スガ シカオの新作『THE LAST』全曲解説 柴那典が“剥き出しのアルバム”を紐解く

 1月20日にリリースされるスガ シカオの6年ぶりのニューアルバム『THE LAST』。先日は作家・村上春樹が同作にライナーノーツを寄稿することが発表されるなど、大きな注目が集まっている。そんな中、リアルサウンドではこれまでスガ シカオの『THE LAST』における分析を続けてきた柴 那典氏による、アルバム全曲解説を掲載する。(編集部)

スガ シカオ - New Album 『THE LAST』 SPOT

1.ふるえる手

 アコースティック・ギターの弾き語りからアルバムは始まる。〈いつもふるえていた アル中の父さんの手〉という言葉がとても印象的だ。2002年に亡くなった、スガ シカオの実の父親のことを歌ったこの曲。デビュー前、彼の父親は病に倒れている。極貧生活の中、昼は父の会社を手伝い、夜は一人引きこもって作曲を続ける毎日を送っていたのだという。そんな日々のことを歌ったこのフレーズが、ドラマティックなストリングスに乗せて響く。〈”ぼくが決意をした日 “やれるだけやってみろ“って その手が背中を押した ”何度だってやり直せばいい“〉。アルバムのラストに収録された「アストライド」と対応し、スガ自身の生き様そのものを示すようなナンバーから、アルバムは幕を開ける。

2.大晦日の宇宙船

 続くのは、どこか不穏でザワッとした感触を持った曲。エレクトロ・ビートとシンセから始まった楽曲は、爆音のアグレッシヴなサビに突っ込んでいく。派手なビートとビッグなリフに乗せて〈みんな騒げ〉〈みんな踊れ〉と煽る。横ノリのグルーヴで、大晦日のカウントダウンに騒ぐ街を描写する言葉と、不安を駆り立てるようなフレーズに乗せて〈知らない間に 猛毒のパレード 静かにはじまってる〉という言葉が行き来する。ライブだったら間違いなく盛り上がるだろうし、ヘッドホンで聴いても深みを感じられる一曲だ。〈平和という白い毛布の中で誰か 幼稚な子供みたいにオシッコ漏らしやがった〉という一節が耳に残る。

3.あなたひとりだけ 幸せになることは 許されないのよ

 CLAMPとのコラボムービーも公開されたこの曲は、マンガ『xxxHOLiC』の軸となっている「対価」というテーマをスガなりの世界観で描いたもの。強烈なのはAメロ部分のサウンドだ。単純な8ビートや16ビートではなく、シンセベースにあえて3連符を多用し、ねっとりと粘性を持ったグルーヴを作り上げている。ポップスの常道から言うとかなり気持ち悪いアレンジなのだが、そこを中毒性ある聴き応えを持ったナンバーに仕上げているのがスガ シカオの手腕と言っていい。

スガ シカオ×CLAMP 「あなたひとりだけ 幸せになることは 許されないのよ」MUSIC VIDEO

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