ななみが最新作&路上ツアーを経て考えたこと「昔の自分に喝を入れられてる気がした」

ななみが新作を経て気付いた“初期衝動”

 愛を唄うシンガー・ソングライター、ななみ。デビューから1年が過ぎ、彼女の中では早くも次の段階へ行こう、もっと新しい自分を追求していこうという意志が強くなっているようだ。デビュー・アルバム『ななみ』から半年ぶりにリリースされるミニアルバム『Lovin’ you あなたと繋がる6つの方法』では全6曲のすべてで異なるアレンジャーを起用し、ロック、R&B調、それにバラードと、歌とサウンドの面での拡張を指向している。かたや彼女は今年の半分の期間を路上での弾き語りライブ・ツアーに費やしていて、おそらくそこで体験したものも身についているはず。取材のたびに明るく、オープンになっていく雰囲気は今回も同様だった。歌の背景も自分の今も、包み隠さず語ってくれたななみだった。(青木 優)

「イヤな大人になってたなって、パッと目が覚めた」

ーーかなりバラエティに富んだ楽曲が入ってる作品ですが、どういう考えがあってこういうアプローチにしたんですか?

ななみ:5月にフルアルバムを出して、そこで「いろんなことをしたいのが自分の色なんだ」というのを受け止めまして。それまでは「これをやる!」という自分の強みを見つけたかったんですけど、いろんな曲を書きたいということに気づいたので、だったらやっちゃおうと。もう開き直ったというか。だから「いろんなことができるんだ」ということを全面的に出しました。

ーーそれは1stアルバムを作ってみて気づいたことだったんですか?

ななみ:そうですね。「自分のキャラぶれみたいなことになってないかな?」と思ってたんですけど、でも「曲を作る人間としていろんなことができるのは悪いことじゃない」と思うようにして。まあ私のことをよく知らない人からすると「こんな曲も書くんだ?」みたいなところはあるかなと思いますけど。

ーーそうですね。ただ、1stアルバムを聴いた人には、その免疫はできていると思います。

ななみ:(笑)免疫! ななみ病の免疫ですね。かかるとやっかいですよ?

ーー(笑)だから今回はそれを突き詰めている気がしますね。それぞれの曲を書いた時期はいつ頃ですか?

ななみ:「Lovin’ you」と「僕らの糸」は中3ですね。「花の色」がデビュー前で、あとの3曲は今年に入ってからです。だから自分の中では曲たちにも歴史があるというか。「Lovin’ you」は初めて曲を書くようになって、その2曲目に作った曲ですからね。お父さんへの気持ちが詰まってます。会いたい!っていう。

ーーああ、「Lovin’ You」はお父さんへの思いなんですか。その時期は、お父さんとはどんな関係だったんですか?

ななみ:中2の頃に両親が離婚して、ちょっと落ち着いて、「やっぱりお父さん好きだな」っていうぐらいの気持ちかな。離婚した時は「ひどい! 家族を裏切った!」「何で別れるの?」みたいな気持ちがあったんですけど、1年経って、お母さんの味方もできるようになって……でも「お父さん、ひとりしかいないんだな」っていう気持ちというか。で、それは恋愛ソングとしても書けるし、「ありがとう」という気持ちもあったので。

ーーそうですね、普通に聴くとラブソングと解釈しますよね。これは。

ななみ:うんうん。でもお父さんへの気持ちという意味で聴くと、変わってきます。たぶん。

――僕の身近にも離婚した家族がいて、そこの中学生の娘さんが強がって「大丈夫だよ」みたいな顔をしてるんですが、「大丈夫じゃないんじゃないかな」と思って見ています。

ななみ:ああ、でも強がることが、たぶんその子にとって自分を助ける方法なんだと思います。それがその子が唯一、現実から逃げられる、目をそむけられること、みたいな。ほんとは泣きたいけど、泣いちゃったら現実を認めちゃうことになるから、強がってるんじゃないでしょうか。

ーーそこは経験者だけに、理解できるところなんですね。この曲はピアノを弾いている鶴谷崇さんのアレンジですね。

ななみ:そうですね! デビュー前のコンベンションライブからずっと一緒にやってる、信用している鶴谷さんです。思い出のある曲だし、鶴谷さんは精神的にも私と似ているところがある……すごく優しい方なので。あ、私が優しいって言ってるわけじゃないけど(笑)。

ーーどういうところが似てると思うんですか?

