「97世代」が音楽を豊かにするーー降谷建志、TRICERATOPS、GRAPEVINEのアルバムを聴く

絶好調、97年組の生き残り

 Dragon Ashがメジャーデビューを果たした1997年の音楽シーンにおいては、小室哲哉ブームがいまだ続く中において「ロックバンドへの期待感」が確かに存在していたように思える。Mr.Childrenとスピッツのセールスがモンスター化し(ミスチルはこの年の3月で一旦活動を休止)、さらにはウルフルズ、THE YELLOW MONKEY、JUDY AND MARYといった面々のブレイク。今となってはレジェンド的な位置づけの顔ぶれがひしめく90年代半ばにおいて、たくさんの若手ロックバンドが表舞台に登場した。そんな97年デビュー組において今でも第一線で活動を継続しているバンドの代表格がDragon Ashであり、そしてTRICERATOPSとGRAPEVINEである。

 Dragon Ashが初期衝動的な音を鳴らしながら強面な感じで登場したのに対してこの2つのバンドの佇まいはいたってカジュアルだったが、一方でその音楽的バックグラウンドにはある種の「渋さ」も合わせ持っていた。ビートルズなどのスタンダードなロックを下敷きにしながら、3ピース編成でディスコビートを大胆に取り入れた「Raspberry」でデビューしたTRICERATOPS。また、マーヴィンゲイの曲名からとったバンド名の通り、GRAPEVINEの音楽には単にキャッチーなだけではないブラックミュージック由来の粘っこさが包含されていた。

 同期でもある降谷建志が初のソロ作で新境地を示したように、この2つのバンドも今まさに「脂の乗り切った状態」にある。それを端的に表しているのが、昨年末にリリースされたTRICERATOPS『SONGS FOR THE STARLIGHT』と今年1月リリースのGRAPEVINE『Burning tree』である。

 オリジナルアルバムとしては約4年振りのリリースとなったTRICERATOPS『SONGS FOR THE STARLIGHT』は、ロックとしての迫力とポップスとしての完成度が共存している作品である。印象的なギターのリフのイントロからベース主体のAメロに流れる展開とサビのキャッチーなメロディが「これぞトライセラ!」という感じのロックナンバー「スターライト スターライト」、BPMが速くなくても腰を揺らしたくなってしまうスイートな「PUMPKIN」などバラエティ豊かな収録曲からは、昨今では単に元気に盛り上げるだけのものを指すようになりつつある「踊れるロック」という概念を改めて定義し直すかのような気概が感じられる。

 GRAPEVINE『Burning tree』は、掻き鳴らされるギターとサビで炸裂するシャウトが気持ちよい「empty song」やトリッキーな展開の「MAWATA」など、ここ数作においても特に開放感のある楽曲が並んでいる。複雑なアンサンブルを挟みながらも「せわしない」「ごちゃごちゃしている」といった要素を微塵も感じさせない雄大なサウンドプロダクションは、一朝一夕に真似できるものではない。

 降谷建志『Everything Becomes The Music』、TRICERATOPS『SONGS FOR THE STARLIGHT』、GRAPEVINE『Burning tree』。昨年1月にリリースされたDragon Ash『THE FACES』も含めて、最近の「97世代」の作品にはここまで積み上げたキャリアに安住しない瑞々しい魅力が詰まっている。年輪を刻みながらもどんどんピュアになっていくかのような彼らの年の取り方は、ロックミュージシャンとしての理想的な姿なのかもしれない。

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