結成15周年とメジャーデビュー10周年という区切りのタイミングを経て自分たちが今までたどってきた道を振り返るとともに、今や世界中に存在するファンたちと手を取り合って進んでいこうという意思表明が鮮やかになされた今作。まずはこのアルバムが5月からの全国ツアーにおいてどのように具現化されるのかを楽しみにするとともに、そのパフォーマンスが8月からの北米ツアーにおいても高く評価されることを期待したい。その先には、彼女たちの現時点での目標であるマディソン・スクエア・ガーデンでのライブがきっと待っている。

■レジー
1981年生まれ。一般企業に勤める傍ら、2012年7月に音楽ブログ「レジーのブログ」を開設。アーティスト/作品単体の批評にとどまらない「日本におけるポップミュージックの受容構造」を俯瞰した考察が音楽ファンのみならず音楽ライター・ミュージシャンの間で話題に。2013年春にQUICK JAPANへパスピエ『フィーバー』のディスクレビューを寄稿、以降は外部媒体での発信も行っている。

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