ななみ:正義を信じてるところとか、すごく似てますね。一緒にいても落ち着くし、すごく信用しているので、大事な曲を託したいなと思いました。

ーーわかりました。「僕らの糸」も、これと近い時期に書いたんですか。

ななみ:そうですね。この曲を書いた、その時の気持ちは恋だったんですけど、でも今は愛かなと思うので、ちょっと壮大なアレンジにしました。『ゲド戦記』のアレンジとかをされてる寺嶋民哉さんにお願いしました。

ーーしかし中3の頃の歌詞で<糸>という表現を使ってたんですね?

ななみ:そうですねえ(笑)。全然、中島みゆきさんの「糸」を知ってた年代でもないんですけど、今思うと、かぶってるなあと思いますね。

ーーあれは深い曲ですよね。この歌詞で、鼓動を<こどう>とひらがなで書いてるのは何でですか?

ななみ:ひらがなのほうが愛があるじゃないですか? 柔らかくて、丸いものだなと思って。「I’ll wake up」(1stアルバム『ななみ』収録)とかの<鼓動>は漢字でいいと思うんです。カッコいいから。でもこういう曲はひらがながいいなと。

ーーあと、この曲や、あとでまた触れますが「CHASER」ではR&Bやソウル的な唄い方をしていますね。

ななみ:ああ、そうですね。それは自分のやりたいところがすごく出てますね。

ーー「僕らの糸」の次に書いたのが「花の色」で、デビュー前ということはハタチくらいですか?

ななみ:それぐらいです。「これを書いたデビュー前は地位も名誉もいらないと思ってたんだな」と思いました。で、デビューして、この曲をレコーディングして、チェックしてた時に……その時の私がめちゃくちゃ地位と名誉を欲しがってたんですよ。というか、欲しがらなきゃいけない状況というか、結果を求めなきゃいけない時期で、「地位も名誉もいらないなんてキレイごとだな」って思ってたんです。でもそう思ってたのに、この曲を聴いた時に、昔の自分に喝を入れられてるような気がして……。たった1年経って、そんなふうにマヒしちゃったっていうか、イヤな大人になってたなって、パッと目が覚めた。初めて自分の曲に何か言われた気がしましたね。だから、またイヤな大人になったら聴こうかなと思って(笑)。

ーーべつにイヤな人間になったわけじゃないんでしょ?(笑)

ななみ:いやあ、でも1年経って……知らなくていいこともたくさん知ってしまったので。それを知った時はイヤだったけど、一周して、また新しく夢を持った少女に戻れたので。うん……人間、そうやってくり返していくんだなあって思いました。

ーー自分の歌に気づかされたんですね。で、2曲目の「CHASER」からの3曲が今年の曲なんですね。

ななみ:そうですね。「CHASER」は……こういう感じの恋愛ですよ(笑)。1stアルバムに入れた「許されざる愛」と同じ系統です。片思いって、女性が一番キレイになれると思うんですよね。両思いよりも。両思いだと「ふたりでキレイになっていこう」感あるけど、片思いは相手がどうであろうが、彼女いようが奥さんいようが、好き!キレイになる!振り向かせる!って、自分にとってプラスになることしかないじゃないですか? まあキズつくことはあるにせよね。女性がそういう間にいる時に聴ける曲を作りたかったんです。で、それは決して悲しいもんじゃないなと思って。歌詞は、すごく振り回されてるんですけど、でも相手の魅力的なところをセクシーな感じで表現しました。

ーーそうですね。この曲には妖艶な感じがありますね。

ななみ:そう! 妖艶な感じがね……妖艶、大好きなんですよ(笑)。私、片思いでも「う~ん、もうキュンキュン♡」みたいじゃないんですね。むしろ「この片思いを利用してキレイになろう!」ぐらいの気持ちで、いつも強くなるんです。あと、コロコロされてる側だけど、実はしてる側かもしれないし、という曲でもあります。女性には強くなってほしいなと思いますね。

ーーそういう感情と唄い方とこの音がすごく合ってますね。

ななみ:アレンジャーの方(岩崎隆一)が私と同じ歳なんですよ。この曲は若い方に頼んで、EDMとか最近の洋楽のリズムを入れてもらいたいなというのがあって。それで打ち込み系の音も入れてもらってます。

ーーたしかにそういうアレンジになってますね。次の「ノイズ」は?

ななみ:「ノイズ」は家族崩壊の歌ですね。「食卓に座ってご飯を食べると、毎晩ずっと家族でご飯を食べた記憶が私の邪魔をしてる」みたいな記憶から作った曲です。お母さんと歩いた道とか、家族で食べたビーフシチューとか、そういう記憶があるから前を向けない、みたいな。昔がすごく幸せだったぶん、今が幸せじゃないことが悲しい、という気持ちなんです。それが砂嵐のようなノイズというか……残像が邪魔をしてる、みたいな曲ですね。

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