『SHE’S ONEMAN TOUR FINAL「She’ll be fine -chapter.0」』レポート

SHE'S、可能性に満ちたスーパーノヴァの登場 メジャー発表ライブでシーンの潮目の変化を見た

 高速BPMと4つ打ちビート、そして性急に多くの要素を1曲に詰め込んだ、いわゆる“フェスで強みを発揮する”バンドの寡占状態から、ブラック・ミュージック寄りのグルーヴが特徴的なバンドが台頭するなど、バンドシーンの潮目の変化は明らかに2015年中盤から、熱心なバンドフリーク以外でも感じ取れていたことかもしれない。が、この日のSHE'Sのライブほど明らかにネクストウェーブを見たライブはなかった。シーンのトレンドと、結成当時の5年前はもちろん、ここ1〜2年さらに意識的に距離を置いてきたSHE'Sが、その隙間を狙うのではなく、シーンのど真ん中に打って出る鮮やかな助走を見たのだ。

井上竜馬(Key./Vo.)

 3rdミニアルバム『She'll be fine』のリリースツアーであり、自主企画でずっとタイトルとして冠してきた「chapter」が今回は“0”であることは、このシリーズの一旦の終了を意味していた。それは、既にアナウンスされている通り、この日のアンコール前に、6月8日リリースのシングル『Morning Glow』で、Universal Music Virgin Musicからメジャーデビューを発表したことにも繋がっていたのだ。

 満員のクアトロのフロアを占めるのは大半が若い女性。しかも学校やオフィス帰りとおぼしきノームコア系ファッションーーつまり普段の渋谷や新宿で見かける女の子のそれ。ディッキーズのハーフパンツにバンドT女子は見たところ皆無(バンドTの人はもちろんいるにせよ)。暴れることを目的にライブに足を運んでいるわけではないことが分かる。ただし、ステージに送られる視線の熱さは反比例。颯爽とステージに現れた4人への嬌声の大きさに期待度と人気のほどが伺える。

服部栞汰(Gt.)

 この日のオープナーはアルバムと同様の「Un-scienece」だったが、井上竜馬(Key./Vo.)の弾く雨だれのようなピアノに重なるストリングスのシーケンス、そしてバンド一丸になって踏みしめるようないい意味での重さのあるアンサンブルが、音源とは桁違いに大きなサウンドスケープを描く。他のレパートリーでもそうなのだが、20代前半の日本のバンドでここまで直感的にコールドプレイや、時にマムフォード&サンズ辺りを想起させるバンドがいただろうか? かと思えば、広瀬臣吾(Ba.)と木村雅人(Dr.)がラウドロックもかくやという図太いビートを叩き出すアップチューン「Just Find What You'd Carry Out」への振り幅も鮮やかだ。しかし、飽くまで井上の「歌いたい」という心情が喚起するメロディがバンドを牽引しているのだろう。物理的にはかなりの爆音だが、残るのは飽くまでメロディをさらに輝かせるためのグルーヴだ。テンポが上がっても、静かにグルーヴに身を任せ、光に向けて手を上げるフロアのリアクションが、演奏に対する自然なリアクションであることも、逆に新鮮だった。

広瀬臣吾(Ba.)
木村雅人(Dr.)

 とは言え、さすがに大阪のバンド。国境を超えるスケールを見せつつ、MCとなるといきなり若手お笑い芸人もかくやなやり取りを見せるのもギャップ萌えに弱い今の女子ゴコロを否定できない。満員のフロアを「大阪弁やと”パツパツ”っていうけど、東京では言わへん?」という井上の振りを受け、メンバーの中では少しふっくら目の服部栞汰(Gt.)がツアーを経て痩せたかどうか? について、フロアから「パツパツ!」と声が上がって大爆笑、なんて一場面も。そういう部分では笑いのリテラシーも高くて楽しいのだ。

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