LD&K大谷秀政氏が提案する、音楽活動の新たな枠組み「これからは自立するアーティストが増える」

LD&K大谷社長が語る、音楽活動の新しい形

 音楽レーベル運営に加え、カフェやレストランなどの飲食事業、ライブハウス事業、書籍出版事業など多角的な事業展開を行っている株式会社エル・ディー・アンド・ケイの社長、大谷秀政氏。リアルサウンドでは一昨年、大谷氏のインタビュー記事(「CDの売上が3分の1でもアーティストが存続できる形を作ってきた」)を掲載し、“音楽が生み出される環境”の改革を目指す経営スタンスは大きな反響を呼んだ。そしてエル・ディー・アンド・ケイは2016年1月、クラウドファンディングプラットフォーム「we fan」をスタートさせ、音楽制作における資金調達においても新たな提案を行なっている。今回のインタビューでは「we fan」を始めた動機をはじめ、大谷氏の音楽ビジネスに対する考え方を改めて訊くと同時に、社長生活25年を迎えた氏の仕事観についても語ってもらった。(編集部)

「音楽活動が新しい次元に入っていく」

ーー今年1月より、360度アーティスト支援型クラウドファンディングサービス「we fan」がサービスを開始しました。こうしたサービスをやろうと考えた経緯とは?

大谷:音楽業界はメジャーのレコード会社と音楽事務所で、何年もCDを売るための同じ仕組みで成り立ってきました。しかし、今の市場とはいまいちリンクしていない部分が出てきていると思います。「CDが売れなくなっている」という事実が明らかになっていているなかで、万単位でCDを売ることができないアーティストはレコード会社との契約が終わってしまう。じゃあ契約が切れたアーティストは音楽を辞めるのか、というと辞めないわけで。そこを何とかできる枠組みがないかなと思っていたんです。レコード会社が悪いというわけではなく、レコード会社が受けきれないところをどうしたらいいか、音楽の文化活動を支えるために何かしなければということを、ずっと考えてきました。

ーー現在の音楽市場に合った仕組みを作るということですね。

大谷:そうです。例えば、CDを出すには、レコーディングのためのスタジオを押さえて、エンジニアを押さえて、そのアーティストのサポートも含めてやらなくてはいけない。レコーディングの後には、プレスして、デザインも発注して、宣伝もして、CD店に置いて…と、多くの工程があります。その資金が回収できるまでには、少なくとも8カ月くらいはかかるんですよ。大きな仕事になれば莫大な金額がかかるし、それを事務所が建て替えるのも厳しい。昨今の音楽業界の事情は広く知られていますから、レコード会社やレーベルに対し、銀行もそう簡単にはファイナンスしてくれないでしょう。だから、ファイナンス機能と流通機能、宣伝機能を持ってアーティストが音楽を続けられる新たな仕組みが必要だった。それが「we fan」を作ったきっかけですね。

ーー打首獄門同好会のZepp TokyoワンマンライブのDVD化というプロジェクトなど、さっそく成功例が出ています。

大谷:そうですね。打首獄門同好会のファンディングは1500万円も集まったので、かなり豪華なDVDにしなければならなくなりました(笑)。これまでクラウドファンディングというとIT企業が中心でしたが、LD&Kには宣伝機能があり、ライブをする場合の会場を押さえるノウハウもある。それから楽曲を作るときには著作権登録もできます。これは、これまでのクラウドファンディングにはなかったことですよね。うちはレコーディングスタジオもあるし、グッズも作れて一気通貫で全部できるので、アーティストをいろいろな面でサポートすることもできるんです。

ーー「we fan」の根幹には、そもそもLD&Kが持っていたレーベル機能があったということですね。

大谷:飲食も含め、うちの主義としては自分でプランを立てて、長い目で見るということがあります。まあ、レーベル以前に事務所なので。事務所というと、やっぱりアーティストの人生を見なければならないでしょう。また「we fan」には、仕組みとしてできるだけシンプルにしていくという意味もあります。例えばCDの複数形態。その仕組み自体は悪いとは思いませんが、少なくともエコじゃない。CDじゃなくてもいいじゃん、と思うんです。

ーーCD以外の選択肢を示していくと?

大谷:そうです。これまでは、そのほかのパターンがなさ過ぎた。メジャーか、メジャーでないか。大手の事務所に所属しているか、していないか……そういうことが大きすぎたんです。もっといろんな選択肢があっていいと思う。これはCDに限らない問題で、書籍はもっとひどいですよね。出版しても半分くらいの返本を抱えてしまう。でも「we fan」だとある程度の必要数が見える。それでどれくらいの費用で作ればいいのか、というところが読めるわけです。無駄を省くことで全体のペイラインが下がって、アーティストにとっては活動の幅が広がると思います。アーティストの中にはどう活動していいか分からない人もいますが、そうやってフレキシブルに相談にのってあげることもできるので、事務所に所属しなくても音楽で生活ができやすくなりますよね。そしてアーティストが直接ファンを増やして活動を広げて……それが本来あるべき姿かなと。自分で活動を管理できるから、基本的にはやろうと思えば何でもできる。音楽活動をするということ自体が、新しい次元に入っていくんじゃないですかね。

ーーそのような新しい時代がくるということは、どれくらい前から予見していましたか。

大谷:10年くらい前かな。最初から、そういう時代が来ると思ってやってますけどね。ちょうど今日(取材日は3月18日)が25年前に僕が会社を登記した日なんですよ。

ーーおめでとうございます!

大谷:ありがとうございます(笑)。まあ、そこからですよね。世の中ちょっとおかしいんじゃないか、というところから会社を始めたので。

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